Cannabis sativa L.(大麻,以下アサ)は,繊維,食品,医薬品など多様な用途のために,古くから人類に利用されてきた最古の栽培植物の一つである.日本では,神事や祭礼における清浄の象徴として尊ばれ,文化の根幹を支える神聖な植物として扱われてきた.三重大学では,日本におけるアサ研究の学術拠点形成を目指して「神事・産業・医療用大麻研究センター」を設立し,育種や栽培に関する基礎研究を推進している.アサの栽培や生物資源としての活用を進めていくうえでは,内生菌をはじめとした共生微生物の多様性や生態的機能の理解が重要だが,日本産アサにおけるこれらの知見はほとんどない.
本研究では,日本におけるアサ内生真菌群集を明らかにする目的で,表面殺菌法とDilution-to-Extinction法によりアサの異なる生育段階間および雌雄間で葉内生真菌を比較した.宿主の栄養成長期と花芽形成期の2つの生育段階の葉から63株の真菌類が分離された.同定された分類群のうち,Colletotrichum sp. 1,Rhodosporidiobolus sp. 1,Alternaria sp. 1,Exophiala sp. 1,Phyllosticta sp. 1の5種が0.1%以上の高い出現頻度を示した.優占種の構成,分離頻度,種の多様性は生育段階によって異なる傾向がみられ,内生菌群集が宿主の生理条件や季節変化の影響を受けて変動している可能性が示された.雌株と雄株で共通して得られた菌が4種あった一方,雌株もしくは雄株のみから得られた菌がそれぞれ4種あったことから,雌雄間で内生菌相が異なっている可能性が示唆された.本研究では,日本のアサ葉内生真菌群集に関する定性的な比較を行ったが,今後の定量的調査のためには分離方法の改善が必要である.
図.三重大学構内の圃場で栽培されているアサ
図.花芽形成期の雌株(F1,F2)と雄株(M1,M2)から分離された葉内生真菌種組成のベン図
Nakagawa T., Yamamoto Y., Shirouzu T.
Comparison of leaf fungal endophytes between growth stages and sexes of Cannabis sativa at an experimental field of Mie University, Japan.
The Bulletin of the Graduate School of Bioresources Mie University, 51, pp.11–20, 2025
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