Combined molecular and morphological data for improving phylogenetic hypothesis in Dacrymycetes

 木材を分解するきのこ類は森林生態系の重要な分解者であるが,その種多様性や生態的機能についてはほとんどわかっていない.

 本研究では,木材腐朽性きのこ類の一群であるアカキクラゲ類の詳細な系統解析と,形態の多様化過程を推定した.まず,複数遺伝子に基づく系統樹を構築し,これまで分類学的に重要視されてきた形態形質の多様化過程を推定した.その結果,進化の過程で変化しやすい形態(担子器果と担子胞子の隔壁数)と変化しにくい形態(担子器 [用語解説]とクランプコネクション)があることが示された.この観点から従来の分類体系を見直し,特に高次分類群の形態的定義に齟齬が生じることを示し,その解決方法について論じた.

 また,アカキクラゲ類としては例外的な形態を持つ Dacrymyces unisporus が系統樹上で他のアカキクラゲ類と姉妹群を形成した(図1).本種は,1944年にアメリカのノースカロライナ州で発見され,新種として報告されたものの,子実体(きのこ)が非常に小さい(1 mm以下)ため再発見されることは稀であり,これまでほとんど研究されてこなかった.光学顕微鏡にて本種の形態を観察したところ,二又分岐しない担子器と球形の担子胞子という,アカキクラゲ類としては非常にユニークな形態を持つことが再確認された.さらに,電子顕微鏡により菌糸隔壁孔の微細構造を観察したところ,たる型孔隔壁とそれを覆う無孔のキャップ構造を有することが分かった.このことから,本種は他のアカキクラゲ類と比べ,光学顕微鏡レベルではユニークな特徴を有するが,電子顕微鏡レベルではアカキクラゲ類としての典型的な形態を有することがわかった.

 これらの結果から,Dacrymyces unisporus はアカキクラゲ綱の一種として扱うのが妥当であるが,形態的にも分子系統的にも独立したグループとすべきであると結論した.これを受けて,本種を新属 Unilacryma に転属するとともに,新目 Unilacrymales (uni-lacryma は「一粒の涙」という意味のラテン語)を提唱し,このユニークなアカキクラゲ類を所属させることが妥当であると判断した(図1).

図1.アカキクラゲ類の系統樹

 今回,新目に含めた Unilacryma unispora は,不思議なことに,木材腐朽菌であるアカキクラゲ類にあって腐生能力が低く,木を分解する担子菌類の進化を考える上で興味深い系統である.これまでほとんど注目されてこなかったが,実は木材腐朽性きのこ類の進化を考えるうえで重要な系統を再発掘したという意味でも,今回の新目記載はよい情報発信になると考える.


【用語解説】担子器

担子菌類が有する胞子を形成するための細胞で,綱や目レベルの高次分類で重視されてきた形態(図2).

アカキクラゲ類では通常二又に分かれた担子器を作るが,今回見出された新目は二又に分かれない一本の担子器を作ることで特徴づけられる.

図2.担子菌類にみられる様々な担子器

Shirouzu T., Hirose D., Oberwinkler F., Shimomura N., Maekawa N., Tokumasu S.

Combined molecular and morphological data for improving phylogenetic hypothesis in Dacrymycetes.

Mycologia, The Mycological Society of America, 115, pp1110–1125, 2013

Abstract