絆を解いて民族大移住時代が来る
           伊達美徳   2012.04.01

●今や神戸は一番安全な大都市
 古希になったばかりの友人が、半世紀住んだ東京の住まいをたたんで、特に縁がある土地でもないのに、神戸に移住するという。聞けば、これまでとは違う環境で、これまでとは異なる生活をしてみたいのだそうだ。
 わたしは高齢者に数えられる年齢になったときに、4半世紀過ごした鎌倉から、横浜都心に移った。でも、鎌倉に移る前には横浜郊外に住んでいたから、友人のように東京から縁もない神戸への差には及びもつかない。
 ご当人の動機はともかくとして、これはなかなか素晴らしい移住先選択であると思う。そう、神戸は、日本では今もっとも地震に安全な大都市であるのだ。
 まず、1995年の阪神淡路大地震から考えて、確率的には当分の間は(少なくとも生きている間には)大地震は来ないだろう。
 そしてまた、いま話題沸騰の近未来に起きる本州南の太平洋側の大地震と大津波の被災予想地域から外れている。

●背中を押された移住社会

 3・11震災と核災(「核災」はわたしの造語で、原発事故による放出核物質被害のことで、核物質は「核毒」ということにした)から今日まで、被災地から多くの人々が他に移住している。
 総務省統計局によると、東日本大震災から1年となる2011年3月~12年2月期における岩手県,宮城県及び福島県の転出超過数の合計は4万1216人で,4万人を上回るのは1970年以来41年ぶりとある。
 それは被災、避難という事件のなせる状況ではあるが、一方では、それよりも前から災害のあるなしに関係なく、人口減少日本社会で起きていた人口移動の傾向が、災害によって10年か20年分くらい早く来るように後押しされたともいえる。
 被災地の人口移住は、これからも続きそうだ。それは原発核毒で住めない地域からの集団あるいは個人的移住が典型的だろうし、津波被災地から高台や都市部への移住もある。
 なんにしても、震災移動と人口減少に起因する社会再編のための自発的移動とが、互いにアクセルをかけあうだろう。

●危険不感症のおそれ 
 このところ、あれやこれやと地震や津波あるいは降り注ぐ核毒の、地域的状況を示すハザードマップが、次々に公開されてくる。それもだんだんと被災度合いが高く、広くなってくる。
 3・11震災からどうもタブーが外れたらしい。
 以前はハザードマップ(危険地図)は不動産価値を下げるという、どこかからの横槍があったのかもしれないが、役所は持っていてもおずおずと出していたようだ。たとえば水害で死人が出ると、実はこんなのがありますと出してくる。
 それが3・11震災・核災がおきて、さすがにこれだけ広範囲にこれだけの人が死ぬと、積極的に堂々と危険地図が出てくるようになった。土地持ちも価値が落ちるなんて言っていられなくなった。
 それはもちろんよいことだが、何度も同じようなのがあちこちから出てくるので、どれが正しいのかわからなくなってきた。もっといけないのは、毎度毎度見ていると、危険不感症になることだ。

●加速する中高年移住
 このところ発表される各種の大地震日本危険地図を見ていて、さてどこに逃げて移住しようかと見つめても、それほどラチがあくものでもないのは、日本列島どこもかしこも地震鯰と核毒鰌の棲家と隣りあわせらしいからだ。
 古希を過ぎたわたしは、もうそれほど人生長くもなし、どこにいても大なり小なり被災するならもう今の横浜都心隠居でいいやと、神戸に移住する友人とは違って、それほどでもない覚悟を決めるのである。
 だが、わたしのようなものはそれほど多くはないだろう。地震核毒列島を眺めて少しでも安全そうなところに移りたいと思う人のほうが多いだろう。経済的に可能ならすぐ移るだろうし、すぐに可能でなくても次はどこそこへと考えるだろう。
 なにしろ、人口減少と超高齢日本は、生活圏の再編成のために必然的に人口移住を避けられない状況にあり、その社会状況と災害避難による人口移住現象とがドンピシャ重なってしまったのだから、これはもう民族大移住時代の到来である。
 厚生労働省の調査では、震災前の人口移住(厚生省は移動といっているが、一時的な移動ではないのでわたしは移住ということにする)は若い人が多いのはもちろんだが、中高年層の他地域への移住が次第に増えている傾向があった。それが震災後は、若者はもちろんだが、中高年層の移住が加速するだろう。

●移住支援政策を
 さて、問題はその人口移住という社会現象を、政策として対応することができるだろうかということである。
 すくなくとも今は、人口移住を都市や地域政策として対応はしていないようだ。
 他に移住して地域を出て行くための支援政策は、過疎集落とかダム水没地とか震災被災地とかの、なにかやむをえない事情による集団移住施策はあるが、それは例外政策であるらしく、地域活性化とか地域再生とか人口定着政策ばかりをやっている。
 しかしそのいっぽうで人口流出を止められないのは、現実に見るとおりである。現実に進行している人口流出に対応して、それを適切に促す政策は聞いたここがない。
 出て行く人は地域再生の裏切り者だから、自己責任で生活再建せよって政策である。だが、これだけ多くの人が次々と出て行かざるをないのは、それなりの社会的な理由があるのだ。なぜ政策的に支援の手を伸べないのか。

●国土政策になる移住問題
 ここに興味深いことがおきようとしてる。
 2012年03月20日の朝日新聞に、東海地震などによる津波被害が心配されている沼津市内浦重須(おもす)地区が、高台への集団移住を模索中という記事がある。
 被災が十分に予想される地区の高台への集団移住構想である。だが、まだ被災していないから集団移住への政策的な支援はないということが問題であるそうだ。
 これは新たな政策を生み出すかもしれない。
 それはもう日本列島の太平洋岸の大都市から小集落まで、それらはいずれも内浦重須地区とまったく同じ津波被害の必然性を備えているところはゴマンとあるから、どこもかしこも集団移住したいとなったら、これは三陸海岸地域どころではない膨大な事業となり、国土政策にならざるを得ないからだ。
 集団だけではなく、個別移住も政策的な対応をするべき時代が来るに違いない。来てほしい。

●絆を解いて
 現実的にはその移住がどこまで拡大実行になるかは疑問だが、なにしろ命にかかわるのだから、どこでも真剣なる話題になるに違いない。いちはやく逃げ出す人々もいるだろう。
 太平洋岸エリアの各地で話題になれば、これからの日本社会の生活圏の大移住問題が、明確に政策俎上に登るに違いないとおもう。それは防災の視点だけではなくて、超高齢社会のコミュニティ再編成が基本となるはずであるし、そうでなければならない。
 ようやく、人口定着一点張り政策(言い換えると絆一点張り政策)から解き放たれて、人口移住政策が重点になる時代が来るであろうと、おおいに期待している。
 いま気になっているのは、東日本震災地域での移住が成功しないと、太平洋地域での移動はもっと難しいだろうということである。予想していながら起きてしまった災害で、人柱が建ってからでは遅いのである。
 大規模流通業者や不動産業者の資本の論理で、移住政策が動かされたり阻害されてはたまったものではない。土地利用の適切な規制策を発揮し、計画の策定と事業の推進への支援策の充実が重要だろう。

●参照→地域を閉じる http://homepage2.nifty.com/datey/tiiki-syukutai.htm

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