今度は武器や防具の材質について考えてみます。
武器が鉄(鋼)製というのはいいでしょう。勿論軽くて強い魔法金属なんてものが使えればいいんですけどね。そんなものがいっぱいあったら世界が変わってしまうので今回の議論対象からは外します。となると中世の技術レベルではやっぱり鉄。
ただ注意しなければいけないのは、
鉄の武器だって壊れるときは壊れる
ことです。堅い敵を相手にしたり、つばぜり合いを繰り返したりしていると鉄の武器だってそうそう持ちません。とはいっても戦わないわけにはいかないので、 予備の武器は冒険者の必需品です。特に刃渡り15~30cm程度のナイフ(刺突用のものはダガー(dagger)と呼ばれることもある)は一人一本、必ず 持っていきましょう。最小限のサバイバルツールです。
問題なのは防具の方。「こっちも鉄でしょ?」とつい言いたくなります。実際私達が中世の鎧としてイメージするものは渋く銀色に光る鉄製。どうもこれ は当時の人も同じだったようで、中世ヨーロッパの武人(騎士と言った方が早いか)は随分鉄にこだわったようです。光り輝く姿というのはかっこいい上にキリ スト教が好みますし、更に中世を通じて騎士は「完璧な防御」にこだわったようで、鎧の発展は大雑把に
チェイン・メイル(chain mail)の全身化→鉄板を用いた装甲の追加→全身鉄板のプレート・メイル(plate mail)
となってまして、結構早いうちから騎士は全身を鉄で覆っていました。
ところが、冒険することを考えると鉄の防具というのは不利です。戦闘は見ていてもかっこいいですが、冒険者は戦闘ばっかりやってるわけじゃありませ ん。冒険活動の大半は「移動」に属する行動です(コンピューターRPGは異常)。何日も森や荒野のまっただ中を歩き回ることもあれば、危険なダンジョンの 狭い足場を飛び石伝いに行くこともある。歴史上の鉄の鎧も動きの妨げにならないように工夫が重ねられていますが、それでも重さは数十kgありますからね。 とてもじゃないけど軽快にジャンプなんかできないし、一日歩きづめというのも苦しいでしょう。
更にこの「完璧な防御」というのも通常の武器による攻撃を対象にしたものですからね。魔法やブレスによる攻撃を受けたときはやっぱり避けるのが一番。となると冒険者に重い鎧は向かないわけです。
更に更に、夜、野宿することを考えてみて下さい。金属の鎧なんか身につけたまま寝ようものなら朝方冷え切った金属が体温を奪い、ほぼ確実に風邪引きます。かといって鎧を脱ぐと、改めて鎧をつけるにはかなりの時間がかかる。急な敵襲には鎧なしで対応する覚悟がいります。
なら防具なんかつけない方がいいのか…というと、そうともいいきれない。全ての攻撃を避けきれればいいんですけどね。まあ、非力な人は避ける方を重視した方がいいとは思いますが、敵の攻撃を正面から受け止めるファイターは鎧なしではやってられませんよ。
実は、もう少し広く歴史を見てみると、冒険者に適した防具の素材というものが存在します。RPGではよく「ハード・レザー」と呼ばれますが、動物の 皮革をタンニンを多く含む植物から煮出した液を用いて煮込んだものです。現在では余り見かけませんが(皮ジャンの皮は「ソフト・レザー」でしょう)、馬の 鞍なんかは現在でもこれに近い材質でできてますね。
これが軽くて加工しやすくて、しかも結構堅い。何枚か重ねると鉄にも劣らない強度を発揮します。日本では皮革を膠水に浸し、重ねて漆でコーティング した「練革(ねりかわ)」というものが、鎧の主要な素材として鉄と共に用いられていました。まあ、加工のしやすさの裏返しとして「削る」ような攻撃には弱 いのですが、どうせ鎧も消耗品、一回かそこら命を救ってくれれば儲けたもの、壊れたら取り替えればいいんです。鉄の防具より安いしね。
こういう素材がもっとRPG界で見直されてもいいと思うんですが、コンピューターRPGの方はついつい強くて派手な方に目が行くから、皮革なんて使 うのはせいぜい初期の段階、あとは鉄だ~魔法の防具だ~となっちゃうし、しかも西洋人は鉄の防具が趣味みたいだし、更に更に皮革の防具は腐っちゃって非常 に現存しにくいのが「皮革離れ」に拍車をかけてます。残ってないからどういうものが使われていたか推定しにくいんです。
でも皮革加工の歴史は古いですからね。製造の技術自体は石器時代当たりで既にほぼ確立していたようですから、ファンタジー世界では冒険者による需要があれば製造はできるでしょう。これはお勧めですよ。鉄ほど冷えないし(場合によっては保温効果も期待できるかも)。