大洗女子学園と大学選抜との試合を、残存戦車数の推移からいろいろ考えてみます。
○-○の数字は、頭の方が大洗女子学園側、最後の方が大学選抜側です。
また、これを書いた時点では、劇場版は15回程度観賞していますが、DVD・BD等は発売されておりませんので細かい検証はできず、特に時間的な前後などの誤りがあるかもしれません。気がついたらできるだけ訂正します。
試合前の時点で、8-30
試合直前に、他の高校からの大幅増援。30-30
アズミ中隊の突破に対して突撃した知波単部隊のうち、新旧チハ一両ずつ被撃破。28-30
カールの砲撃が(ほぼ)直撃して、パンターG型2両が被撃破。26-30
T-34/85・IS-2・KV-2がカチューシャに対する時間稼ぎのため被撃破。一方でIS-2はパーシング2両を道連れに。23-28
どんぐり小隊がカールを撃破。護衛のパーシング3両も継続高校のBT-42が撃破(うち1両は半分事故に近いですが…)。一方でBT-42も相討ちの形で被撃破。22-24
戦場が遊園地跡に移動。劇中でもこの時点で、優花里と沙織が残存車両数を確認している。
大学選抜側の正門陽動部隊4両を、防衛側のティーガーI・II・T-34/85で逆襲してパーシング3両を撃破。チャーフィー1両のみ逃走。22-21
西門を突破した部隊を知波単部隊が待ち伏せし、パーシング1両を撃破。22-20
通用門を突破されて脱出中の聖グロリアーナ+応援部隊において、ポルシェティーガーとファイアフライが、パーシングを1両ずつ撃破。22-18
ここで大学選抜側の包囲が完成するが、ミフネ作戦により脱出。
マカロニ作戦IIに2回成功して、三号突撃砲がパーシング2両を撃破。22-16
T-34/85・ポルシェティーガー・三式中戦車が、追撃してきたパーシング3両を逆襲して全て撃破。22-13
迷路の中の追いかけっこで、四号戦車とヘッツァーが、パーシングをそれぞれ1両ずつ撃破。22-11
知波単部隊4両+89式が、パーシング2両を撃破。22-9
3回目のマカロニ作戦IIが失敗し、三号突撃砲が被撃破。21-9
知波単部隊+89式、合計5両がセンチュリオンに襲いかかるも逆襲されて全滅。16-9
ファイアフライとチャーチルの連携でT28を撃破するも、チャーチルも被撃破。15-8
M3リーがチャーフィー2両を撃破してCV33の窮地を救うも、自身もセンチュリオンにより被撃破。14-6
ヘッツァーと三式中戦車が、センチュリオンにより被撃破。12-6
サンダースの3両が、大学選抜3指揮官のバミューダアタックにより被撃破。9-6
クルセイダーとチャーフィーが一騎打ちにより相討ち。8-5
B1bisとCV33の連携(T型上下作戦?)でパーシング1両を撃破するも、どちらもセンチュリオンにより被撃破。6-4
ティーガーII・T-34/85・ポルシェティーガー・マチルダIIがバミューダアタックに挑戦。ルミ車パーシングを撃破するも全滅。2-3
中央広場の戦いで、四号戦車とティーガーIの連携でアズミ車パーシングを、ティーガーIがメグミ車パーシングを撃破。2-1
最後に、四号戦車がセンチュリオンと相討ち。1-0
驚くべきは15.終了の時点。なんと大洗側が、大学選抜側に、車両数2.5倍近い大差をつけて優勢になっているんですね。確かにこの状況では、大学選抜側の3中隊長が隊長(島田愛里寿)に泣きつくか、でもプライドが…と弱気になるのも分かりますし、その前の迷路での戦いで、ルミが要請した増援が、パーシング・チャーフィー各1両ずつだけ、という理由も分かります。TV版あたりのライバル校の感覚で行きますと、数の優位を生かして囲い込むというなら5両くらい欲しいところですが、そもそも大学選抜側に、出せる戦車がなかったんですね。
一方で、愛里寿が歌い出す直前の独り言で、大洗側を評して「決して強くないのに諦めない」と言っているので、数的に不利になっていたあの状況も、愛里寿にとってはたいした問題ではないととらえられていたようです。実際、大学選抜側の、指揮官級の強さを見せつける17., 20., 21.のところで、大洗側はなんと、合計10両があっという間に撃破されており、結果として17.~21.の間に21-9から9-6と、車両数の差を一気に詰められています。
3中隊長から見ると、集まってバミューダアタックを使えば簡単に相手を撃破できるにもかかわらず、隊長に泣きつくのどうの、という話をしているのはちょっと不自然にも見えますが、おそらくバミューダアタックを使う、ということは、彼女たちの中隊長としての役割を放棄する、ということであり、彼女たちの一存ではできない、大隊長である愛里寿の許可を必要とすることだったのでしょう。彼女たちは本来は、普通に自分たちの部下を指揮して、戦術で相手を追い詰めて勝利したかった。おそらく、そういう勝ち方が、島田千代が娘の愛里寿に指示した「西住流の名が地に落ちる」ことを意味するのでしょう。そして、愛里寿が歌い出す、ということが、そのような戦術レベルでの勝利を放棄して、個々の隊長達の強さ、及びバミューダアタックによる連携による、戦法レベルでの勝利を目指す戦い方に変更する、ということを意味していたのでしょう。
とはいっても、ミフネ作戦が成功して包囲から脱出したあとの大洗側がやっていることも、はっきり言って、各局面での戦法レベルでの勝利の積み重ねであり、戦術と言えそうなのは、せいぜいCV33をジェットコースター上に置くことによる情報の活用くらいです。大学選抜側は戦術レベルで相手を打ち負かすことをめざし、現にそれは一度包囲を成功させることで達成しかけましたが、ミフネ作戦含め、戦法レベルでそれを覆されたため、大学選抜側も最後には面子をかなぐり捨てて、戦法レベルの勝利を目指すことに切り替えた、というのが愛里寿の歌の真意、といえそうです。
遊園地跡での戦いで、包囲を完成させるまでも、大学選抜側は戦術を成功させるために苦労している跡が覗えます。陽動作戦を成功させるために、正門の陽動部隊のうちパーシング3両を8.で失っていますし、作戦を変更してからも10.でパーシング2両を失っています。作戦のために、合計5両のパーシングの損失を甘受しているわけで、この犠牲を代償に得た包囲網と主導権をミフネ作戦一発で喪失し、以降も受動的に相手の作戦にやられることを各戦線で繰り返している当たり、ミフネ作戦の意味の大きさが分かります。
大学選抜戦前半の野戦については、やはりポイントはカールと言えるでしょう。確かどこかの雑誌の、スタッフに対するインタビュー記事だったと思いますが、あのカールは文科省から大学選抜チーム側に対して、半ば押しつけるように供与したものであり、それに対する反発も込めて、愛里寿は大洗側の大量の増援をあっさり認めた、という背景があったようです。
おそらく愛里寿からしてみると、もともとの8両のみの大洗勢であれば、パーシングとチャーフィーのみで苦も無く勝てる、と考えていたことでしょう。ところがそこでカールを使わざるを得なくなった。カールだけでなく、砲兵全般は本来移動目標の攻撃には向きませんし、観測員等を使用した間接射撃の技術が必要になります。戦車砲はほぼ直接標準による射撃のみですので、いかに熟練した戦車乗りであっても、カールによる砲撃を当てられるかどうかは別の能力になってきます。勿論、現代戦では砲兵が誘導弾を撃って間接射撃で動く目標にあてるとか、戦車が間接射撃を行うようなこともあり得ますが、戦車道で使う戦車の時代にはそういうことはありません。
そこで相手の増援を認めて的の数を増やし、高地を大洗側に占拠させて、両側からの包囲で足止めしてカールで潰す、という戦い方を選んだのでしょう。射撃目標を1点だけに絞って練習すれば、命中率も上がりますし、高地なら遠くからも視認しやすいので弾着観測等もやりやすく、練度が低くてもカールを生かせる可能性が高くなります。
実際、カールによる撃破は、まずパンターG型2両、これは予定通り山頂にいる的の砲撃です。その他にクラーラのT-34/85を撃破していますが、これは追撃側のパーシングにも近く、同士討ちを招く可能性もある、危険な砲撃です。狙ったと言うより、たまたまそれた砲弾がT-34に直撃した…とこじつけた方がいいような気がします。勿論本来の目的は、クラーラの悲劇的な最期(死んでませんが)の演出であることは間違いないのですが…その他の砲撃も、山頂付近を狙った砲撃はそこそこ精度はありますが、湿原付近を狙った砲撃は、大洗の戦車からは遠く離れています。(ローズヒップのクルセイダーはわざわざ近づいてますが…)これも、大学選抜側が間接射撃に不慣れなので、主に高地狙いで練習していた、ということの裏付けになりそうです。