水上治と縄文日本

日本人の生き方が脳を進化させる

水上治「脳細胞を驚異的に進化させる!」第3章から抜粋

一般財団法人国際健康医療研究所 出版

WHO(世界保健機関)の定義を持ち出すまでもなく、健康とは、肉体的精神的社会的良好状態(Well-Being)です。それに霊的健康(Spiritual Health)が加わるべきであると確信しています。私が考える最善の脳機能とは、普段気分が落ち着いていて、何が起きてもきちんと対処できる、相手の長所をみて尊重できる、愛せる、支え合える、怒りに襲われてもじっと我慢できる、判断力や記憶力を保持し円満に社会生活を送ることができ、自分自身が幸せだと感じる、といった状態です。実は本来の脳機能はこれを十分可能にします。コンピュータは計算能力と記憶能力は優れていますが、将来、どんなに精巧なコンピュータが出現したとしても、モーツァルトのように優れた曲を作曲することはできないでしょう。


 半世紀の医師としての医療体験後、私は、米国式の医療は日本人に合わない、日本人は日本文化に合った穏やかなやり方がいいと感じるようになりました。


 欧米社会は、デカルトの二元論以来、勝敗、善悪、貧富などと言った二元論に支配されています。日本も同様に、勝ち組・負け組のどちらかに属すような社会になってきました。二元論はいつも正しいのでしょうか。お互いが正しいと主張し合えば、終にはぶつかります。


 また米国に行けばすぐわかりますが、日本での善があちらでは悪、その逆もよくあります。善悪もその地域の伝統や文化、宗教などによって決められるものであり、客観性などなく、すべて主観的なものに過ぎません。西洋合理主義は今完全に壁にぶつかっています。


 自己主張は内に秘めて、ポイントを押さえて意見を言っていくのが日本人らしいやり方です。自立は望ましいのですが、相手を配慮しての自己主張でいいと思います。


 侍の妻は表面上は控えめでしたが、経済面や子育てなどの実権を握っていて、うまく夫を操っていたという気配が濃厚です。賢い人は表面で自己主張しなくても、実質的に自己主張が相手に伝わればいいのです。日本は長年そのような奥ゆかしい文化だったのです。

 

 これも、相手を気遣っているからです。確かに二元論の欧米では馬鹿にされがちですが、奥ゆかしい文化です。自分の意見は秘めながら、婉曲にものをいう方が意見が通ったりします。言葉を省略しても伝わるのは、俳句や短歌にも示されています。

 

 日本人の「おもてなし」有名ですが、オリンピックに来る外国人のために、ヴィーガン(純菜食主義者)やイスラム教徒のための料理を用意しようなどと考える国がほかにあるでしょうか。他者に対する情も並ではないのです。


 秋の虫の音に風情を感じるのは日本人だけで、他の民族では単なる雑音です。まちがいなく感性豊かな右脳を我々は持っているのです。


 簡単に言えば、理は左脳、情は右脳です。日本人は右脳が優れていて、右脳をいつも刺激していることが日本人らしさを創っていきます。理が中心の生き方は自分を正当化し、トラブルにつながりやすいし、情が中心なら相手を配慮し易くなります。


 日本人の特徴は、思いやり深い、親切である、優しい、真心がある、弱いものへの慈しみが深い、共感する、支え合う、赦し合う、自然の声に耳を傾けるなど多数あります。

 トヨタのような日本の優秀な企業は、まず顧客の役に立つ製品を創ろう、という右脳の発想から出発しています。まず左脳でいいものをつくれば、当然売れる、という欧米の発想と全く違います。顧客に満足してもらうために、右脳を働かせ、次に左脳を最大限機能させて、世界一のものを創ってきました。


 左脳と右脳という脳全体が活性化されるので、最良の仕事ができるのです(篠浦伸禎、トヨタの脳の使い方、きれいねっと、2018)。


 我々の人生も、まず右脳を満足させる周りの人の役に立つ感謝される仕事をする、恩義を大事にする、次に仕事のために左脳を懸命に働かせるのです。右脳は仲間を作ります。人間関係を円滑にします。仕事が生きがいになります。そして自分の人生のために、志を持ちます。

 日本文化はすべて右脳を強力に刺激します。日本人が縄文時代以来何千年もはぐくんできた優れた伝統文化を、今見直すべきです。


 具体的な日本文化の一部をいかに示します。

  武芸:剣道・柔道・空手道・合気道

  華道・茶道

  着物・草履・下駄

  日本画・書道・日本刀・陶芸

  歌舞伎・能・狂言

  祭り・盆踊り・夜店・花火

  日本家屋・畳・床の間・日本庭園

  囲碁・将棋

  和食・和菓子

  和楽器:琴・三味線・尺八・笛・太鼓

  古典文学

  国学

 

 これらを日常生活にもっと取り入れたらどうでしょうか。

 日本人はなぜいつの時代も勤勉に働いたのでしょうか。

 愛する家族の幸せのためでした。近年は子供に高い教育を受けさせたいことが、親の労働の原点でした。戦後の復興のために親ががむしゃらに働いたのもそうでした。


 今わが国が豊かになり、このような動機付けが希薄になりました。


 でも家庭を大事にしたり、愛する人のためならば、気持ちよく働けるはずです。試練にも強くなります。七転び八起きです。滅私奉公という言葉も死語になりましたが、ただ勤務時間過剰だけでブラック企業と決めつけず、従業員の士気の高さも配慮すべきです。


コンピュータでメールを打っても、脳の一部しか使いませんが、会って会話すると、脳全体が活性化します。日本文化の本質は、愛と和ですから、我々は仲間とできるだけ顔を合わせ会話して、脳全体を使います。そうすると、神経細胞同士のネットワークがどんどんできて来て、脳が進化していきます。


 これぞ人間の脳の最良の進化型です。良質な脳の持ち主になれば、知識でなく知性が豊かになり、どんな困難に遭おうともとも、幸せに満ちた今日と明日を生き抜くことができます。そして、どんな年齢であろうと、脳細胞を新生させて、進化した脳の持ち主になり、新たなことに挑戦し続けます。こんな素晴らしい人生があるでしょうか。


水上治 プロフィール


医学博士

健康増進クリニック院長

一般財団法人国際健康医療研究所理事長

東京医科歯科大学医学博士、米国ロマリンダ大学公衆衛生学博士

日本オーソモレキュラー学会元理事長、他多数の学会役員を兼任


テレビ番組

「世界一受けたい授業」「賢者の選択」「水上治の健康増進バイブル」など多数出演


著書

「日本人に合ったがん医療を求めて」「がんで死なない最強の方法」「脳細胞を驚異的に進化させる!」「ようこそ抗加齢倶楽部へ」その他多数。