【注意】各授業回のページにある文献のファイルは「精読部分指定」を指定したり、ページ数をより絞ったりして作業量を減らしたファイルですが、この「授業予定表」のページのリンク先のファイルは、指定がないままであったり、各授業ページよりも広い範囲をスキャンしたものです。参考のため、この形でも掲載しておきます。 (2022.4.9)
構造人類学は、ヤーコブソンの言語学を発想の源としつつ、文化・社会のシステムの下部に「構造」の次元を想定し、そこから文化・社会を分析していった。 クロード・レヴィ=ストロースは『野生の思考』 の最初の章で、「未開」と呼ばれる社会を生きる人々にとって、そうした「構造」レベルの経験が、十全な意味で「知的活動」(仏語の science) と呼びうるものであり、そのような「具体の科学」(science du concret)が、近代社会を生きる人々にとっても有意義なものであることを論じた。 → 授業ページ
イギリス社会人類学では、レヴィ=ストロースから影響も受けつつ、しかしレヴィ=ストロースのような普遍的な「構造」の分析ではなく、具体的なフィールドにおいて(言語の下部で蠢く)象徴のシステムを分析するアプローチが発達した(象徴人類学)。ヴィクター・ターナーの有名な著作から、ここではアフリカの民族誌的調査に基づく象徴分析(第1章)と、彼がそこから発展させた有名な儀礼論(コムニタス論)について読む(第3章)。 → 授業ページ
象徴人類学はアメリカ文化人類学にも広がるが(ただし強調点は社会過程の分析よりも文化システムの分析に向かう)、その中で、個々のフィールドの文化的現実の固有性にこだわって、それを開かれた視点から徹底的に眺め、「厚く」描写していく、クリフォード・ギアツの議論(いわゆる「解釈人類学」)が出てくる。その最初の論文集『文化の解釈』の冒頭に置かれたマニフェスト的論文が「厚い記述」である。 → 授業ページ
20世紀のアメリカ文化人類学には、文化を心理学・言語学的に内側から捉えていくアプローチと、文化をそれを取り巻く外部の自然環境との関係で捉えていくアプローチの両方があり、ギアツが前者の代表だとすると(ただし後者も踏まえている)、後者の代表はサーリンズである(ただし前者も踏まえている)。マーシャル・サーリンズは、レヴィ=ストロースによる「未開」の力強い肯定からも刺激を受けつつ、狩猟採集民や焼畑農耕民が周囲の環境との間で営む関係について論じる。「未開」の政治・経済の独特のあり方(およびそこからの離脱)について鮮やかに論じた、おそらく古典人類学の最大の成果の一つといってよい著作。 → 授業ページ
フランス人類学の中でも、構造人類学の「下部」への視点を活かしつつも、レヴィ=ストロースのように思考のシステムに向かうのではなく、動的な社会過程の分析に向かおうとするアプローチが出てくる。人類学と社会学に跨る形で大きな影響を及ぼしたピエール・ブルデューによる、「ハビトゥス」や「実践」の概念は、現代人類学の前提になっていると言える。 → 授業ページ
認知心理学と人類学の境界領域で表されたこの本(ジーン・レイヴは人類学者、エティエンヌ・ウェンガーは人工知能研究者)、ブルデューの影響も受けつつ、社会過程を構造ではなく、学習という視点から生成的に捉えてゆく1990年代以降の人類学の重要な基盤になった。徒弟制という古典的なコミュニティ(ガーナでのレイヴのフィールドワークによる)から出発しつつ、しかし近代的な社会関係を捉えうる枠組みである点も重要である。→ 授業ページ
ミシェル・フーコーは人類学者ではなかったが、西欧近代世界の「外」に出た上で思考するというスタイルにおいて、人類学と通じている(明らかにフーコーはレヴィ=ストロースから影響を受けている)。他方で、とりわけフーコーの生権力論は今日の人類学において不可欠の参照点であると言ってよい。 → 授業ページ
田辺繁治はタイにおけるフィールドワークをもとに、ブルデューのハビトゥス論、レイヴとウェンガーの実践コミュニティの理論、またフーコーの「自己の技法」を概念に独創的な理論的発展を行った。ここでは田辺によるエイズ自助グループについての描写と分析を取り上げる。 → 授業ページ
科学社会学と人類学の両方を土台としつつ、そのどちらでもない領域を作り出したブリュノ・ラトゥールの仕事は、科学技術人類学という今日の人類学の重要な領域の端緒となり、またそこで用いられた「アクターネットワーク理論」も大きな影響を与えた。さらにいえば、人類学の内部において、次に述べる「自然の人類学」の議論を活発化させる契機となった。 → 授業ページ
ブラジルの人類学者エドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロの仕事、特に「多自然主義」の概念(初出は1996)は、フランスのP・デスコラのイギリスのT・インゴルドの仕事と並んで、「自然の人類学」の最も著名な成果であり、彼の「多自然主義」の概念は、今日の存在論的人類学(いわゆる「存在論的転回」)の議論の高まりの最大の参照点となった。 → 授業ページ
ペルーの人類学者マリソル・デ・ラ・カデナの有名な論文。ヴィヴェイロス・デ・カストロやイギリスの人類学者マリリン・ストラザーン、また現代政治哲学を背景に、今日のアンデス先住民をめぐる政治的問題について存在論的角度から論じたもの。 → 授業ページ
イギリスの人類学者ティム・インゴルドは、人間を社会的存在であると同時に生物学的存在でもあると捉え、ギブソンの生態学的知覚論、メルロー=ポンティの『知覚の現象学』、ドゥルーズの『千のプラトー』などから影響を受けつつ、独自の人類学理論を構築し、人類学の内外で広く言及される著者となっている。ここで挙げた論文は、今日の「自然と身体の人類学」の一つの代表的な形と見ることができるだろう。 → 授業ページ