大阪府歯科保険医協会・政策部は2018年10月13日、香西克之氏(広島大学大学院医歯薬保健学研究科教授、写真)を講師に招き、市民公開講座「子どもの口腔崩壊と歯科健康格差対策を考える」を開きました。 講演要旨を紹介します。
香西克之教授(広島大学)の提言【第1回】
子どものう蝕(むし歯)は減少している。3歳児のう蝕罹患患者率や12歳児のDMFTなどの統計を見てもその傾向は明らかだ。しかし、その一方で大阪府歯科保険医協会が実施した学校歯科治療調査が明らかにしたように「口腔崩壊」と表現されるような重症化した多発性う蝕を抱える子どもが存在しており、口腔内の健康格差が問題となっている。
子どもの口腔内の健康格差は、貧困をはじめとする社会経済的要因やネグレクトなどのう蝕になりやすい成育環境とその他の要因(▷障害児、有病児、発達障害児▷診療格差▷地域格差)に起因する。
東京都足立区の調査は、貧困が子どものう蝕の発症や重症化と強く関係していることを指摘する(図1)。また、広島県歯科衛生連絡協議会の専門委員会のメンバーとして広島大学が実施した一時保護所に保護された子どもへの口腔内調査は、保護された子どものう蝕歯数、未処置歯数が著しく高いことを明らかにした(図2)。
子どもはう蝕罹患性が高く、食生活環境は各家庭に、歯口清掃習慣は親の健康意識に依存する。そのため、親が子どもに無関心だったり、デンタルIQが低いと、子どものう蝕リスクは高まる。特に「口腔崩壊」の子どもは成育環境に問題を抱えるケースが多い。
う蝕予防は、家庭で行う予防、歯科で行う予防、公衆的予防に分類される。日本における子どものう蝕減少は、前者2つの予防対策が実行可能な成育環境下にある家庭が圧倒的に増えたことによると考える。一方、予防指導や予防対策に対応できない家庭や環境下にいる子どもは予防対策の傘から漏れ、ハイリスク児のまま口腔崩壊へと進むことになる。
健康格差の解消には、ハイリスク児への積極的な歯科的介入を進めると同時に、すべての子どもたちに平等に供与できる攻守的う蝕予防対策が必要なのである。