大阪府歯科保険医協会政策部の提言【第2回】
歯科医療機関への受診を阻む3つの貧困の解決は大きな課題です。
〔経済的貧困-少額負担でも受診の妨げに〕
全国の市町村では子ども医療費助成制度が整備されており、歯科の治療費は無料か少額の自己負担で済みます。厚労省調査では、全市町村のうち6割超が窓口負担を無償化しており、その対象は中学校卒業程度(15歳まで)が最も多くなっています。
全国的に制度拡充が進み、経済的な負担なく受診できる環境が整いつつある一方、居住地によって負担が異なるという問題が生じています。例えば、大阪では無償化している自治体はなく、受診時には必ず自己負担(1回500円)が求められます。また、多くの自治体では中学卒業と同時に助成対象から外れるため、高校生になると大人と同じ3割負担になってしまいます。
調査では、養護教諭から「少額の負担でも受診の妨げになる」との声が多数寄せられています。経済的貧困を乗り越えるためには、子どもの医療費を国の責任で無償化するとともに、助成制度の対象を高校卒業程度まで拡充することが喫緊の課題と言えます。
〔時間的貧困-仕事休めず通院困難〕
次に子どもを医療機関に連れていく「時間がない」という問題です。口腔崩壊に至る子どもの事由として「ひとり親」があります。ひとり親の相対的貧困率は50・8%(2015年厚労省調査)と高く、就業形態では非正規労働が多数を占めているため、仕事を休んで子どもを医療機関に連れていくことは容易ではありません。保護者の働き方や労働行政と深くかかわっており、社会全体の問題としてとらえることが求められます。
一方、子どもの受診機会を保障するため、保護者が同伴できない場合に第3者が受診に付き添う公的支援制度が導入されている自治体もあります。大阪市では、ひとり親家庭に対し、家庭相談員が保護者の代わりに受診に付き添う制度があります。しかし、対象は限定的で受診には保護者からの申請や同意が必要になります。トラブルが起きた場合の対応など課題も多く、制度の導入に消極的な自治体が多いのが現状です。
〔文化的貧困-痛みなければ治療せず〕
乳歯のむし歯はいずれ抜けるから問題ない――。臨床の現場ではこのように考える親にたびたび出会います。保護者自身が幼少期に十分な歯科保健教育を受けていなかったり、むし歯予防の重要性を認識していなかったりすると、子どもが痛みを訴えるまで受診せずに放置してしまうことになります。早期治療や定期的な受診の必要性について、歯科医療関係者・学校・行政が子どもと保護者に粘り強く啓蒙していく必要があります。
親子への歯科保健指導の先進事例では、兵庫県尼崎市の2歳児親子歯科健診があります。子どもの健診機会を通じて保護者の口腔状況もチェックし、親子で歯の健康への意識を高めてもらおうという試みです。歯の健康に関する知識「デンタルIQ」を高め、受診行動につなげるには、産前産後から定期的に歯科保健指導を行うことが求められます。
(つづく)