子どもの口腔崩壊・未受診問題

「見える化」プロジェクト

~学校歯科治療調査の取り組み~

大阪府歯科保険医協会政策部の提言【第回】

口腔の健康格差解消へ3つの歯科保健活動


歯科受診を阻む3つの貧困の解消とともに、子どもの口腔崩壊問題の解決には口腔の健康格差を縮小し、口腔崩壊に至らないようにすることが何よりも大切です。むし歯予防策を取りまとめた厚労省「歯科口腔保健の推進に係るう蝕(むし歯)対策ワーキンググループ」の報告書(2019年6月4日公開)では、口腔の健康格差の縮小にはハイリスク者への対策だけでなく、ローリスク者も含めた集団的な取り組み(ポピュレーション・アプローチ)が重要と指摘。全ての子どもが分け隔てなく享受できるむし歯予防策の必要性を強調しています。


ポピュレーション・アプローチの絶好の機会は、子どもが毎日訪れる学校現場にあります。学校で実施される歯科保健活動には、主に▽歯科保健指導▽給食後の歯磨き▽フッ化物洗口(※)――があります。適切な歯科知識や生活習慣を身に付けてむし歯を防ぎ、健康格差を縮小させるにはこの3つの歯科保健活動の充実が欠かせません。

自治体・学校の取り組みに濃淡

子どもの健康を守り、育むために重要な歯科保健活動ですが、学校における位置付けは必ずしも高くありません。自治体での取り組みにも濃淡があります。例えば、歯科医療関係者による授業が各学年で年1回の学校もあれば、短時間でも毎月実施している学校もあります。大阪では小学校の給食後の歯磨き実施率は41・1%ですが、府内の市町村ごとの実施率は100%もあれば、0%もあります(2018年学校保健統計調査、小学6年)。フッ化物洗口に至っては全国の小学校の実施率は2割に過ぎず、都道府県別では0~9割と大きな差が生じています。(2016年、日本フッ化物むし歯予防協会調査)。

秋田県はフッ化物洗口で改善

歯科保健対策の先進自治体として知られる秋田県では、ポピュレーション・アプローチとして2004年からフッ化物洗口事業に取り組み、今では県内の小学校の95.5%が実施しています。フッ化物洗口の効果は顕著です。同県の12歳児の一人平均むし歯本数は2008年の2.5本から2018年には0.7本となり、わずか10年で4分の一に激減。全国順位を見ても、フッ化物洗口を受ける前の3歳児の一人平均むし歯本数は43位(08年)でしたが、彼らが12歳になった時には19位(17年)に大きく改善しました。一方、フッ化物洗口を実施していない大阪府の子どもは13位から28位へ後退しています(図)。


フッ化物の応用は安全性・有効性が確立されたむし歯予防策で、WHO(世界保健機関)をはじめ、厚労省、日本歯科医師会などが進めています。しかし、フェイクニュースや科学的根拠のない“有害論”が一部で強調されていることもあり、自治体による導入の大きな壁になっているのが現状です。幼少期の口腔内の健康格差を縮小することは口腔崩壊問題の解決に欠かせません。家庭環境に左右されないむし歯予防策に全国の学校で取り組むことが必要です。

(つづく)


※フッ化物配合歯磨剤と同程度か、それより低いフッ化物濃度の洗口液でうがいし、う蝕を予防する方法。洗口液を口に含み、1分間ブクブクうがいをし、吐き出す。週1回法が一般的。