大阪府歯科保険医協会・政策部は2018年10月13日、香西克之氏(広島大学大学院医歯薬保健学研究科教授、写真)を講師に招き、市民公開講座「子どもの口腔崩壊と歯科健康格差対策を考える」を開きました。 講演要旨を紹介します。
香西克之教授(広島大学)の提言【第2回】
大阪府歯科保険医協会の学校歯科治療調査では、要受診者の未受診率は小学生で48.7%、中学生で71.4%に上った。「医療券を出しているのだから、治療に行かない方が悪い」という意見も聞こえるが、それでは解決にならない。母子家庭では、子どもを歯科医院へ連れて行く時間的余裕がないケースも多い。個々の成育環境を考慮した対策を考えなければならない。
子どものう蝕格差対策の基本的な考え方は2つある。1つは一般家庭への対応だ。多くの子どもたちは成育環境に恵まれ、う蝕リスクが低い。この間の口腔保健指導・教育が成果を挙げ、確実にう蝕が減少していることから、「ローリスクアプローチ」として従来通りの予防対策に取り組めば良い。
もう1つは、「マルトリートメント」の子どもに対する介入的予防だ。マルトリートメントは虐待よりも広義で「不適切な養育」を指す。経済的貧困家庭や被虐待児など、う蝕リスクが高い子どもたちに積極的に介入しないと格差はなくならない。
そこで重要になるのが「ハイリスクアプローチ」と、公衆的支援の「ポピュレーションアプローチ」だ。
ハイリスクアプローチでは、専門的歯科医療の介入が欠かせない。具体的には、▷一時保護所への歯科健診▷積極的な歯科健診活動▷専任歯科医(小児歯科医)の養成支援▷多職種連携によるヘルスプロモーションと子どもの自律支援――などが考えられる。福祉担当者との協働で継続的な歯科保健指導や通院支援に取り組むことも重要だ。さらに成育環境の格差是正として、行政による貧困対策や母子家庭支援の充実が求められる。
ポピュレーション・アプローチでは、フッ化物の全身応用がポイントになる。水道水や食塩にフッ化物を添加すれば、全国民への平等なう蝕予防として最も有効な方法になると考える。
マルトリートメントへの介入的予防を実現するには、行政による指導や法律の整備が必要だ。歯科健康格差の解消へ向けて、う蝕予防の新たな枠組みを構築しなければならない。