2000年
PlayStation2
2000年
PlayStation2
1999年3月2日、PS2の技術デモが公表された際の衝撃
~後藤弘茂氏によるWeb記事より引用~
圧倒的なデモに静まり返った次世代プレイステーション発表会
会場は静まり返っていた。聴衆は声を失い、ただ黙りこくってデモに魅せられた。これが、3月2日に開催された次世代プレイステーションの概要発表会の情景だった。聴衆は、ゲーム業界関係者や報道陣が中心で、素人ではない。にもかかわらず、圧倒されたのは、そのデモの内容があまりにも、今のゲーム機の水準からかけ離れていたからだ。
その内容を、言葉で表現するのはほとんど不可能に近い。グラフィックスの品質は、今のオープニングムービー--ハイエンドグラフィックスワークステーションで作成しているあの3Dグラフィックスを想像してもらえればいい。ただし、違うのは、そのグラフィックスが、試作ボードの上でリアルタイムに生成されていた点だ。そして、その高画質グラフィックスのキャラクタが、微妙な表情、微妙な動作で動く。オールポリゴンで、細部まで緻密に描き出される。あるいは、ゲーム世界のオブジェクト同士が自然な動きの干渉をする。これが、この日のデモで示された方向性だ・・・
プレイステーションがAV機器を、パソコンを超える
ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が開発中の次世代プレイステーションに搭載するLSIの仕様が明らかになった。3次元グラフィックス性能は、最新鋭のパソコンを大幅にしのぐ。半導体技術からコンピュータ・アーキテクチャ、ソフトウエア技術まで最先端技術を駆使した結果といえる。「ゲーム機がテクノロジ・ドライバになった」(SCE)。これを家庭の情報化の足がかりにしようと、ソニー本体も動き出す。
ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が1999年3月2日に公開した次世代プレイステーション(仮称)の技術仕様は,これまでの家庭用ゲーム機の概念を根本から覆すものだった。
グラフィックス性能ひとつをとっても,パソコンやワークステーションの性能をはるかに上回る。1秒間に描画できるポリゴン数は,最大で7500万個。テクスチャ(質感)を貼り付けた状態でも2000万個に達する。現行のプレイステーションが最高36万個,3月に出荷が始まった米Intel Corp.の最新CPU「Pentium III」と高性能グラフィックス・アクセラレータ・ボードを組み合わせたパソコンでも数百万個であることを考えれば,その突出ぶりがわかる。
「これまでゲーム機は,『枯れた技術』を安く組み合わせて作るものだった。しかし,次世代プレイステーションは違う。半導体の製造技術からアーキテクチャまで,すべてが最先端。ゲーム機がコンピュータ界全体のテクノロジ・ドライバになった」。SCE代表取締役副社長の久多良木健氏は,胸を張る。
次世代プレイステーションは,単なるゲーム機にとどまらない。ソニーは,これを核にして,家庭内のAV機器のあり方を変え,さらには家庭へのコンテンツ流通のプラットフォームに仕立て上げようとしている。
物理法則をシミュレート
性能の向上は,ゲームの表現力を質的に変化させる。これまでのゲーム機は,あらかじめ決められた動きや絵をいかにそれらしく見せるかという,いわば「ごまかし」の技術の集大成だった。ところが次世代機は,物体の動きを物理法則に基づいてその場で計算したり,布の揺れや人の表情をシミュレーションによって作り出したりできる。
これを支えるのが,SCEと東芝が共同開発した128ビットCPU「Emotion Engine」と,描画専用LSI「Graphics Synthesizer」である。
Emotion Engineは,浮動小数点演算性能が6.2GFLOPSと,Pentium III(2GFLOPS程度)の約3倍。これを支えるメモリ・バスの帯域幅も3.2Gバイト/秒と,パソコン(1Gバイト/秒以下)を圧倒する。Graphics Synthesizerにいたっては,さらにその上を行く。DRAMを混載することで,チップ内のデータ転送速度を48Gバイト/秒に高めた。パソコンのグラフィックス・アクセラレータの数十倍から百倍近い値である。
ソフトウエア開発のあり方も変わる。これまでのようにハードウエアを直接叩くのではなく,物理法則を計算するミドルウエアを介して開発するスタイルになる。このため,SCEはランタイム・ライブラリなどを共通化して提供する。
ソニー本体も期待
次世代プレイステーションは,DVD-ROMドライブを搭載し,DVDビデオの再生機能を標準で備える。この事実は,ソニー本体に大きな衝撃を与えた。
「次世代プレイステーションは,当社のDVDプレーヤにとって最大の脅威。しかし,これを機にソニー全体で次世代機を核にした新しいビジネスを考えなければならない」。ソニー社長の出井伸之氏は,こう語る。
次世代プレイステーションには,USBやIEEE1394といったデジタル・インタフェースが標準装備される。デジタル・ビデオ・カメラやデジタル・カメラを接続して,取り込んだ画像に加工を施すといった楽しみ方も可能になる。さらに,PCカード・スロットを介して通信機能を備えれば,ネットワーク経由でのコンテンツ配信の受像機にもなり得る。
SCEは,2000年冬に日本で次世代機を発売する。価格は未定だが,現行機の発売当時(3万9800円)と同程度を目指す。ソニーグループの総力を挙げた挑戦が,いま始まろうとしている。
NIKKEI ELECTRONICS 1999.3.22
ソニー・コンピュータエンタテインメント 代表取締役副社長
久多良木 健氏へのインタビューより(聞き手=浅見 直樹)
圧倒的な計算パワーで「世界」を表現したい
浅見(以下、I)次世代プレイステーションの構想が始動したのはいつか?
久多良木氏(以下、K) こういうことをやりたいという夢を抱くようになったのは、初代プレイステーションの開発に着手した10年も前にさかのぼる。それからずっと同じ夢をもち続けている。いまも夢の途中だ。やりたいことはまだまだある。すぐにでも、次の5年後に向けて動き出したいくらいだ。
ニケタの技術進歩
I)5年おきに新技術を導入する理由は?
K)5年経てば、半導体技術が2世代進歩するからだ。エンターテインメント機器を質的に変化させるには、回路規模などの点から二ケタの技術進歩が必要になる。一ケタでは足りない。アーキテクチャを根本的に見直すには、それくらいのジャンプが要求される。今回のLSIは、0.18µmルールの製造技術を使って量産を始め、最終的には0.13µmルールで作ることを想定している。
I)0.13µmルールの製造技術を使えば、小さいLSIを作れる。
K)現行プレイステーション用LSIのチップ寸法は、量産開始当初が15×15mm²。これが現在は6×6mm²になっている。次世代プレイステーション用LSI「Emotion Engine」も、試作チップは0.25µmルールで製造したために17×14mmとやや大きいが、最終的には7×7mm²程度になるはず。
垂直統合型企業の強み発揮
I)半導体製造技術を自社でもつ必要があるのか?
K)いまやエンターテインメント機器は、半導体技術だけでなく、コンピュータ・アーキテクチャ、ソフトウエア技術の視点からも、テクノロジ・ドライバになろうとしている。古い、枯れた技術を使ってゲーム機を作る時代は終わった。複雑な説明抜きで多くの人の心を打つ機器を生み出すには、最新の技術を駆使しなければならない。これを可能にするのが、プロセスから機器設計まですべてを自身が手がける垂直統合型体制。枯れた技術の組み合わせなら、ほかの企業と連携しても開発できる。ただし、今回のように、だれも経験したことがない技術をふんだんに使いたければ、自分でやるしかない。DRAM混載プロセスを開発する専門の会社を設立したのも、こうした垂直統合型への流れの一環といえる。
I)米Intel Corp.も垂直統合型企業だが。
K)いまのパソコンはテクノロジ・ドライバではない。パソコンなんか作っても、面白くもなんともない。そうしたなかIntel社だけが技術を前へ前へと進めているのは、みずからがパソコンを定義する力を備えているからだ。だからこそ、垂直統合型で付加価値の高い事業を展開できる。投資を回収できるから、さらに次の投資が可能になる。SCEは、エンターテインメント機器を定義していく。そのために必要な、あらゆる技術を手元に置いておく。
I)垂直統合の流れに反して、パソコンでも、プレイステーションの機能をエミュレーションしようとしている会社(米Connectix Corp.)があるが。
K)断固戦う。SCEの知的財産権を侵害していることも許せないが、それ以上に、コンテンツ供給者を守るという意味でも容認しない。コンテンツ提供者は、プレイステーションのすみからすみまでを知ったうえで、苦労してタイトルを作っている。それがエミュレーションでは完全には動作しない。明確に本物との違いが出る。こうしたことは、コンテンツ提供者からしたら耐えがたいことだろう。
東芝と特別チーム結成
I)東芝を半導体の開発・製造のパートナとして選んだ理由は?
K)CPUコアをスクラッチから設計する能力があったからだ。こういう技術者は限られている。いろいろな学会に足を運んだり、社内の技術者から紹介してもらったりしながら、これができる技術者を集めた。たまたま東芝の技術者にめぐりあえたわけだ。これにソニーの技術者を加えて、特別チームを結成した。会社と会社の付き合いから生まれたチームではなく、個人と個人のつながりから誕生したチームだった。
I)これは、ゲーム機ではなく、コンピュータ・エンターテインメント機器だというが。
K)ゲーム機と呼びたければそれでもいい。ただ、次世代機の表現能力は、ゲーム機という範ちゅうでは捉えられなくなる。いまのゲーム機では、あらかじめ用意された表現を、あたかもその場で作られたかのようにみせかけている。デフォルメの世界。本物ではない。それが、次世代機になれば、アルゴリズムを計算することによって、その場で「世界」を作り出せるわけだ。人は人のように、猫は猫のように、煙は煙のようにふるまうようになる。
新しいクリエータにも出番
I)これによってコンテンツ制作にはどのような影響が及ぶか?
K)いままでとは質の違ったクリエータがどんどん押し寄せてくる。たとえば小説家やシナリオ・ライターとか。アセンブラを駆使しなければならなかったこれまでの世界では、こうしたクリエータは入り込みにくかった。ハードウエアの進歩がこうした障壁を低くする。表現したいコンテンツのアイデアがある人はだれでも、歓迎したい。それには、Linux上のソフトウエア開発が世界中で行なわれているように、第三者による次世代プレイステーション向けミドルウエアの開発を促進していく必要がある。
I)次世代プレイステーションの発売後も、現行機の販売を続けるのか?
K)もちろん、売り続ける。次世代機は現行機を置き換えるものではないのだから。
いろいろな機器に進化
I)次世代機もやはりゲーム機として売るのか?
K)最初の400万台から500万台はゲーム機として売る。即座に飛びつくユーザだけでも、それくらいの数を見込める。その方がわかりやすい。すそ野が広がったときを想定して、いろいろな仕組みを組み込んである。
I)いずれゲーム機が別の機器に化けるという意味か。LSIを見る限り、DVDプレーヤにもセットトップ・ボックスにもなりそうだが。
K)化けるんじゃなく、進化する。技術的には、Emotion Engineを制御するファームウエアさえ入れ替えれば、いろいろな使い方が可能になる。
I)通信機能を備えれば、コンテンツ流通の基盤になると思うが。
K)コンテンツ流通なんか、それほど革新的だとは思っていない。面白くない。流通が変わっただけで、質的な変化がないからだ。対戦型ゲームだって、大したことでない。たとえば、通信を使ってエンターテインメント機器のなかのペットや恋人と会話ができるようにする。こうなれば、会社に行っていても、家庭のプレイステーションにログインしたくて仕方がなくなる。プレイステーションのペットや恋人からメールが来たり、電話がかかってくるようになったりしたら、これは大変な社会現象を巻き起こせる。そういうことをやってみたい。
他社からの提案も受け入れる
I)こうした状況を、ソニー本社の各部門が放っては置かないのでは。いろいろな提案があっても不思議ではない。
K)SCEが作ったプレイステーションは、ソニー・ブランドの製品ではない。CMに一度だって「It's a Sony」というキャッチ・フレーズを使ったことはない。一社の利益追求だけを考えた提案なら、ソニー本社からのものであっても無視する。逆に、新しい文化を創り上げ、新しい市場を創出しようという提案なら、他社からであっても喜んで受け入れる。私は音楽や映画も好きだ。ただ、どちらもAV機器が普及したことによって、パッシブ(受動的)な文化になってしまった。本来の文化は、ライブ演奏や劇場といった本物を体験することだった。それがエンターテインメントの本質だった。コンピューティング能力をフルに活用すれば、エンターテインメント機器を通して本物を味わえるようになる。「エンターテインメントの回帰」――それが私のテーマだ。
NIKKEI ELECTRONICS 1999.3.22