1998年
SEGA DreamCast
1998年
SEGA DreamCast
セガ・DreamCastハードウェア開発責任者 佐藤秀樹氏(当時:常務取締役コンシューマ事業本部副本部長)へのインタビューより
5年ぶりに登場する新ゲーム機
五十嵐(以下、I)Dreamcastは10月9〜11日に開催された東京ゲームショウ'98秋で、ついに一般へのお披露目が行なわれたわけですが、現時点でのDreamcastに対する、サードパーティ各社や販売店、そしてエンドユーザーの反応はいかがでしょうか。
佐藤(以下、S)非常に評価は高いですね。まずソフトライセンシー各社は、今までのハードウェアに比べて格段に性能が違うので、「今まで作れなかったようなゲームがこれで作れるぞ」と、いろいろな可能性を見いだしてくれています。
販売店からも非常に期待されています。というのも、現在のプレイステーション(以下PS)が新しい商品ではないという問題があります。やはり登場してから5年近くも経つと、市場にはある種の飽きが出てきます。ソフトも何千種類も出てしまってはハードの性能も食い潰されてしまい、新しいアプローチのソフトがなかなか出てきにくい。その点でもDreamcastはまったく新しい商品ですから期待も集まります。
エンドユーザーには、やっと雑誌やゲームショウでお披露目ができ、特にグラフィックスまわりは高く評価されています。今はもう、ゲーム性のほうに注目が集まっていますね。
I)全体的な開発意図というか、こういう点を目標に設計したという点はありますでしょうか。
S)Dreamcastのキーコンセプトは、「Play & Communication」です。まず「Play」とは、「いかに楽しい遊びを提供できるか」です。できるだけ楽しい遊びを提供するために、画像や音声、CPUなどの機能を従来のハードウェアとは桁違いの水準まで引き上げました。
特に画像に関しては、トータルパフォーマンスでは従来のゲーム機の100倍の能力を持っているといえます。単純に定量的なポリゴン数やピクセルフィルレートといった数値の比較でいうと、おおむね10倍以上あります。従来のゲーム機はテクスチャマッピングした場合、20〜25万ポリゴン/秒程度なのに対し、Dreamcastはテクスチャマッピング時でも300万ポリゴン/秒以上の性能を持ちますので、レンダラそのものは10倍以上の能力があります。
もう1つ重要なのは「画質」です。きれいに見せるためにはポリゴンをいっぱい使うだけではダメで、発色やエフェクトが重要なわけです。たとえばグローシェーディングはもう当たり前ですね。他にはテクスチャを奥行き方向に補正するパースペクティブコレクションも必要です。またDreamcastではモディファイヤボリュームといって、影をハードウェアで自動的に作るような機能もあります。テクスチャを補完してスムーズな画像にするトライリニアフィルタ機能も持っています。
たとえばパースペクティブコレクションがないと、テクスチャが歪んでしまうことがよくあります。こうした機能があるのとないのでは無限大の差がありますが、トータルではこれも10倍は違うでしょう。だから10倍×10倍で100倍違うと(笑)。
サウンドシステムも64チャンネルのPCMとADPCMを備えています。これはDSPと制御用のRISC CPUで処理されますので、サターンと比べれば大幅に強化されました。
そして絵と音をコントロールするCPUのSH4は、クロック200MHzのCPUです。さらにCPUとメモリやグラフィックエンジンをつなぐバスは、100MHz駆動の64bitバスを使っています。これは最新のパソコンぐらいでしか使われていないほどの高速バスです。それゆえに、非常にバンド幅の大きなデータのやりとりが可能になっています。
さらに16MBのワークメモリに加え、フレームバッファ/テクスチャメモリを8MB、サウンド/ウェーブメモリにも2MBと、合計26MBものSDRAMを搭載しています。3年前のPCと同じくらいを積んでいるわけです。
I)よく「Windows95が動いちゃうね」なんて冗談をいっています。
S)そうですね(笑)。一連の絵や音、それをコントロールするプロセッサ、サポートするメモリということから考えると、桁違い以上の表現能力をDreamcastは持っています。そのパワーによって新しいゲームの世界を提供できるというのが、「Play」というコンセプトの体現となっているのです。
Communicationの窓口としてのモデム
S)もう1つのコンセプトである「Communication」は、標準で33.6kbpsのモデムを搭載したことに現われています。モデムだけでなく、セガのホームページやインターネットにアクセスするためのソフト、「Dream Passport」も標準で付属していますので、買ったその日からインターネットの世界に触れられるわけです。Dream Passportは日本のISVであるアクセスの、情報家電向けインターネットソフトウェア「NetFront」をベースにして開発されています。このDream Passportでインターネットアクセスやメール、チャットなどを提供します。メールやチャットをコミュニケーションのキーとして、次のステップでは遊びの「場」の提供をしていきたいですね。インターネットにメールにチャットに対戦ゲームといった具合に、いろいろなコミュニケーションを追加投資せずこれ1台でできるようにというのが、「Communication」の意味するところです。
I)モデムをゲーム機につけるというアイデアは、すんなり受け入れられましたか?
S)いろいろ意見はありました。基本的にコストの問題はどうしても付きまとうわけですよね。33.6kbpsモデムなので、バカにしたスペックじゃないんです。たとえば14.4kbpsだったらさらに安く上げられますが、いろいろなコミュニケーションを提供していこうとなるとそれでは遅すぎる。それで今現在もっともコストパフォーマンスのよいものを選択したということです。33.6kbpsでも、ちょっとオーバースペックじゃないかという意見もあります。回線品質の悪さから28.8kbps程度しか接続できないことも多いですから。
とはいえ、通信インフラはどんどん進化していきます。ISDNだけでなくADSLやケーブルモデム、衛星デジタル放送もあります。それら通信インフラの進化に合わせられるように、モデムは交換可能な取り外し式にしました。ISDNならモデムのかわりにTAをつければいいし、10Base-Tのインターフェイスをつければ、ケーブルモデムとつなぐこともできます。
コンセプトである「Play & Communication」のCommunicationの部分をきちんと捉えると、フレキシビリティを持たせることが重要です。完全にモデムを内蔵してしまえば安くはなりますが、フレキシビリティはなくなってしまいます。
最新の技術を集積する難しさ
I)開発にあたって一番難しかったことはなんでしょうか。
S)全部難しいですよ(笑)。それというのも、すべてに最先端の技術を使っているからです。たとえばCPUのSH4にしても、浮動小数点演算の能力をいかに高めるかという問題がありますし、計算結果をどうやってグラフィックエンジンに送るかという問題もあります。
グラフィックエンジンのPowerVR2も半端なチップではありません。テクスチャつきで300万ポリゴン/秒、テクスチャなしなら500万ポリゴン/秒以上を確実に表示できます。このチップはセガとNEC、英VideoLogicが共同で開発したものです。メモリの配置にも工夫をこらしています。Dreamcastではグラフィックエンジンの横に、16MbitのSDRAMが4チップついています。16Mbitを4つ使うなら、64Mbit 1つにすればいいと考えがちですが……。
I)ああそうか。バスネックですね。
S)そう、バスが64bitバスだから。メモリチップを1つにすると、すべてのメモリでバスを共用しなければならない。SDRAMは一度アドレスをセットすれば、100MHzで一気にデータを読めますが、セットに時間がかかります。そこでバスを4つに分ければ、こちらのメモリをアクセスしながら別のメモリ用にアドレスをセットするといった具合に、パイプラインを複数にしてバンド幅を有効に使うことができるのです。
我々にとっては、いかに大量にテクスチャを貼れるか、いかにピクセルフィルレートを高めるかが重要なのです。たとえ300万ポリゴン表示できても、ピクセルフィルレートが低いと絵を描けません。だからポリゴン表示数とピクセルフィルレートのバランスが取れるように、開発スタッフとやり取りしながら開発を進めました。
そのうえこの小さな筐体に全部を収めなければならないのですから、簡単なところはありませんでしたね。なにより、使っているプロセッサは0.25μmの最先端のプロセスルールで作られています。この先端の技術を使ったプロセッサを何百万個も生産するというのは、どこもやっていませんでした。開発も難しかったし実際の製造も難しいですね。
DVDを採用できない理由
I)完成したDreamcastの仕様に関して、現状で不満な点。コストを考えて削ってしまった点もあるかと思いますが、ここがこうできたらよかったかなという部分はありませんか。
S)不満な点はあまり言いたくないですね(笑)。そうですね……、もっとメモリを積めればよかったかなとか、やっぱりDVDを使いたかったなとかですね。今回は1GBのGD-ROMを使いましたが、GDではなくDVDだったらもっと面白いことができたのかなって。
I)でも子供が買える値段じゃなくなっちゃいますよね。
S)値段もそうですが、DVDは開発環境がぜんぜん整っていないんですよ。ROMと同容量のライトワンスディスクすらありません。だからといって、開発のたびにマスタリングに出すわけにもいきません。ソフト開発もマスターアップ直前ともなれば、時間との戦いですからね。テストのたびにマスタリング、なんて悠長なことはできませんよ。エミュレータもありませんしね。そのうえソフト開発のためのオーサリングツールさえロクにないというのが実状です。このような状況ではソフト開発はとてもできませんので、断念せざるをえませんでした。しかし、もし開発環境がすべて整っていてかつコストも安ければ、DVDにしたかったなとは思います。
SH4は何bit CPU?
I)CPUにSH4を採用した意図と、SH4の利点についてお聞かせ願えますか。
S)コストパフォーマンスを重視しつつ、21世紀に向けて十分通用するプロセッサを選定する必要がありました。その場合重要なのは、設計にあたって我々の要望を取り入れてもらうことです。ゲームマシンのプロセッサは、PCのプロセッサや自動車に搭載するエンベッディッド用マイコンとは「違う」んです。となると、マイコンメーカーがこちらの意図を分かって、それに対応してくれることが必要なわけです。日立はサターンにSH2を採用するに当たって、たとえば割り算は多用するから演算機に入れてくれといったように、非常にフレキシブルに、かつ誠意を持って対応してくれましたので、今度もSH4でいきましょうとなったわけです。
SH4の128bitのグラフィックエンジンは、32bitの浮動小数点演算を4つ同時に実行できます。3Dグラフィックでは4×4の行列演算はひんぱんに行なわれるのですが、これを一気に数クロックで実行できるのです。SH4はいろいろな演算モードを持っているので、32bitの演算を4つ同時でもいいし、64bitを2つや128bitを1つでもかまいません。このように3Dグラフィックに最適化された構成であり、そのための演算命令も持っている。それゆえ1.4Gflopsもの演算能力を発揮できるわけです。FPUに関してはPentiumなどよりはるかに優れていますよ。このFPUがグラフィックスをつかさどるエンジンになっているということで、我々は「128bitグラフィックスエンジン内蔵RISC CPU」という呼び方をしています。もっとも新聞などで報道される際は、真ん中の「グラフィックス」の文字が抜け落ちて「128bit RISC CPU」といった書かれ方をすることも多いのですが(笑)。もうbit数で性能を測るのは、ナンセンスな時代なんですけどね。でもサターンが32bitでNINTENDO 64が64bitとくると、128bitというのは……。
I)ものすごく分かりやすく聞こえるんでしょうね(笑)。
バスバンドを軽減しつつ性能を高めるPowerVR2
I)3Dグラフィックを生成するときに、どの段階までSH4で処理し、どこから先をPowerVR2で処理しているのでしょうか。
S)ジオメトリの計算は全部CPUがやっています。そして計算が終わったらポリゴンの頂点データをPowerVR2に送り込むだけです。このPowerVR2というのがまた変わったグラフィックチップで、第三世代のグラフィックチップともいわれています。第一世代は単にフラットなポリゴンを表示するだけ。第二世代でテクスチャマッピングやZバッファによる奥行きのソート処理が可能になる。第三世代のチップでは、Microsoftが一時期「Talisman」というグラフィックアーキテクチャの開発を進めていましたが、より高速に処理をしつつピクセルフィルレートを稼ぐための1つの方法として、ブロック単位で処理を行ないます。
Dreamcastでは32×32ドットの「タイル」と呼ばれるブロックごとに描画処理をします。1つのタイルが約1000ピクセルになるわけですが、この程度ならばグラフィックチップの内部で全部の処理をできてしまうので、非常に高速に動作します。
3Dグラフィックでは画面奥から手前まで多くのポリゴンが並んで絵を作っています。普通のZバッファ方式では、すでに描かれたポリゴンの手前にポリゴンを描こうとすると、どちらが手前にあるかをZバッファから奥行き方向のデータを参照して比較しなくてはなりません。この方式では最終的に画面に表示されないポリゴンでもフレームバッファに描かれてしまうことがあるため、表示されないポリゴンにテクスチャを貼り付けフレームバッファに描き込むという無駄が生じます。ところがタイル単位で処理するPowerVR2の場合は、まず奥行き方向の判定だけを先に行ないます。そうすれば、実際に画面に描かなくてはならないポリゴンだけを描けば済みます。隠れているポリゴンはいっさい処理しません。無駄なポリゴンにパワーを取られないため、見かけ上のピクセルフィルレートを大幅に向上させられますし、テクスチャメモリへのアクセス頻度も減らせます。
I)必要なのは実際に画面に描くポリゴンのテクスチャだけだからですね。
S)これによってテクスチャメモリへのバスバンド幅を低減できるうえ、Zバッファメモリも不要になります。
I)先ほどTalismanの名前を挙げられていましたが、実際にTalismanのアーキテクチャがDreamcastの設計に反映されているということですか。
S)いや、それは違います。発想が似たようなものということです。今回はさらにPowerVR2の内部に「VQ(ベクトル量子化)テクスチャ圧縮」という圧縮伸張技術を取り入れました。テクスチャを圧縮することでメモリの使用量をおさえながら、PowerVR2側でリアルタイムに伸張することができます。これをうまく利用すると、テクスチャメモリが5〜6倍に増えたように使うことが可能となります。ただ圧縮伸張するわけですから、元のデータと比べるとクオリティは落ちます。
I)バックグラウンドのようにクオリティの要求されない部分は圧縮し、人物の顔や服といった部分は圧縮しないで使うと。しかし圧縮テクスチャを使うと、展開に時間をとられるということはありませんか。
S)若干はとられますね。いくらリアルタイムといっても、伸張の処理がかかりますから。もっとも今回のPowerVR2のパフォーマンスからいえば、仮に10%のオーバーヘッドが生じたところで、たいした問題にはなりませんよ。
AGPをしのぐ大容量バス
I)各プロセッサ間を結ぶバスの仕様はどのようなものでしょうか。
S)まずCPUとグラフィックエンジンを結ぶバスは64bitバスです。グラフィックエンジンとフレームバッファを結ぶバスも64bit。どちらも100MHz駆動ですので、800MB/秒のバスバンド幅があります。
I)バスパフォーマンスにおいてネックとなる部分はありますか。
S)GD-ROMドライブですね。CD-ROMドライブより速いといってもたかだか12倍速。まだまだ遅いですね。Dreamcastのメモリはトータルで26MBもあります。サターンは4.5MBでしたのでメモリ容量は5倍以上となりました。またサターンは倍速CD-ROMドライブでしたが、Dreamcastは内周が6倍、外周ならば12倍速に高速化されています。しかし仮に26MB分のデータをGDから読み込もうとすると、サターンと同じくらいの時間がかかってしまうんですね(笑)。
そういった要素は、プログラマが知恵でカバーする部分です。たとえばオープニング画面を読み込んだらすぐに表示して、その裏側でどんどんデータを読み込むといった工夫を行なえば、待ち時間を意識しないですむようになるんですけどね。そういった工夫は、意識して開発しているメーカーならノウハウを積んでいるところですね。
S)ところが、そういう工夫をしていないところもあるわけですよ(笑)。これはノウハウとこだわりの問題なのでしょうね。画面が切り替わればシーンも変わるのですから、少しでもキャッシュに入れておこうとか、使っていないメモリ領域があれば次のデータを入れておこうとか。いかにユーザーの視点に立って、フラストレーションを少なくできるかと考えて開発するかしないかの違いでしょう。ソフトウェア全体のクオリティで考えると、そういった部分で差が出てきますね。
UMAはパフォーマンスを低下させる
I)メモリのSDRAMは、DDR SDRAMのような特殊なメモリを採用しているのですか。
S)いえ、普通の100MHzのSDRAMですよ。Dreamcastのメモリはシステムとグラフィック、サウンドで別々に用意されていますが、NINTENDO64のようにUMAを採用されなかったのはなぜでしょう。
S)UMAはオーバヘッドの固まりだからです。一見安くていいように見えますが、パフォーマンスを重視していくと、それぞれのタスクにそれぞれのメモリを用意したほうがよい。すべてを1つで共用してしまうと、いい音をいっぱい出すと絵が描けなくなったり、絵をいっぱい描いたら音が貧弱になる。CPUとメモリ間の処理が重くなると、バスを絵にまわせないなんてことになります。人を運ぶには乗用車、荷物を運ぶにはトラックということですよ。UMAならコストは安くなりますが、パフォーマンスを考えれば厳しいですね。NINTENDO 64の場合、それを補うのがカートリッジ方式であったり、メモリの増設だったりするようですが。
SH4がいくら広いバスバンド幅を持っていたところで、グラフィックにバスを取られてしまえばCPUはメモリにアクセスできません。サウンドでも同じです。特にサウンドはある意味、高速道路にリヤカーを走らせているようなやっかいなもので、他の車はリヤカーをよけて進まなくてはならない。ところがこのリヤカーがくせ者で、絶え間なく走っていなければならない。そうなると他の車が待たなくてはならない。耳っていうのはとても敏感ですからね。
I)一瞬でも途切れると気がついてしまいますね。
S)それらの特性を考えると、ぜんぶを一緒くたにしたUMAでは、とてもじゃないけどパフォーマンスが出ません。もう1つは、サウンドのエンジニアとグラフィックのエンジニアというのは、一般的には別々なんです。サウンドとグラフィックが競合するのを避けるには、サウンドはサウンドで独自に開発して、あとは「このBGMを出せ」とか「爆発音を出せ」といった具合にコマンドだけを送るようにする。そうするとサウンド側はコマンドどおりに音を鳴らせばいい。そのためにも、サウンドには専用のプロセッサとメモリを持たせるほうがいいのです。
I)セガのゲームマシンはサウンドプロセッサを別個に装備することが多かったのですが、そういう理由もあったのですね。
マルチセッションのGD-ROM
I)GD-ROMはマルチセッションとなっているそうですが、これはどういう構造になっているのでしょう。
S)内周部分はCD-ROMと同じISO9660フォーマットです。外周部は独自のフォーマットの倍密エリアとなっています。これはなぜかというと、GD-ROMを間違えて普通のオーディオCDプレーヤにかけてしまっても、ISOフォーマットのエリアがあれば警告のメッセージを流せるわけです。もちろんそれ以外の使い方も考えられますが。倍密エリアは1GBです。
I)GD-ROMはどうやって1GBもの容量を実現しているのでしょうか。
S)これは非常に単純で、トラックを増やしてピットピッチを細かくするなどで可能としています。
I)ピックアップは今までのCD-ROMドライブより高度なものを使っているのですか?コストに響くと思いますが。
S)いや、ほとんど同じものです。CD-ROMの規格はもう10年以上前のもので、現在の技術水準からみるとかなり荒いものです。たとえばトラックピッチはもっと狭めても、十分データを読み取れます。
I)そうなると、ピックアップ部のコストは従来品に比べてあまり上がっていない?
S)上がらないレベルで実現できた容量が1GBということです。たとえば「レンズの開口を上げよう」なんて言い出すと、DVDのようにCD-ROM用のピックアップを使えなくなってしまいます。
I)GD-Rを作る書き込み用ドライブは、CD-Rドライブとはまったく違うのでしょうか。
S)ディスクからして違いますからね。倍密専用のライトワンスディスクになっています。だからコピーCD-Rのようなことはハナからできません。さらにコピー対策用のセキュリティも施されているので、単純にGDをコピーしたとしてもゲームは動きません。GD-Rドライブは開発会社にしか提供しませんし、ライトワンスディスクも専門に作っています。それ以外のセキュリティも考慮しているので、市場にコピー品が出回る恐れはありません。
DSPモデム+ソフトウェア圧縮伸張
I)内蔵モデムは33.6kbpsとのことですが、DSPで処理しているのですか。
S)そうです。モデムにはDSPが搭載されていて、復変調はこちらで行ないます。V.42bisのような圧縮プロトコルはCPUで処理しています。もちろんCPUで処理する以上オーバヘッドが生じないことはありませんが、CPUパワーの5%程ですからほとんど気にならないでしょう。
I)なぜDSPですべて処理してしまわなかったのでしょうか。
S)コスト問題もありますが、フレキシビリティを追求した結果でもあります。たとえばエラー訂正を行なうと、若干パフォーマンスは低下します。しかし通信データの中には、多少エラーが生じてもかまわないデータというのもありますし、プログラムのように化けては困るデータもあります。それを適時コントロールできるようにしておきたいというのが理由なのです。
I)確かにネットワークゲームでやり取りしているデータは、あまり圧縮の効果がなさそうですね。
S)コントローラのデータをそのまま送っていたりと、たいしたデータは送っていませんからね。
I)モデム以外に、より高速な通信機器を発売するような計画はありますか。
S)いろいろ考えてはいます。ケーブルモデムと接続する10Base-Tのインターフェイスや、ISDN用のTAもあり得ますし、衛星放送用のデータ受信装置もあり得るでしょう。10Base-Tのインターフェイスなら簡単ですね。モデムのかわりに接続してブラウザを作れば、CATVでの高速なインターネット接続が簡単にできます。
I)モデムを接続している拡張コネクタは、通信機器専用なのでしょうか。
S)いいえ。かなり高速なバスが出ているので、モデムをはずして他のものをつなげることも可能です。
I)転送能力はどの程度?
S)16bitの33MHzバスですね。転送レートは66MB/秒になります。
I)かなり速いですね。PCIバスのちょうど半分ですか。
S)実際にはPCIのサブセットなんですよ。もちろんDreamcast用のスペシャルなものですので、PCIそのものではありません。
コントローラバスは2Mbit/秒のシリアルバス
I)コントローラのバスの通信能力はどの程度でしょうか。
S)2Mbitのシリアルバスが4本分あります。
I)本体のコネクタの先にUSBハブのようにハブをつなげて、さらに多くのコントローラをつなげられると聞いたのですが。
S)今のところ具体的な計画はありませんけどね。なにせ本体だけで4つもボートがありますから。それ以上に、今はもっといろいろなコントローラを開発しなくてはなりません。まずキーボードを発売しますし、音声入力用のマイクや釣りコントローラも発売します。
またカメラをつなぐなんてアイデアも面白いですね。モデムと組み合わせれば、自分の顔を取り込んでセガのホームページに送ったり、ネットワーク対戦大会をしたら、優勝者の顔を取り込んでホームページで表彰したりできて面白そうですね。
I)背面のシリアルポートはどういう素性のものなのでしょうか。
S)SH4内蔵のシリアルインターフェイスから直接出ているポートで、400〜500kbpsぐらいの能力があります。実はPCと同様に16550互換のシリアルコントローラなのです。
WindowsCEによるオーバーヘッド
I)OSやライブラリ関係の質問をさせていただきたいのですが、年内に発売予定のタイトルでは、通信対戦に対応しているのは「セガラリー2」だけですね。また年内予定のタイトルではセガラリー2だけがWindowsCE+DirectX上で開発されていますが、これはつまりSEGAライブラリのほうでは通信機能が実装されていないということなのでしょうか。
S)現段階ではそのとおりです。ゆくゆくはSEGAライブラリにも通信機能を取り入れて、いろいろなゲームで通信を可能にする予定です。
I)気になるのは、SEGAライブラリを使った場合とWindowsCEを使った場合で、パフォーマンスにどの程度の差があるのかという点なのですが。
S)常識論から言えば、OSを使えば必ずオーバーヘッドは出ます。それが許容される範囲で済むのか、許されないほどの低下をまねくのかが重要なわけです。いかに低下を少なくするかを、Microsoftさんが努力していらっしゃいますよ。
I)Microsoft WindowsCE関係の開発マネージャの方とお話しした際に、WindowsCE+DirectXの環境でセガラリー2を作ってみせることで、DirectXでも十分なパフォーマンスがあることを証明したいと言われていました。
S)その意味ではセガラリー2はいい試金石ですね。
I)しかしインターネットはそもそも遅延が大きくて、リアルタイムゲームには適していませんよね。この点にはなにか対処方法はありますか。
S)ゲームにもいろいろあって、リアルタイム性を要求する対戦格闘のようなゲームは、今のインターネットでは無理ですね。ドワンゴのような違うソリューションを利用しなくてはなりません。ドワンゴなら遅延の問題はほぼ解消されます。
逆にリアルタイムゲームでないものや、多少遅延があっても対応できるようなゲーム、RPGやシミュレーションですね。そういうゲームならばインターネットでもいいでしょう。重要なのはいろいろなソリューションを用意しておくということです。
I)現時点では、実際に稼働しているゲーム向けネットワークとしてドワンゴがあるわけですが、逆にセガ側でそういったネットワークを提供するというのはあり得ますか。
S)うーん、これもある意味では成り行きの部分もあるのですが。ネットワーク対戦ゲームがPCユーザー以外にも広く受け入れられるということが分かれば、そういうサービスも展開しようとなり得るでしょう。しかし、現状ではどうなるかまだ分かりません。我々もビジネスですから、本当にネットワークでのビジネススキームがきちんと確立できるのかどうかを、見極めなければならない。いずれにせよ少しずつ、ステップバイステップでやっていこうと考えています。
ゲームセンターと家庭をビジュアルメモリがつなぐ
I)Dreamcastをベースにして、アーケードマシン向けの「NAOMI」や、カラオケ向けの「Dream song」といったアーキテクチャも発表されていますが、それとDreamcastとの連携はどのように考えられていらっしゃるのでしょうか。
S)NAOMIに関していえば基本的なアーキテクチャは同じです。メモリ容量やストレージメディアが違いますが、これは家庭で使うかゲームセンターで使うかの違いです。つまりNAOMIからDreamcastへの移植はとても簡単です。また従来は業務用から家庭用に移植するだけでしたが、DreamcastとNAOMIならば、逆に家庭用から業務用への移植というのもありえるでしょう。
さらにビジュアルメモリを媒体にすれば、業務用で遊んだ結果を家に持ってかえり、家で遊んでまた業務用に持っていく。そういったリンクもできるようになるでしょう。Dream songも基本的には同じです。強力な3Dグラフィックとサウンドの機能を持っています。モデムも内蔵しているので通信カラオケにもなります。カラオケならDVDも利用できますしね。さらにビジュアルメモリでカラオケルームと家庭、あるいはカラオケルーム同士で気に入った曲の情報をやり取りするといった具合に、いろいろなリンクが考えられます。
I)カプコンの岡本常務にお話をうかがった際に、NAOMIとDreamcastで発売する対戦格闘ゲーム「Power Stone」では、自宅で遊んだ結果をゲームセンターに持ち寄るということも考えていらっしゃるようでした。たしかに、たとえばDreamcastではシングルプレイで遊び、ISDN回線の引かれたゲームセンターにデータを持ち寄ってマルチプレイヤーゲームを遊ぶという遊び方もあるでしょうね。
S)それだけのコストをかけられればですけどね。そのためには、通信でのゲームというものが広く認知されて、面白いんだということが分かってもらえないと。回線を引くのも使うのもお金がかかりますから。
Dreamcastのめざすコミュニケーション
I)ネットワーク上でのコミュニケーションというと、今はゲームよりもメールやチャットのほうが需要があるように思います。ネットワークゲームに対する期待はどのように持っていらっしゃいますか。
S)大事なものだと思いますよ。現実にPCではDOOM系のシューティングがプレイされていますし、PCの流れはコンシューマにも流れてくるでしょう。ただ、Dreamcastのコンセプトである「Play & Communication」のコミュニケーションとは、対戦ゲームだけではありません。買った負けたはコミュニケーションの1つでしかない。それと同時にメールやチャットといった、遊びの場の中でのやり取りというものが、コミュニケーションの大事な部分でしょう。
インターネットにはよい情報もあれば悪い情報もある。それをすべてひっくるめてインターネットなんですから。そしてそうした世界を通じて、子供たちが情報化社会というものをマスターしていく。よくいう話ですが、ゲームマシンを通して子供たちはハードウェアとソフトウェアの概念をきちんと身につけていますよ。ハードとソフトのどっちが大事か、ハードは遊ぶための道具にすぎない、一番大事なのはソフトなんだと。もちろん子供もDreamcastを欲しがるでしょうが、重要なのはDreamcastで何が遊べるかなんだということを、大人よりもよく分かっています。ソフトに対する価値というものを、自分の実体験で分かっているんですよ。それと同じように、遊びを通して通信ネットワークというものを、電話線が音声を運ぶものではなく情報を運ぶものだと理解してくれるでしょう。そうすればアナログ回線に対するISDNのメリットも分かるでしょうし、将来の「Fiber to the Home」(FTTH)というのが、情報が速く大量に送られてきて今までの不便が解消されるものだと理解できるしょう。「不便だ」ということが分からなければ、「便利だ」ということも分からない。それを子供の頃から実体験で学んでおくと、「2005年にFTTH」というのを聞いて、「それはいいや」と価値が分かるようになるわけです。
I)Dream PassportのWebブラウザには、アダルト情報などに対するコンテンツフィルタの機能はあるのでしょうか。
S)セガのホームページからアクセスする場合は、そういうサイトへのリンクはすべて切りました。ですが、URLやIPアドレスを直接入力してしまえば可能です。アドレスを入れることさえできなくするのは簡単なのですが、結局いいも悪いもインターネットなんですよ。車社会と同じで、インターネットの社会にも日向の部分もあれば日陰の部分もある。それを体験して考えて、自分で答えを出していくしかない。初めからすべて隠してしまうのは簡単ですが、それでは考える余地さえなくなってしまいますからね。いいも悪いもひっくるめて、ではどうすればいいのかというのを考えてもらいたいですね。
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