土質力学5
土の透水性
土の透水性
透水性は,土の中での水の動きやすさを示すものです.土のコンシステンシーについて解説したページで既に述べていますが,ここでも土の中の水種類,吸着水・毛管水・自由水の三つが重要なキーワードです.吸着水は表面張力で張り付き,毛管水は毛管力で引っ張られていますから水はなかなか動きません.簡単に動けるのは自由水です.したがって砂質で間隙の大きい土は,自由水が多いため,透水性も良いのが特徴です.
粘質土の中の水はなかなか動きません.吸着水と毛管水がほとんどだからです.田んぼが水を蓄えられるのは,粘質土が水を通さないからです.これを利用して,ため池の堤体やアースダム,河川堤防が作られています.堤体の中心のコアと呼ばれる部分に粘質土を使って漏水を防いでいます.
透水性を調べる試験は,このような装置を使います.断面積がA(cm2)の筒に土試料を入れ,ポーラスストーンで挟みます.ポーラスストーンは,スポンジのように穴が空いていて透水性の高い陶器です.それを器に置き,水を上から注ぐと,土の中を通って水が浸み出していきます.どんどん水を入れていくと,下にある器から溢れていきますので,溢れ出た量を測ります.
水頭差h(cm)は,水圧に相当します.水頭差が大きくなると,溢れ出る水の量も大きくなります.水頭差hが一定になるように水を上から与え,溢れ出た量を一定時間ごとに測ります.水頭差が一定であれば,時間当たりの溢れ出た量Q(cm3/s)も一定になります.
水頭差hを変化させて,Qを測った時,それらは比例関係にあることがわかります.これがダルシーの法則と呼ばれるものです.Qの値は,断面積A(cm2)と土試料の長さL(cm)も関与していますから,ダルシーの法則は,比例係数kを用いると,次式で表されます.
Q = k (h/L) A = k i A
ここで,h/Lは,動水勾配といって i で表すことが多いです.この透水性試験でのLは縦方向ですが,横に寝かせたり,斜めにして実験したとしても,Lは水が土試料を通る長さです.横に寝かせると,染み出す量が変わってきそうですが,流速自体非常に遅いので,縦でも横でもあまり変わりません.さて,透水係数の単位ですが,i は無次元,Aはcm2ですから,比例係数kの単位は cm/s の次元を持つことになります.ダルシーの法則は,非常に重要なので,覚えておいてください.
QをAで除すと,速度v(cm/s)に相当する値になります.
v = k i
動水勾配が大きいほど速度が速いという意味となっています.ただこの速度vは,教科書にも載っていますが,水の流速とは異なりますから注意してください.水自身は,土粒子の間隙を縫うようにして動いていますが,測って得られるQは,土試料の断面積を考慮したとしても,土粒子が塞いでいる部分がほとんどですから.水が出てきた部分の断面積ではありません.間隙率を使って真の流速に近い値を導くことも可能ですが,細かく言うと,大きい間隙と小さい間隙で速度は違うはずです.その土の透水性を評価し,どれくらいの水が浸み出してくるのかを知るには,この式は使いやすく,適していると言えます.
透水性は,土でダムなどの堰堤を作るときや,コンクリートダムを基礎となる地盤上に置く場合に重要なパラメータです.堤体を設計するときに,水がどのように浸み込んでいき,安全を保たれるかを評価しなければなりません.そのとき重要なのが,流線網です.
土の中の水の流れについて,土を微小立方体で区切って立方体ごとの水の流入と流出について偏微分方程式を立てると,ラプラスの方程式が導かれます.この式は,電磁気学における電流の流れを表すラプラスの式と同じ形です.この式を用いて流線網を描くことができます.流線は水の流れの方向を示し,等ポテンシャル線は,同じ水頭差を持つところを意味します.したがって等ポテンシャル線が密集している部分は,水頭差が大きいことを意味しますから,十分注意する必要があります.流線網の描き方については,教科書を参考にしてください.
土から水が浸み出してくると言うことは,間隙が繋がっていることを意味しています.粘質土の場合は,繋がっていたとしても,水頭差による水圧よりも毛管力の方が強ければ,水が動けない状態ですから,水は浸み出しません.水頭差が大きくて染み出す状況となっても,度を超えた水頭差でなければ,少しずつ染み出すだけで大きな問題に至りません.
厄介なのは,自由水となるような大きな間隙が繋がってしまう状況です.つまり砂質土の場合は要注意です.大きな間隙が繋がって水が流れると,小さな土粒子がそこを伝って流出してしまいます.そうなると,水の通り道,いわゆる水ミチが出来てしまいます.この水ミチは,時間の経過とともにたくさんの小さな土粒子を流出させてしまうので,大きくなっていきます.このような現象をパイピングと呼んでいます.大雨で水位が上昇すると,水頭差が大きくなりますからパイピングで出来た穴は大きくなり,堤体がを壊してしまうことがあります.クイックサンドやボイリングといった破壊的な現象に繋がることもあります.これらの現象は,間隙水圧や有効応力と絡めて理解した方が良いので,土の剪断強さのところで改めて解説します.
堤防やダムが壊れる多くの原因は,このパイピングによるものです.パイピングは,特に構造物と土の境目にできることが多いので,土質を選ぶか,土を調整し,丁寧に施工する必要があります.大雨の時に,構造物の脇や堤体から水が浸み出していれば,改修の必要があります.古くなったため池は,管理が行き届いていないので,定期的なチェックが必要です.