土質力学1
土の成因
土の成因
土木工学における土は,構造物を置く土台としての役割があるだけでなく,土自体を材料としてアースダムや河川堤防に利用されたりします.その土は地域によって特徴が様々で,さらに水を含むと性状が大きく変化します.したがって,土木工学における土質を学ぶ前に,土自体についての知識も非常に重要です.
土はもともと岩石がプレートの移動などの力学的な作用や,気象や火山活動の影響によって生まれてきたものです.地面の土を掘っていくと,どんどん石の塊が大きくなり,ついには岩の塊に到達します.深いところは,気象の影響をあまり受けないので,岩のままで保っていられるわけですが,岩石が地表に露出すると,影響が大きくなります.岩石は様々な種類がありますが,主な成分としては石英,長石,雲母,鉱物などからなり,それらは温度による膨張率が微妙に異なります.気温差によって膨張と収縮を繰り返す結果,亀裂が入ります.亀裂ができると,そこに雨水や地下水が侵入します.水は凍ると膨張するので,さらに亀裂が大きくなってボロボロにしていきます.ボロボロになると,雨によって下に流され,水に溶け出す成分もあって,さらに細かくなりながら流下していくわけです.これが風化現象です.岩石における亀裂は,プレートの移動などの力学的な影響でも生成されますから,地域によって亀裂のでき方や風化の進行度合いは変わります.また,火山の多い日本では,風化の過程を経てできた土だけでなく,火山灰が降り注ぐことによって直接できた土もあります.それぞれ性状が異なるので,その特徴を知った上で,どのように利用するか考えねばなりません.
下の図は,四国の地質図です.緑色のエリアは,中央構造線より南側は,南海トラフのプレートの動きによって圧力を受け,亀裂(節理や片理)の発達した変成岩となっています.亀裂が多いと風化の進行度合いも早くなりますが,亀裂が繋がっているので,地下水が侵入して深いところまで風化を早めます.そうなると,がけ崩れや斜面崩壊,地すべりなどの現象に発展していきます.変成岩地帯に地すべりが多いのは,そのためです.
最も古い地質年代は,5.6億年以前の先カンブリア代ですが,四国の地質の多くは,1〜2億年前の白亜紀やジュラ紀の地質帯となっています.したがって変成をあまり受けていない地質帯では恐竜などの化石も出てきているようです.
土が平野部に多いのは,河川が運んできてくれたからです.現在の平野部は,沖積平野といって,最も新しい地質年代の沖積世(1万年前から現在)にできたものです.その前の地質年代は洪積世(170万〜1万年前)と呼ばれ,その時の平野は既に隆起して河岸段丘や海岸段丘として残っています.安芸市から室戸岬にかけての海岸段丘は,日本でも有数のはっきりとした段丘地形です.下の写真は,吉良川の西側に連なる海岸段丘を出張帰りの飛行機から撮影したものです.
下の写真は,高知工科大学周辺の写真ですが,土佐山田の市街地や大学周辺は,河岸段丘の上に位置していることがわかります.
沖積平野は,土砂が堆積した状態なので土層が厚く,粘質土が多いところは軟弱地盤となり,砂質土が多いところは地震による液状化が心配されます.また,洪水が発生する危険性もあり,様々な対策を講じてやっと住める場所です.
高知工科大学の西を流れる物部川は,高知市内に流れ込んでいたようです.しかし洪水被害も多かったので,野中兼山の指揮によって香南市に流れるように流路を変えました.そのおかげで南国市周辺の広大な平野を農地として活用できるようになったのです.旧河川の流路は,舟入川として残し,農業用の水路として利用されています.
土は,人間が生きていく上で欠かせないものです.植物の育成には欠かせないからです.植物工場のように,土がなくても育成できるのは事実ですが,多くのエネルギーを利用して成り立つものなので,持続的とは言えません.植物の育成の場としての土は,土壌と呼ばれています.岩石からの生成物に加えて,有機物の存在が植物の育成に大きな影響を与えます.落ち葉は細菌によって分解され,土と混ざって腐葉土となります.農学の分野では,土壌学として重要な研究分野となっています.
一方,土木の分野では,土を材料として扱うことが多いので,有機物の存在は無視することになります.したがって,土質力学において土を構成する物質は,単純に,土粒子・空気・水の3つの要素に分けて取り扱います.構成要素は単純とは言え,土粒子の大きさや空気・水の量によって性状が変化しますから土質力学ではそこを常に意識しながら学んでください.
さて,生きていく上で欠かせない土ですが,ダムや河川堤防によって農地や海岸に土が供給されないようになっています.農地は化学肥料で賄っていますが,土壌汚染が問題となっています.汚染された水が海に流されるからです.海には新しい土が供給されず,海岸の砂浜が減少することで,魚の産卵の場も減少しているようです.洪水被害を防ぐ目的では,ダムや河川堤防が機能していますが,環境保全の視点も欠かせない時代になっています.