2026.1.21|Wed.
2026.1.21|Wed.
みなさんは、「よりよいスポーツの在り方」について、考えたことがありますか?
現代社会は、驚くほどのスピードで医科学技術が進んでいます。その影響は、スポーツの世界にも流れ込み、私たちに難しい問題を突き付けています。たとえば、生命科学の進歩によって、遺伝子ドーピングの問題が顕在化したり、性分化疾患である女性選手のオリンピック参加資格をめぐる問題が取りざたされるなどはみなさんも知っているかもしれません。このような中で、とりわけ問われているのが、スポーツの本質や意義についてです。
この根本的な問いと向き合う中で、スポーツ哲学・スポーツ倫理学は、「スポーツ社会における正義」と真正面から向き合うアプローチを取ります。スポーツという文化を、今から10年後、20年後に主役となる将来世代にどのような形で引き継いでいけばよいでしょうか。「望ましいスポーツ」の形を考え、理想の形として世に向けて発信し、現状、問題が生じているルールや規制をどう変えることが出来るでしょうか―。
私たちが倫理的判断を下すときに大切なのは、直観だけではなく論理的な推論も必要だと認識することです。直観を脇に置き道徳的に推論することで、客観性のある結論を検討できるようになります。それこそが物事を本質的に捉える哲学的な思考だと思います。ある立場に立って結論を提示すれば、異なる立場から批判されることもあります。しかし、一人ひとりが妥当と思われる根拠をもち、論理性がある結論を提示することで議論は深化します。
私自身は、カント実践哲学(義務論的立場)をバックボーンとし、スポーツのさまざまな課題(ドーピング問題、スポーツとジェンダー、スポーツ指導における暴力の問題、アスリートの遺伝子解析をめぐる倫理的問題など)について研究しています。数学のように答えが一つではなく絶対的正義は存在しなくとも「答えがないわけではない」と念頭に置いて、思考を止めないことが重要だと思います。
哲学的視点からの原理的研究は、実際のスポーツ現場に貢献でき、還元できるということも知ってもらいたいと思います。実際に、自分が取り組んできた研究を背景に、たとえば全日本柔道連盟のハラスメントに関するガイドブックを作成したり、日本スポーツ振興センターのアスリートの遺伝子解析研究に関するポジション・ステートメントの策定に関与したりしました。
よりよいスポーツの形を未来に、その思いで、研究と実践の架け橋になりたいと思います。