2025.11.10|Mon.
2025.11.10|Mon.
私はスポーツコーチングに関する研究に取り組んでおり、特に「コーチ」や「コーチを育てる人(コーチ育成者)」に焦点を当てています。
今回は、日本のあるインターナショナルスクールで指導する「教員兼コーチ」に着目した研究を紹介したいと思います(Mizushima et al., 2025)。
インターナショナルスクールには、世界中から多様な文化や言語背景をもつ生徒が集まります。こうした学校では、授業だけでなく、スポーツや課外活動も「教育の一部」として大切にされています。先生たちは授業(数学や英語など)を教えるだけでなく、放課後にはスポーツの指導も行います。この「教える」と「指導する」という二重の役割が、教員兼コーチにとってどんな意味をもち、どんな経験につながっているのかを研究しました。
研究では、7人の教員兼コーチにインタビューをして、その言葉を「ポジショニング理論」という理論を通じて分析しました。これは、人がどのように自分や他人の役割・立場(position)を言葉や行動を通して作り出すかを考える理論です。
その結果、次の3つのテーマが明らかになりました。
1. 全人教育の担い手としての役割
教員兼コーチたちは、自分の役割を「スポーツの技術を教える人」以上のものとして捉えていました。勝つことだけを目指すのではなく、生徒の人間的な成長や仲間との関係づくりを重視していたのです。つまり、「スポーツを通じて人を育てる」という教育的な視点を持っていました。
2. 文化の違いを橋渡しする役割
インターナショナルスクールでは、国や文化の違いが日常的にあります。教員兼コーチたちは、言葉や価値観の違いを理解しながら、誰もが安心して参加できるチームづくりを心がけていました。たとえば、英語が得意でない生徒にはジェスチャーや実演を交えるなど、コミュニケーションの工夫をしていました。
3. 専門性を高め続ける役割
多くの教員兼コーチは、特別なスポーツコーチングの教育を受けていませんでした。それでも、同僚との対話や生徒からのフィードバックを通して、自分の指導を振り返り、よりよい方法を探していました。つまり、日々の経験から学び続ける姿勢を持ち、コーチとしての専門性を高めていたのです。
この研究から、国際学校でのスポーツ指導は単なる「おまけ」ではなく、学校の教育理念と深くつながる重要な活動であることが分かりました。教員兼コーチたちは、教育者としての責任を果たしながら、文化の違いを超えてチームをつくり、生徒の成長を支えているのです。
詳しい研究内容はコチラ