昨年末、COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)で温暖化防止に向け各国政府が行動目標が議論されました。
今回はそれを牛さん目線で見てみようと思います。
COP26は条約の締約国で集まって温暖化対策をどうするか話し合う会議です。
この時皆が集まるにしても土台となる客観的なデータがないと話になりません。
それを研究して提出するのが IPCCです。
まずはこのリンクをご覧ください。ABCD と章立てされているのですが、注目してほしいのが D 1です。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 6 次評価報告書
一体どういうことを言いたいのか少し分かりにくいですね。
私も一読してもよく分からず、この章に関するYouTube の動画や記事をいくつか見てみました。
捉え方が間違っているなら申し訳ないですが、要するに人間が様々な温暖化抑制策を講じて空気がきれいになったとします。
すると空気中の塵などが減り、太陽光が差し込む量が増え温暖化してしまうということらしいのです。
その際、メタンなど他の温室効果ガスを削減する必要があるということなんですね。
これがかなり捻じ曲げられて、牛のゲップを何とかしないといけないというような報道に繋がっているのです。
また、解説している人の中には、今までの人間の活動をできるだけ維持する時間稼ぎのため、メタンの方を先行して減らすのが温暖化抑制に有効だと言ってしまってる人もいました。
このことを牛さんが聞いたら、多分ブチギレますよね(笑)。]
「てめえが今のままでいたいから、ゲップ我慢しろってか!!」ってね。
酪農の現場から見れば今の温暖化対策が、滑稽に見えてくることがあるんです。
最近、温暖化防止の観点からも人工肉を推進するべきだという話があります。
実際アメリカでは人工肉を作るビヨンドミート等の会社が株式市場などで注目を集めています。
ただ、これも農家の人から見れば本当に温暖化に貢献するのかな? って疑問に思ってしまうんです。
人工肉は植物タンパク質から作られます。
いもや小麦もタンパク質を含んでいるんですが、とりわけ大きなタンパク質を含んでいるのは豆類。
よく1 kg の牛肉を作るのに十キロの穀物が必要だという話を聞くことがありますよね。
これだけ聞くと肉を動物から取るのがとても非効率のような気がしてしまいます。
ただこのような記事もあるんです
本格化する人工肉ビジネス 日本の国家プロジェクトがMeatTechで安定的・持続可能な人工肉を目指す理由
この記事の中ほどを見ると、
「仮に10㎏の植物肉を生産するためには100㎏前後の穀物が必要になる訳です。これでは現在の家畜肉の生産システムと基本的に変わりません。」
という記述もあります。
「豆類除くと書いてあるよ」と思った方もいるでしょうが、でも配合飼料に含まれる豆類も極一部なんですけどね。
また、この記事内には、人工肉を作った後の食物残渣をどうするのかという問題も提起されています。
農家じゃない方はご存じないでしょうがこういった残渣物の処分に関しても畜産業は貢献しています。
例えば数年前に米国でとうもろこし由来のバイオ燃料製造が大規模に執り行われました。
その時に絞られたトウモロコシのカスはDDGSという名の飼料として配合飼料などに使われています。
表面上のいい所ばかりを強調されてしまうと、どうしてもその裏の部分に目が行き届かなくなりますよね。
もし人工肉ばかりの世界があるとしたら、その植物を育てる畑はどんな状態になってしまうのかも心配なところです。
家畜の数が減るわけですから、栽培する畑に施肥される肥料は必然的に化学肥料のみになります。
化学肥料は食物を育てる上で大変有効な手段です。
ただ、化学肥料のみ何年にもわたって栽培していると、土が固くなってしまいます。
有機質肥料が施肥されていると、土の中の微生物が活発に活動し、団粒構造を形成してくれます。
この記事をご覧ください。
こうしたことを考えると、有機質肥料の供給源としての家畜糞尿は必要なのでは?と思ってしまいます。
畑の使われ方にしても、「畜産をやっているから植物肉を作るための畑がないんだ!!」 何て思われる人もいるかもしれません。
IPCC特別報告書「気候変動と土地」に関するIDF‐GDP共同声明
この記事の中にも書いてあるのですが、現状でも放牧などを通じて畑を有効に活用はしているんです。
酪農家としても条件のいい畑には作物作って、傾斜地等悪条件の畑に放牧しているんですね。
よく温暖化防止のために森を保全しようと言う話もあります。
植物は空気中にある二酸化炭素を吸って体の中に取り込み時間をかけて分解されるため、その間二酸化炭素を外に出さないでいてくれるという話です。
先ほどの肥料の話に戻ると、有機肥料には CN 比という指標があるのをご存知でしょうか?
C/N比とは?有機物の分解速度から考える効果的な土壌改良方法
牛の堆肥のCN比は他の鶏や豚と比べて高い為、より長い時間炭素とどめておくことができるんです。
また化学肥料の原料不足から、黙っていても有機肥料の重要性はどんどん増してくるでしょう。
ここまで書いてくると「この人は温暖化対策反対なのかな」と思われてしまったかもしれません。
実はそんなことはなく、この問題は皆で取り組んでいかないといけない問題なんだと思っています。
ただなんか最近の議論はちょっとおかしな気がして仕方がないだけなんです。
環境問題から電気自動車の推進が求められています。
でも、本当にそれで対策になるのか分からないだけなんですよ。
以前あるラジオ番組で、
「グレタさんは大人の誰かに入れ知恵されてあんなことを言っているんだ」
と嘆いている方がいました。
ただ僕は彼女のような人も必要なんじゃないかなと思ってます。
すでにいい大人になってしまった我々が、優しく諭されたぐらいで根本的な考え方を変えるとは思えません。
ある種のショック療法として彼女の様な存在は必要なんだと思います。
ただ本当に有効なものは何なのか、それを選別する目は皆さんとともに持っていたいなと思います。
(浅野正慶)