2019/12/13
GAPと乳価
去る11/27にGAPの講習会に参加してきました。講習会と言ってもGAPの概要の説明と実際に認証をとった農家の人の講演との簡単なものです。でも、参加して考えさせられる事が多々ありました。
講習では、まずGAPの理念と概要について説明をされました。
GAPとはJapan Good Agricultural practiceの略で、農畜産物の安全確保し消費者を保護・地球環境保全・持続的農業経営を確立する事を理念とした、作業工程の管理を認証してもらう制度です。
リンクを見てもらったら早いですね。
次に実際に認証を受けた農家の方の講演。印象に残っているのは、導入して経営的なメリットが出たと言っていた事でした。
取り組み項目は、極々大雑把に言うと
「まあ、それやっとけばいいよね・・・。」
と思われる事ばかり。
普段、忙しくて手が回らない所を丁寧に一つ一つやる。最終的に経営改善に繋がるといった趣旨のお話をされていました。
様々な作業の記録・整理整頓・労働環境の整備等。
農家のみなさんなら、
「俺だってやりたいよ! けど・・・(←ここに各自、言い訳を入れて下さい)だから出来ないんだよ!」
って言いたくなりますよ、間違いなく(笑)。
「事務所のトイレが清潔に保たれているか?」
という事まで問われます。トイレより先に牛舎掃除した方がいい人、結構居るんじゃないですか(笑)?
認証自体は取り組み項目が明確で、さながら試験の様な側面も有ると感じました。
ハードルの高い試験も、問が決まっていれば、クリアーする為のノウハウ・知恵が蓄積可能だと考えます。
それらは共有する事が比較的容易で、認証取得への最短ルートを個人ではなく、団体で模索する方が有利な気がしました。例えば、農協とか県の経済連とかが主体になって、農家の人を指導したりするのです。
HACCPもですが、これらは消費者が購買行動する上で、大変わかりやすい指標だとも思えてきました。
現在、生乳価格は大まかに成分・体細胞・細菌数によって差別化されています。これらの中で、体細胞に関しては消費者にわかりにくい指標だと感じました。
成分に関しては味が変わってくるのでわかりますよね。
細菌数に関してはそもそも高いと製品として出荷されませんよね。
体細胞はどうでしょう?
例えば、体細胞が少ない牛乳と高い牛乳(もちろん法外な値ではないですよ)飲み比べ可能でしょうか?
「うん、これは5万でこっちは48万だな」
みたいな。
「俺は、わかるぞ!!」
という方も、もちろんいるでしょう。しかし、違いがわかる消費者がマジョリティーで、かつそれに相応の対価を払ってもいいと思ってもらわないと体細胞で価格差はつけられないような気がします。
歴史的に体細胞・細菌数の基準が無ければここまで、乳質が向上していたかは疑問です。
ただ、色々な資料を見ると、体細胞・細菌数は大半の酪農家がクリアーして、既に乳価の算定基準としての機能に疑問符が付いているのではと思いました。
こうして考えると、こと体細胞に関しては極めて生産者よりの指標だと思えてきます。
GAP・HACCPは認証の基準が広く公表されています。
また、おのおのの項目も体細胞に比べて消費者の人が理解しやすいものです。
酪農家にとってハードルが高く時間のかかる取り組みですが、逆に言えば、大半の酪農家がクリアーするのに時間がかかるほど、その間は算定基準としての機能を維持し続けられるとも言えます。
認証を受けるのが難しく、取り組み意欲がそがれるとするなら、認証までのプロセスに段階を設けるのも一案でしょう。
「ここまで、出来たから5円上乗せ」
というようにです。
こうしてみるとGAP・HACCPが乳価算定基準として適しているような気がしてきませんか?
ヨーロッパでは、GAP発祥の初期には他国間での取引に認証の有無で不公平感が出たそうです。
「俺たちは苦労して認証取っているのに、輸入物に無いのは不公平だ!!」
と言った具合です。
これはヨーロッパの国々の間での話でしたが、国際間の取引でGAP・HACCP認証が広まれば、同様の事が起きるでしょう。輸入物と国産で認証の差異が存在すれば、公平な市場競争の観点から、是正を求められるのは明らかです。
想像してみてください。一般の消費者の方が、スーパーで乳製品を買おうとしています。目の前に、外国産だが認証有りで安い乳製品と、国産だが認証無く高い乳製品があったとします。どちらを購入するでしょう?
今はまだGAP・HACCPが消費者に認知されているとは言い難いですが、その前に酪農家の自主的取り組みとしてクリアーしていく事が必要なのではないでしょうか? 消費者の方が気付く前にです。
建物の外に出ると、大粒の雨。
時間ギリギリに飛び込んだので、少し離れた駐車場に車を停めてました。おかげで車までに随分濡れてしまいました。
乗車後、街灯の灯りで改めて取り組みリストを見ます。より取り組みの細かさ・大変さが実感を持って感じられ、威圧感さえ放っています。
これを、経営陣のみならず、従業員にまで理念を理解・定着してもらわないといけません。
一体、どれくらいの時間を費やせばいいのだろう・・・。
「もしこれが、乳価算定の根拠に追加されたら・・・」
そう考えると、寒気がしました。
雨に打たれたせいでしょうか?
自分でもわからぬまま会場をあとにしました。
(浅野正慶)