今回は酪農の現状を見る上で、興味深い記事があったのでとりあげ、2022年を振り返りたいと思います。
まずはこの記事。
朝霧メイプルファームさんが、赤裸々に牧場の現状を語ってくれています。
各種の資材高で経営が苦境に立っている様子がみてとれますね。
何よりここまで自分の経営を開示してくれた事に敬意を表します。
自分の経営の中身をさらすのは抵抗の有る事ですが、こうしないと今の苦境をわかってもらえないとの思いなのでしょう。
当社も皆さんの理解に役立つ様に、資料を作りましたのでご覧ください。
経費の中で突出して大きいのが飼料費である事がわかってもらえたと思います。
54:家畜管理と62:その他経営費に削減の余地が有る様にみうけられます。
しかし、54:家畜管理は育成牛が増えたため預託料が増加したもの、62:その他経営費は牧場立ち上げ時の借入金償還なので、削減の余地は実はそれ程ありません。
この様な状況ですから、酪農経営が厳しいと言われているのもご理解頂けるのではないでしょうか。
書かれている内容としては、
- 過去、良い時も悪い時もあった。悪い事だけ強調されても・・・
- ホル♂が10万円もする方が異常
- 「酪楽事業」など有利な補助事業。
- 民間平均年収を上回る畜産所得。 労働時間当たりでも
- 分娩集約とヘルパー利用で余暇を作り出せるはず
-ニュージーランドの放牧酪農をみならえば
かいつまんでみると上記の様な点をあげられていました。それについて思うことを書きたいと思います。
山下先生のいう通り、好況の時に不況に備える経営力を身に着ける事は必要な事です。
コロナで飲食店などは大変苦しんでいた時にも、補助金は支出されたわけですが、それ無しでも経営していく事が民間企業の目指すところでしょう。
果たして、我々酪農家は好況時に何をしていたのでしょう?
この点については猛省しないといけないかもしれません。
酪農家の経営力が他産業の方より低いというのは認めないといけない事実かもしれませんね。
ただし、日本の他産業の経営者がすこぶる優秀かといわれれば・・・。
事実、日本からGAFAの様な企業群が出てきてないですし、山下先生の研究所の冠企業だって、今頃ASML(オランダ)の様になっていたっておかしくなかったはずです。
他を責めても意味はありません。
でも、これが日本の企業経営者育成全体の問題だとするなら、何らかの対処をしないといけないのかもしれませんね。
※ [市場集計表 (hokuren.or.jp)](https://www.kachiku.hokuren.or.jp/Downloadresult.aspx)
※ 上記サイトの「主要品目の価格動向」を集計
減少幅、エグッ!!
山下先生、10万円は確かに高かった。
けど、9000円代だった事も無くないですか・・・。
ちなみに、今年に入ってからの販売価格の下落は畜産大手の破綻が相次いだためです。
補助事業の在り方については農家自身も問題があると考えています。
日本の補助事業は、「何かを買うから、その何割かを助成」というのが大半なんです。
なぜ、メーカーではなく農家に直接補助金を支給しないのでしょうか?
これでは農業関連メーカーも競争原理も働きにくいと思います。
たまに農機具の部品を海外から直接仕入れる事があります。
過去にこんなYoutube動画も作ってました😅
メーカーの法外な値付けをしていることに愕然とすることも多々有ります・・・。
製造コストにしたら数千円位かなあ・・・みたいな部品に何万円単位の値付けをしてくるのです!!
「輸入コスト等色々かかるので・・・」(←メーカー談)
まあ、それでもそれが無ければ動かないので泣く泣く買うわけですが・・・😥。
農家は補助金漬けとのそしりを往々にして受けるわけですが、補助金支給の方法にも大きな欠陥があり、それは農家のせいではないと思いますよ。
直接農家に所得補償の様な形にしてくれたら、私たち自身が自分の経営に合う最も低コスト・高効率な装備を模索する様になるでしょう。
削れば自分の収入が増えるインセンティブが働くわけですから。
※ 「酪農全国基礎調査」からみる 日本酪農の現状 -中央酪農会議
※ 9ページの平成29年度 酪農経営主の年間労働時間表より
全国はわかりませんが、少なくとも北海道では自給飼料生産していない酪農家など居ないのでは?と思います。
一般の労働者で年3300時間強の労働・14日に満たない休日の労働環境で働いている人の方が少数派だと思うのですがいかがでしょう?
週1日の休みだとしても、52日は休みますからね。
2つ目の記事後半で農林水産省職員もそれぐらい働いている旨書かれていますが、目指すべきは双方にはらむ問題を一般労働者の就労形態に近づけて、ワークライフバランスを取れる様に解消していくことなのでは?と思ってしまいます。
加えて、一般の労働者と比較するなら、労働者一人一人に酪農家と同額の負債を背負ってもらって初めて比較の対象になるのではないでしょうか。
※ 上記2つともわかり易いサイトを探してみました。酪農家は借金返さなくてOKなん思ってませんよ。双方のサイト運営者さんありがとうございます
上記サイトの世帯1400万円弱というのと、頭数×80万円~100万円という額は肌感覚としても妥当だと思うのですが、一般の方・酪農家さん双方どう思います?
これらを比べると家族3~4人で100頭飼養する人で8千万~1億円の資本を投下して生産している現状・・・。
これくらい収入無いとどうやって返済していくのか逆に聞きたいくらいです。
比較するなら一般の中小企業さんと比較するのが適当だと思いますね。
分娩集約はやった事がないので評価しようがないですが、真剣に検討はしてみるべきですね。
ヘルパーに関しては理念と現実が乖離しているような印象です。酪農家さんの余暇を作り出すための制度なのでしょうが、酪農家の皆さん自由にヘルパー取得できてますか?
比較の対象にされている一般労働者の法定休日を週1~2日とすると、ヘルパー取ってる日が23日強と少ない事は明白です。
先程の年14日の休日と整合性が合わないのでは?と思われた方。
農家の人はヘルパー来ても休まない日も有ります。
単に人手が足りない時に搾乳だけでも・・・なんて形でとる事もありますからね。
「労働基準法違反な働き方なのでは?」と疑問を持った方。
そもそも農業は労働基準法適用除外職種です。除外にしないとやってけない位ハードな仕事だと思いますよ。
ヘルパーを呼ぶのも、酪農家さんは譲り合って来てもらってる状況です。
「希望通りに来なくても仕方ないよ。だって○○さんの傷病が入ったんだから、うちは我慢するか・・・」
というのが一般的な現状です。
山下先生は放牧を薦めているようですが、日本とニュージーランドでは、あまりにも国土の置かれている状況が違いすぎます。
まず気温が違います。ニュージーランド各地と酪農のメッカ十勝を比較してます。冬の最低気温に注目してください。
ニュージーランドあったかくてうらやましいなあ・・・。
そりゃ草生えるよ。いや、マジで草生える(笑)
十勝の最低気温エグッ!!
十勝で無牛舎で年中外に牛出して飼ってみてください。間違いなく何頭も死にますよ(笑)。
そして国土の様子。
皆さんもGoogle mapで見てください。日本山ばっかだから。
「いやニュージーランド結構平地あるじゃん。そりゃ放牧できるわ。ていうか、うちらも放牧やりてー!!」(←酪農家心の声)
とまあ、色々反論めいた書き方になってしまいましたが、僕は昔から山下先生の記事を論座やプレジデントオンラインで読んでます。
農業の暗部を抉る筆致で膝を打つ感覚を与えてくれますので。
ただ、今回はあまりにも違うものを比べてる感じがしたので書きました。
山下先生のような人には、農家と日本国内の何かを比較するのではなく、海外の農家と何が違うのか、気象・国土・政策・技術・ファイナンス・市場価格etc、そっちに焦点を当てた記事を書いてくれたら嬉しいのになと思います。
最後になりましたが、酪農家にとっては2022年ロクな年でなかった事は確かだと思います。
そんな中でも、とにかくしぶとく生き残るしかありません。
来年はより良い年であることを願って結びの言葉としたいと思います。
皆さん良いお年を。