第5話
都計審の議決はどの程度の
法的な効力があるのか
都市計画審議会で議決したことは
市長が参考とする程度かそれとも拘束するのか
そんな基本的なことも知らずに審議している
1.提出議案にかかる発言等
横浜市の都市計画審議会が、2009年8月28日に開催されたので、市民委員として出席した。全委員25名中の16名の出席であった。
これまでは出席率の良かった市議委員が、総選挙中であるためか10名中の5名が欠席であった。いつもは欠席の多い大学系委員は、夏休み中のせいか、珍しく欠席は1名のみだった。
今回初めて、自治会・町内会長枠市民委員の方がご出席であった。そのかわりもうひとりの公募市民委員は欠席だった。
議事に入る前に、前回の審議会においてわたしが提案して保留となっていた「書面議決」について、審議会事務局から回答があり、政令に出席議員による 議決とあるので、出席しない委員の書面議決は不可とされた。了承。
今回の議題は次の3つであった。
(1)ヨコハマポートサイド地区の地区整備計画の変更
(2)地区計画の用語記述変更(事務的事項)
(3)廃棄物処理施設親切に関する建築基準法第51条諮問
いずれも原案の通りに全員一致で通過した。そして委員の発言はこれまで3回の出席審議会に引き続いて、またもやわたしがいちばん多いのであった。 図らずもそうなってしまう。
(1)ヨコハマポートサイド地区の地区整備計画の変更
再開発肩の地区計画であり、敷地ごとに事業内容が決まるとそれに対応して地区整備計画を定めるようにしてきており、今回の議案もそのひとつであった
都市計画として特に問題とすべきことはない。原案に同意可決。
ポートサイド地区は小規模な住商混在地区と大規模な工場地区があり、港みらい地区から貫通してくる幹線道路が串刺しのようになっている。
横浜駅に近いので開発ポテンシャルを見込まれて、1970年代から構想、80年代から順次に事業化されてきている。
初期の都市公団主導の開発地区は、きちんとしたデザインコードや戦略的床利用を持って進めていたことが見える。しかし当初の意気込みに対応するには、マーケットの広がりが足りない様子が見える。
それに続く横浜市施行の第2種都市再開発事業は、中心の幹線都市計画街路の整備と建物を一体事業として行なっているが、上の初期と比べるとデザインコードが弱くなっているようだ。
そしてそれらとは別に個別に建設してきたいくつかのビルは、だんだんとデザインコードから外れてきている。それを社会現象としてみていくと興味深い。
●特定行政庁事務局(都市計画課長)回答要旨
(建築基準法51条の適用の趣旨説明と、横浜市の都市計画手続きは諮問であろう討議であろうと都市計画審議会の結論を尊重する旨を述べた後に)本件については 国や他の行政庁に問い合わせて、次回審議会において回答する。
●学識経験者委員(大学法学部教授)発言要旨
建築基準法51条の「議を経る」と、都市計画法のそれとは成立状況が異なるので、意味も異なると解すべきである。
また、一般に都市計画審議会の議案を諮問か付議かについては、提出する議案ごとに行政庁の考え方によるとしてよいと考える。
=====発言終り====
(3)の議題については、ほかに内容に関する発言はなく、原案通りに可決して「答申する」ことになった。
わたしの頭の中では、まだ「諮問か付議か問題」は解決していない。もしも行政庁の裁量で、諮問でも付議でもよいとしたら、なぜその議案は審議会を諮問機関として議決が行政庁を拘束しないのか、なぜこの議案は参与機関として拘束するのか、その分別の理由を問うことになりそうだ。
(2)地区計画の用語記述変更(事務的事項)
根拠法の条文番号が変ったり、道路名称が変更されたりしたことに対応して、それらを記述した地区計画のその部分を書き換えるもので、全くの事務的な変更である。
行政庁において専決処分してもよさそうなものだが、法に定める軽微な変更事項として記述がないので、審議会の議を経ることになるのだそうだ。原案に同意可決。
(3)廃棄物処理施設新設に関して建築基準法第51条諮問
工業専用地域の中に民間運営の廃棄物処理場施設建設にあたって、その敷地の位置は都市計画上支障がないか、建築基準法51条によって都市計画審議会の議を 経て許可するというものである。
現地に行ってみたが、鶴見の北東の川﨑市に近いところであり、東京湾を埋め立てた臨海工業部地帯の中にあって、周囲は大規模工場と流通倉庫施設で、緑化ベルトのほかは殺風景なところだ。
既存の廃棄物処理場へ出入りする大型のゴミ運搬車の通行が多い。
当該敷地に隣接する海側には、プレジャーボートのマリーナがあり、取り合わせが奇妙な感じがする。そちらから文句が着そうなものと思ったが、どうやら本件施設設置者の関連企業の経営らしい。
環境アセスメントを行なっており、その内容や環境進再開の議事録を読んだが、専門的なことはわかりにくい。
工業専用地域の中では問題はないだろうが、1キロメートルほどの内陸側には学校や住宅がある工業地域がある。
廃棄物処理は焼却を行なうので、煤煙やらダイオキシンやらが、どこまでどの程度が飛散するのか、それがどう影響を及ぼすのか、じつはアセスメント書を読んでも素人ではわからないのである。
審査会ではかなり厳しい注文を出していることが議事録からわかるから、それに期待するほかない。
この議案でわたしがひっかかったのは、この議案書にだけ(諮問)と特に記載されていたことである
この議案は果たして諮問でよいのか、諮問ならそれに対する審議会の答申に横浜市長は拘束されないことになるが、都市計画審議会としてそれでよいのだろうか。
そこでこの件については、苦心して書いた発言メモを持って出席した。
わたしがいちばん多く発言したが、メモをもとにそれを記しておく。もちろんわたしのほかの委員と事務局の発言がたくさんあったが、わたしが理解した要点のみをここに記す
=====発言====
議案860号に関して内容の審議に入る前に、その手続きについて質問があります。
建築基準法第51条における「都市計画審議会の議を経て」と、都市計画法第18条第1項及び第19条第1項における「議を経て」とは、その手続き及び議決の効力において同一であると解してよろしいか。
●特定行政庁事務局(都市計画課長)回答要旨
同じと考えて良い。
●伊達発言
議案860号の内容の審議に入る前に、議案の手続きについて議案書の記述に瑕疵あるいは瑕疵とまで行かなくとも疑義が生じて誤解を招きやすい表現があるので、それを指摘します
先に質問のお答えにあるように都市計画法における「議を経る」と同様であるとすることについては、わたくしもそれが本来は都市計画決定することへの 代替的措置であるので、その通りと考えます。
その結論のうえでの疑点を指摘します。
本議案は「諮問」と明記して議案書を提出してありますが、本件は都市計画法第77条の2第1項の前段の規定による法定議決事項であって、同条同項後段に定める諮問事項ではないと、わたくしは考えます。
これだけではお分かりになりにくいでしょうが、都市計画審議会のありかたにかかわる本質的な問題を含んでいて、ほかの議案にも関係しますので、詳しく説明いたします。
都市計画法及び建築基準法に定める「議を経る」とは、都市計画法第77条の2第1項の前段にある「この法律によりその権限に属させられた事項を調査審議」させることであります。
この77条の2第1項は、前段と後段に分かれて、二つの事柄を記載してあります。
前段は先ほど述べたとおりですが、後段はそれから続いて、『及び市町村長の諮問に応じ都市計画に関する事項を調査審議』させることとしています。
当該議案が諮問ならば、後段を適用していることになり、都市計画審議会の立場を行政法で言うところの「諮問機関」としていると解されます。
一般に「諮問」への「答申」とは、「市町村長が参考のために意見を聞く」への「問われたから意見を上申する」という意味で、諮問者と答申者は上下関係にあって、答申を受け取った上のものは答申内容に必ずしも拘束されないのです。
答申ならば、両論併記あるいは答申不能ということもありえます。
もしも本議案が諮問に対する答申を求めているとすれば、当審議会の議決は建築基準法51条にかかわる特定行政庁の行為を拘束しないものとなります。
ところが、この都市計画法第77条の2第1項前段には『この法律によりその権限に属させられた事項を調査審議させ』とあります。
これは法定議決事項の審議の場合であり、法定議決事項については、「議を経る」事柄なのです。この場合は諮問ではなく通常は「付議」とされます。
建築基準法51条による当議案は、法定議決事項です。
この前段の規定で「付議」された法的議決事項は、必ず採否を議決しなければならないし、その結論を受け取った行政庁はこれに拘束されるものです。
つまり、前段の事項の調査審議では、都市計画審議会は行政法で言うところの行政庁における「参与機関」の位置づけにあり、後段の事項の調査審議では「諮問機関」の位置づけにあると解されます。
現に鎌倉市都市計画審議会では、法定議決事項は「付議」事項として市長へ議決の結果を「通知」しており、その一方で、市長が任意または条例により諮問する事項は「諮問」事項として、その審議事項を市長に「答申」しており、これら二つを明確に分けています。
なお、川崎市の都市計画審議会では、全ての議案を諮問、答申としておりますが、これは誤解を招くものとわたくしは考えます。
参考のため、条文の「議を経て」の解釈について、国の機関の考えをご紹介します。
1999年発行の建設省都市局都市計画課監修の「逐条問答都市計画法の運用第2次改訂版」277ページにおいて、法18条1項の「都市計画地方審議会の議を経て」の解釈についての記述は、次のようになっています。
『都市計画地方審議会の議を経ない場合は都市計画の決定等が無効になると解すべきであり、また、議を経たが同意する旨の議決がない場合には、その都市計画の決定等には、通常重大な瑕疵がありうることになり、無効となる場合が多いと考えられる』
これから判断しても、法定議決案件に関する都市計画審議会の立場は、行政庁の意思決定に参与する権限をもつ「参与機関」であると解されます。
以上により、本議案は「諮問」に対する「答申」を求め、その答申内容に行政庁が拘束されないものではなく、「付議」として採否の「議決」を求め、その結論に特定行政庁は拘束されるものと考えます。
都市計画審議会は、議案の修正はできないものとされていますので、ここで指摘をして、できれば善処されたいと存じます。
☆参考(「広辞苑」第5版岩波書店)
【諮問】意見を尋ね求めること。下の者や識者の意見を求めること。「―機関」 ←→答申
【答申】上司の問に答えて意見を申し述べること。特に、諮問機関からの行政官庁に対する意見の具申。「審議会の―」「改革案を―する」 ←→諮問
☆参考(山本晋/「立法と調査」NO.216・2000年3月)
参与機関は、法の適用の公正を図る等の目的で行政機関の意思決定に参与するもので、行政機関はその答申に法的に拘束されます。
これに対し、諮問機関は、重要政策、基本的施策等に関する行政機関の意思決定に当たって意見を述べるもので、答申に法的拘束力はありません。答申の尊重義務が法文上明示されている場合もありますが、その場合も同様です。
☆行政法による行政機関とはhttp://gyousho.lifetac.com/gyouseihou.html
・行政庁:行政主体の意思を決定し、外部にそれを表示する権限をもつ行政機関。行政の迅速性や統一性などのために独任制(行政庁を構成する自然人が一人)であることが多いですが、政治的中立性や専門技術的判断を必要とされる行政分野においては、合議制(行政庁を構成する自然人が複数)のかたちをとることがあります。
・補助機関:行政庁その他の行政機関を補助し、行政庁その他の行政機関の日常的な業務を遂行する機関。各省の副大臣・大臣政務官・地方公共団体の副知事・副村長などがこれにあたります。
・諮問機関:行政庁からの諮問を受けて意見を述べる機関。選挙制度審議会などがこれにあたります。なお、諮問機関の意見や答申には行政庁は拘束されません。
・参与機関:行政庁の意思決定に参与する権限をもつ機関。諮問機関とは違い、参与機関の議決には行政庁は拘束されます。
・監査機関:他の行政機関の事務や会計処理を検査し、その適否について監査する機関。会計検査院などがこれにあたります。
・執行機関:行政目的を実現するために必要とされる実力行使を行なう機関。警察官、収税職員、消防職員などがこれにあたります。
なお、行政機関には法人格はなく、行政機関が行なう法律上の効果は全て行政主体に帰属します。
行政主体とは、国や地方公共団体のように自己の名と責任で行政を行なう団体をいいます。
行政主体は法人とされ、その構成員の活動の効果は全てその行政主体に帰属します。
====発言=====
都市計画審議会の議事録作成について、提案があるのですが、よろしいですか。
議事録作成に当たっては、事前に原稿段階で発言者によるチェックを経るように手続き変更を提案します。
その理由は、つぎの通りです。
第111回及び第112回の都市計画審議会議事録につき、その中のわたくしの発言部分につき、議事録作成者が6箇所を誤記していました。その訂正をかなり以前から審議会事務局にお願いしておりましたが、数日前にようやくに訂正版が公開されました。
これらの誤記はいずれも、発言者のわたくしが発音した言葉の、同音異議語あるいはそれに近い発音の言葉を、議事録作成者が聞き間違えて記載したものであり、当然にそのままでは前後の意味が通じません。議事録署名人は見落とされたのであろうと推察いたします。
これらのことから、今後は議事録作成に当たっては、あらかじめ素原稿段階で発言者に確認をとって必要な訂正を行なった後に、議事録署名人に原稿として渡すように、議事録作成手続きを変更することを提案いたします。
またもうひとつ、議事録の公開を当該審議会から遅くとも10日以内とすることを提案します。
その理由は次の通りです。
前回の審議会において、審議会開催を傍聴者が参加しやすい日時とするべきとわたくしが提案したましたところ、議事録を公開しているからその代償になると審議会事務局からの反論がありました。
しかし、これまでのような審議会から3ヶ月も半年も後の公開では、当日の同時傍聴との時間差が大きすぎて、代償としての意義が薄れます。
今後はできるだけ早く、遅くとも10日以内に公開するように改めることを提案いたします。=====発言終り====
これに対する審議会事務局(都市計画課長)回答要旨は次のようである。
議事録作成において発言者の事前チェックが必要なら、今後は行なうこととする。
公開まで10日以内は無理だが、できるだけ早くする努力をする。(090828)
2.新たな提案の発言
以上で議案は終わったのだが、最後に議事録について、わたしは提案を言わせてもらった。