第8章 日本語がおかしい(会話編)
スパコンなんてどうでもいい?
民主党政権にかわって登場したのが、事業仕分けである。流行のようである。
その政府主催のイベントで槍玉に上がったのが、super computerの開発であった。民主党女性議員が声高に、「世界で1番ていうけど、2番じゃなぜいけないの?」って言ったらしく、それが流行語になっている。
それにたいしてかどうか知らないが、朝日新聞(2009年12月26日)経済欄に、富士通なる電器屋の社長の言が載っている。
「富士通はスパコンの開発にこだわっていく」
つまりこれは、「super computer開発なんてものは、気にしなくてもよいような些細なことなんだが、まあ、それにとらわれるてやるんだ」ってことになる。
本気でやる気が無いらしい。どうも分からない。
ということなら、仕分け人が言う如く、そんなものを国がやることはないってのは、事実なんだろうなあ。
ワープロと双璧の変な言葉のスパコン、え~と、スパンコールってあったなあ、なんだっけか?
参考までに「広辞苑」をひいておく
こだわ・る『1.さわる。さしさわる。さまたげとなる。膝栗毛六「脇指の鍔が、横腹へ―・つて痛へのだ」
2.気にしなくてもよいような些細なことにとらわれる。拘泥する。「形式に―・る」
3.故障を言い立てる。なんくせをつける。
ご苦労さまだって?
近頃は電話の挨拶とか、仕事がおわったときとかに、「オツカレサマ」という奴が多い。
だいたい、「ご苦労様」とか「お疲れ様」とかのねぎらい用語は、自分より目上にあたる人にはつかわない言葉だったはずだのに、若い者が平気で使う。
もしかしたらテレビ業界語かもしれないと想像するのだが、そのうちに昼も晩も「オハヨウゴザイマス」って言う奴が出てきそうである。あ、もう言ってるか、。
2009年の8月6日に広島で、原爆症救済策の確認書に麻生首相と原告代表が調印して、原爆症認定訴訟を終結させたときである。
原爆被害者側の『坪井代表委員が麻生首相と握手し、「ご決断ありがとうございました」とお礼を言うと、麻生首相は「ご苦労さまでした」と答えた』そうである(2009年8月6日YOMIURI ONLINE、同日朝日新聞夕刊)。
わたしくらいの年代では、首相のこれは誠に不遜なる言葉使いであって、失礼にあたると腹が立つのである。
訴訟に絡むことだから微妙なこともあるだろうが、調印は対等であるし、相手が礼を言っているのに、それに対して目下をねぎらう「ご苦労さま」との言い方はいくらなんでもないだろう。
文字が読めない人として有名だが、言葉づかいも知らない人である。
最近、やってくるメールの出だしに「お疲れ様です」なんて書いてくる変なやつが複数いる。外でも会議の後で「お疲れ様でした」などと送り出されてムッとすることがある。
もちろん言うほう書くほうは気にせずに気楽につかっているのだろうし、言葉は時代と共に変ることも承知しているが、このつかい方は未だ変り切っていないことも事実であるから、つかうほうも気をつけてもらいたいのだ。
となりますって?
このごろ「・・・となります」と、言葉尻を結ぶのをよく聴く。
居酒屋で、「こちらビールとなります」(未だ醸造中なのか、出来立てビールになるにはどれくらい待つんだよ)
喫茶店で、「こちらアイスクリームとなります」(なるまで待ってると溶けちゃうよ)
鉄道駅で、「まもなく列車の到着となります」(人間が運転すると思ってたら、自然にやってくるものだったか、)
旅行の広告に、「このツアーは2人部屋となります」(と言うことは、これまでは1人部屋か3人部屋だったのか、)
もともと「・・なる」とは、「現象や物ごとが自然に変化していき、そのものの完成された姿をあらわす」ことであり、転じて特殊な使い方では、「(そのことが自然に生ずる意から)高貴の人の行為をあらわす」とある(広辞苑第4版)。 ビールや列車が高貴の方になったのではあるまい。
普通なら、「アイスクリームでございます」、「ビールでございます」、「列車が入ってまいります」、「2人部屋でございます」というのだ。
世の中、普通でないことが多くなった。こちら老人となります、。
買い物問答
つれあいがぎっくり腰になって、近くのセルフサービス店に買い物に行く。
いつもは自分の呑む酒類しか買わないのに、野菜や肉を買う。あまりに色々あって、何を買ってよいかわからない。
必要なものや必要でないものやらを籠に入れたら、出口でまとめて精算をする。
そこで現金を払うときに、その勘定係のおばさんとか姉ちゃんから必ず質問される。
「ポイントカードはよろしいですか」
「え~っと、それってポインカードを買えって宣伝ですか、それがないとこの店では売ってくれないの?」
「あ、いや、むにゃむにゃ、」てな会話をする。
時にはこうも言われる。
「ポイントカード大丈夫ですか」
「え~っと、それって暗証番号の記憶とか、期限切れとか、そんなことが大丈夫かって心配してくれているの?」
「あ、いや、むにゃむにゃ、」
時にはこうも聞かれる。
「ポイントカードをお持ちでしょうか」
「いいえ、持っていません」
「はい、わかりました」
なんだ、そういうことかよ。お客様対応マニュアルの統一をお願いします。
もう一度拍手をって?
シンポジウムやら講演やらの会で、終わりの直前に司会者が言う。「もう一度、講師の方に盛大なる拍手をお願いします」これって、講師に対してずいぶん失礼な言いぐさだと思う。
だって司会者が言わないと拍手も起こらないような、くだらない話を貴方はしたのだ、ってことになるだろうよ。
最近はこれを当たり前にみたいに言う司会者ばかりだ。誰がいつこんな言い方をはじめたのだよー。少なくともわたしは、いつも腹を立てている。
また、会合の最初や最後に、主催者側が挨拶をする。このとき、挨拶する人を紹介するのは、上と同様のバカ司会者である。ほとんどの場合にこう言う。
「それでは会長の○○先生のご挨拶を頂戴いたします」
「○○会長のご挨拶をいただきました。ありがとうございました」
おい、司会者は通常は主催側にいるのだから、おまえにとって先生であろう先輩であろうと、呼び捨てにするもんだよ。
「それでは主催者を代表して会長の○○がご挨拶を申し上げます」とか、「会長の○○からご挨拶を申し上げました。ご清聴ありがとうございました」って言うんだよっ。
ある年の日本建築学会全国大会の開会式で、会長のご挨拶を頂戴し、終わればお礼を言う司会者がいた。学会だから司会者も大学の教員であろう。
よろしかったですか?
ある日、倉敷駅前のホテルにチェックイン。
フロントマン「明日の朝食はよろしかったですか」
よろしかったもなにも、まだなんにも言っていない。
いつの頃からか、これからのことでも過去形で質問が流行するようになった。
またある日、半田市のビジネスホテルにチェックイン、フロントマンのよろしかったですか攻勢に笑う。だが、なぜこの客が笑うのか、フロントマンは分からぬ様子。
部屋に入り、電話でピッツァの出前注文をする。
出てきた電話の相手が注文を受けるに
「では、お電話よろしかったですか?」
「よろしかったから君とこうして話してるんだろう」
「いや、お電話番号よろしかったですか」
「だからさあ、、?、?、?」
「あ、いや、お電話番号を教えてください」(ボケジジイ!)
やがて注文したピザが届いた。
「ご注文は、このミックスピザでよろしかったですか」
おお、正しい使いかたも知っているのかあ。
そしてその次の日、山形市内のキャッスルホテルにチェックイン。今日もまた、よろしかった攻撃にあうかと、びくびくと期待もした。
ところが意外にも、そこではまったく出ず円滑に話せた。さすが老舗ホテルである。
ア、待てよ、みちのくの山形は、よろしかった文化にいまだ侵されぬ辺境かしら。
このところ福岡でも京都でも福井でも"よろしかったホテル"に泊ったのだが、ホテル業界ではそういう用語をつかう研修をしているのか。
クソバカ丁寧の無礼千万
実際に受け取ったことのあるメールの文章。
「作業スタッフ4~5名で伺わせていただきまして、お部屋の中からお部屋の中までお運びさせていただきまして、インターネット割引をさせていただきまして、できるだけお勉強させていただきたいもので、上司に交渉させていただきましたところ、10万~12万円(税別・保険代千円)まで、何とかOKを取らせていただいたのですけれども・・・」(引っ越し屋から)
この「させていただきます」の流行は、200年以上前からであるから流行とは言えない状況である。しかしこれほどヘンな言葉はない。
この言葉の意味は、「あなたさまのご意思に従いまして、そのようにいたします」と、へりくだった謙譲語なのだ。
それなのに、こちらの意志に関係なく、あるいはこちらの意志とは反対の方向でも、どんどんさせていただかれてしまう。
丁寧語をしゃべっておけば相手に失礼が無いから大丈夫なんだと思っているようだが、まことに無礼千万、失礼な奴である。
朝日新聞は2010年5月から、朝刊の一部売り値段を130円から150円に、「変更させていただきます」そうである。ケッ、、