鴨緑江水力發電株式會社 鴨緑江發電所

~事業紹介~

遠く朝鮮、満州国境の東端9000尺の高空に聳え立つ白頭山に源を発して蛇延200里、朝鮮と支那の境の鴨緑江は悠々幾萬年のその姿を今や一変せんとしている。正に世紀の驚異である。近代科学の文明は自然に対して多くの人工的変革を要求してきたが、鴨緑江の発電工事はその最も顕著なる一例である。工事の根本計画は鴨緑江を7カ所の大堰堤にて堰き止めて200里の長江を7つの大湖水と化し、その各各に発電所を設けて合計700000kWの発電力を得んとするのである。「日本窒素」は既に赴戦江約200000kWの水利を開発し、又長津江水電株式會社を起こして長津江約250000kW及び虚川江200000kWの大發電工事を成し遂げたのであるが、更に痴人の夢と思われていた鴨緑江1600000kWの工事を数億の巨額を以て創めることとなった。

鴨緑江の工事は赴戦江、長津江等と著しく趣を異にしている。赴戦江、長津江等の水力工事は高原上を流れるる河川を堰き止めてこれを日本海側に落とし、1000m以上の非常な高落差を利用する発電方式に依ったのであるが、鴨緑江の工事は同一の河流の各所に發電所を設けるものであるから、各發電所の落差は100mに満たない。然しながらその水量の豊富なることは流石に世界的大河であるだけに赴戦江、長津江の数十倍である。即ち発電最大使用水量は赴戦江22.95

㎥/s、長津江31.5㎥/sであるのに対し、10000㎥/s、その最大出力は700000kWで、一箇所の發電所に於いて赴戦江、長津江の合計8カ所の發電所出力より遥かに大きいのである。

鴨緑江の全流域は50,000k㎥余りに及び、水豊發電所に於いて45535k㎥即ち九州全土の総面積より広い。この広い流域地方の降雨量は全て水力發電所の使用水量となるのである。然し雨季は1年の内7月、8月の2か月で冬期は殆ど降雨雪を見ない。目下工事中の水豊發電所に於ける例を見ても過去10数年間の降雨量及び下流量より推定しても8月はXXXX㎥/sと算定されるが、2月にはXXXXk㎥と考えられる。又年に依って降雨量は異なるから最大出力を常時に発揮せしめんとすれば極めて余裕ある大貯水湖を必要とする。

鴨緑江本流にはこれを堰き止め得る狭窄部が随所にあり、岩盤も多く大堰堤の築造に適し、また人口も極めて希薄であるから広漠たる大湖水が出現しても大して支障は生じない。鴨緑江水力発電の7カ所の貯水池の総貯水量は実に204億㎥、水豊發電所のみで100億㎥に及び、琵琶湖の半分、霞ヶ浦の2倍の大湖水が朝鮮満州国境に現出するわけである。7カ所の發電所で利用し得る総落差は440m、鴨緑江の本流の落差と水量は殆ど余すところなく利用せられその最大出力は700000kWである。

鴨緑江の水力開発工事は差し当たり1億円の資本金を以て計画され(但し社債、借入金はこの他である)、満州側5000万円、朝鮮側50000万円である。

満州側は満州国政府の出資であり、

朝鮮側は東洋拓殖株式會社、朝鮮株式會社、長津江水電株式會社等

の出資によるものである。而してこの大工事の担当者は日本窒素、即ち長津江水電株式會社の幹部である久保田豊がその全責任に於いて建設と経営とを任されているのである。

朝鮮側、満州側にて2社を設立し、資金を振り分けたのである。

―朝鮮鴨緑江水力発電株式會社-

創立 昭和12年9月7日

資本金 5000万円 全額振り込み

本社 京城府黄金町1丁目180番地2

事務所 水豊建設事務所

出張所 新京、新義州

發電所 水豊發電所

役員

取締役社長 野口遵

常務取締役 久保田豊

常務取締役 陳 悟

事業内容

鴨緑江に於ける水力発電、送電及び特定電力の供給

設立理由

鴨緑江発電工事は大事業を如何なる形式の會社に依って実施すべきかは最初議論のあったところである。鴨緑江は国際河川であって国境はその河流の中心線上に存在する。出来上がる堰堤は朝鮮側川岸より満州国川岸まで一本通しのものであり、發電所も同一の建物を2つに割ることができない。本社を満州に置けば満州国法人となり朝鮮に設ければ日本国法により法人となる。然し建設物1個で両者の共通財産でなければならない。議論はいつまで経っても飽きないのであった。かかる場合前例に依れば先ず日本満州国の間に会社設立に関する条約(議定書)を締結することになっているが、かくては時日の徒費と手続き煩雑は紛らわしいものである。ここに於いて案出されたのが朝鮮満州両會社案である。満州国は5000万円の満州鴨緑江水力発電株式會社を設立する。朝鮮側は同じく5000万円の朝鮮鴨緑江水力発電株式會社を設立する。而して両會社の役員、株主を各各同一人とする。即ち野口遵は満州鴨緑江の理事長とすると同時に朝鮮鴨緑江の取締役社長となり、久保田豊は満州鴨緑江の常務理事となると同時に、朝鮮鴨緑江の常務取締役となる。満州における1000株の株主は必ず朝鮮の1000株の株主たることを要する仕組みとし、両會社の資産は同一内容物にて各各その持分は半分されたるものと観念しその趣旨を定礎に記載する。両會社の支出は固より同額でありその受ける利益も同額とする。かくの如き健全を以て出来上がったのがこの会社である。

極めて特色ある企業形態であってその設立方式は今後満州国側との共同事業に対して興味ある示唆を興えるであろう。

―満州鴨緑江水力発電株式會社-

創立 康徳4年8月30日

資本金 5000万円 全額振り込み

本社 満州国新京特別市大同街200号

事務所 水豊建設事務所

出張所 新京、新義州

發電所 水豊發電所

役員

理事長 野口遵

常務理事 久保田豊

常務理事 陳 悟

事業内容

鴨緑江に於ける水力発電、送電及び特定電力の供給

―鴨緑江水力工事の大要―

鴨緑江の発電工事は河口より約120km、新義州、安東より約80km上流に当たる水豊の堰堤工事より始められている。この世界最大の堰堤に要する資材は驚くべき額に達し、セメント実に75万トン、鉄材XX万トンで1基の出力100000kWと言うこれ世界最大の発電機水車の重量は1基にして1000トン以上に及ぶ。

―工事用鐡道の敷設―

これ等の工事資材の運輸、工事係員及び人夫の交通、食料品その他需要物資の運輸のため、併せて国防上の見地より鴨緑江の南即ち、朝鮮側の平北鐡道、北即ち満州側に鴨北鐡道の両會社が各各1000万円の資本金をもって設立された。

平北鐡道は朝鮮の国有鉄道京義線定州駅を起点とし、同線に並行して平安北道を走り、發電所地点水豊を経て青水駅に至る広軌125kmの鉄道である。鴨北鐡道はこの青水駅を起点として新たに架設した鴨緑江の新国際鉄橋を渡り満州国東辺道を北上し寛旬城を経て満州国有鉄道予定線灌水洞駅に達する80kmの広軌鉄道である。朝鮮、満州を一貫して走るこの両會社の鉄路は朝鮮に於いては鎮南浦港を満州に於いては大連港を貨物呑吐港湾として控えている。両鉄道の使命は鴨緑江大発電工事の建設資材運搬に存するが、この他に米、大豆等の農作物の輸送、鴨緑江上流の開発、東辺道地下資源の開発に寄与するところ甚大であろう。又、有事の際軍事上重大なる意義を有することは説くまでもない。

以下に建設軌道各社の詳細を述べる。

―平北鐡道株式會社―

延長 124km

橋梁 61箇所

隧道 18箇所

停車場 15箇所

建設費 1760万円

創立 昭和12年11月29日

起工 昭和12年10月

竣工 昭和14年4月

―鴨北鐡道株式會社―

延長 75km

橋梁 30箇所

隧道 8箇所

停車場 8箇所

建設費 1460万円

創立 康徳5年4月21日

起工 昭和14年4月

竣工 昭和15年12月

―鴨緑江舟運の統制管理、流筏の処理―

百数十里に渡る鴨緑江の水運流筏は鴨緑江の長流が7つの湖水と化する至れば根本的変革を受けることになるのは止むなき得ぬことである。これがため鴨緑江水力発電株式會社は1700隻に及ぶ満人、朝鮮人の小舟群を統制管理する朝鮮鴨緑江航運株式會社及び満州鴨緑江航運株式會社を設立し、その生業を合理的に経営保護することとしたのである。

又、一年90万㎥に達する有名なる鴨緑江の流筏を処理するために水豊の堰堤のみにても450万円に及ぶ流筏処理施設をなることとし、貯水池上には100馬力ディーゼル機関を有する25トン型筏洩航船40隻を新造し、堰堤乗越設備については苦心設計になるコンクリート斜路を特設することにした。

―工事用セメント工場の新設―

世界最大の堰堤320万㎥の築造のために水豊のみでも実に75万トンのセメントを要し、この大量のセメントを満州、朝鮮の既設工場に求めることは到底できない相談である。加えこの運搬、納期等の関係を考慮し年産18万トンの能力の自家用セメント工場が建設せられることとなった。焼成工場は平壌付近の勝湖里に粉砕工場は現地水豊に目下建設中である。工事費は約550万円、敷地は両工場合計1万坪を越える。尚、この工場運転管理は朝鮮小野田セメント製造株式會社に委属される予定である。

堰堤工事は朝鮮側、満州側共に1日3600㎥のコンクリート打ち得る様計画され、砂利採取設備、貯蔵並みに粉砕設備、仕分洗浄設備、コンクリート混合工場、コンクリート打ち込み設備等総て世界的な大仕掛けなもので、その他電氣ショベル、機関車、クレーン、コンベア等施設は大規模かつ多岐に渡りこれ等設備に必要なる準備工事用電力のみにても8000kWを要する。

―水豊發電所の概要―

水豊發電所の工事は昭和12年秋着工され、昭和15年中には一部発電を開始し昭和16年末には全出力700000kWの工事が完成する予定であったが、支那事変並みに欧州動乱の影響受けて多少の遅延は免れまい。

堰堤は既に数々述べた如く世界第一で朝鮮平安北道水豊洞江岸より満州国寛旬県碍子溝江岸に跨る長さ900m、容積320万㎥のものである。これに依って形成される大貯水湖は面積345k㎡、人造貯水池として北米ボルダーダムに次ぐ恐らく世界第二位のものである。

発電所は堰堤直下の朝鮮側に建設せられ水車、発電機は世界最大の記録をなす100000kW7基が据え付けられる。満州側50Hzと朝鮮側60Hzとの両方面へ配電するため發電機7基の内、3基は50Hz、60Hz両サイクル用とし、残りは50Hz用2基、60Hz用2基とした。水車は7基とも電業社原動機製造所に発電機は東京芝浦電氣株式會社その他に注文された。

水豊發電所の建設費は事変による影響その他を考慮に入れれば1億4000万円位と予定すべきであろう。出力700000kWとすれば1kW当たり建設費はXX円、真に驚くべき低兼さである。この段違いの大電力は近頃大問題を起こしている日本発送電株式會社の電力などと異なり、掛値梨の文字通りに豊富、且つ低兼に供給されるのである。この電力供給を予定して朝鮮側並に満州側に於いて鴨緑江の河口付近に我国に於いて曽て見ざりし大工業地帯、大港湾の計画が樹立せられつつあるのは邦家のため慶賀に堪えないところである。

送電線は電圧220kVで満州及び朝鮮に半分宛配電せられる。満州国内に於いては満州電業社株式會社の送電線により鞍山行2回線、安東経由大連行2回線の予定である。朝鮮内に於いては既記の如く朝鮮送電株式會社の送電線により新義州、平壌、鎮南浦方面へ送られるであろう。

人造湖の詳細は以下の如くである。

~人造湖の比較~

琵琶湖 675㎥

霞ヶ浦 188㎥

猪苗代湖 108㎥

グランドクーリー 391㎥

水豊 345㎥

ボルダー 398㎥

~水豊發電所規模~

堰堤

高さ 106.7m

長さ 898.7m

最大水深 97m

型式 コンクリート重量式越流型

コンクリート容積 320万㎥

使用セメント量 75万トン

貯水池

面積 375㎡

長さ 鴨緑江本流 164km

長さ 満州側軍江 34km

貯水容量 116億㎥

有効貯水量 76億㎥

水車

メーカ 電業社原動機製造所

竪軸型フランシス水車 105000kW

回転数 50、60Hz両用機 125rpm/s

回転数 50Hz及び60Hz専用機 150rpm/s

重量 1000トン

發電機

メーカ 東京芝浦製作所 5基

メーカ Siemens 2基

竪軸型全密閉三相交流發電機 100000kW

電圧 16kV

周波数 50/60Hz 3基

周波数 50Hz 2基

周波数 60Hz 2基

主要變圧器

メーカ 東京芝浦製作所 8基

三相送配水冷却式屋外型

電圧 一次側 16kV

電圧 二次側 220kV

容量 100000kVA

重量 230トン

虚川江第二發電所 第一發電所放水を直送

及び南大川取水堰堤を望む

※2018年現在

虚川江第二發電所 簡易水路平面図

導水路18km有り

虚川江第二發電所 全体を望む

虚川江第二發電所 サージタンク及びバルブ室を望む

虚川江第二發電所 建屋を望む

~感想~

虚川江第二發電所は第一發電所同様に長津江水電株式會社によって建設されました。第二發電所までは高落差の發電所ですが、下流からはやや落差が120m前後になりますが、何故か第二發電所のみが総合発電量が妙に低いのが気になるところです。第二發電所の現状写真を見ても、大きく改修工事した感じがないので当時のものをそのまま利用していると思いますが、鉄管の本数を見ると4本とサージタンクらの余水管が1本なので、主要發電機は4台となります。つまり、30000kW÷4台で7500kW發電機が4台となりますよね?

それに、第二發電所から下流で発電量が引き上がるとなると、前回「虚川江第一發電所」で紹介したダムのどれかから取水、もしくは第二發電所放水口対岸の河川を取水して水量を引き上げているのではないかと思います。

少し第二發電所については謎が多いところですが、写真などが残るのは第一發電所までで、当方かなり資料が乏しい状態で第二より下流發電所をもう少しだけ調べていきますね♪

平成30年4月13日 執筆