朝鮮窒素肥料株式會社 興南工場 ~アンモニア製造~

~事業紹介~

―水素製造―

水電解工場は変流工場に隣接して建造され、窒素肥料工場の中では最も広大な面積を占めている。興南工場に於けるものの如きは広き約20000坪、この内内部に水の電解槽を数十個及び至数百個連接して一組とし、これを数十数百列整然と配列してある。

水電解工場の内部、電解槽の多数並列せる状況を示すものである。茫漠たる電解工場内部は作業の性質上物音の聞くべきものなく、又稀にに人影を見ると言った感じの工場で「サイレントファクトリー」と称せられる一種の圧力を感じしめる。

電解槽は直方体のタンクの中に陰陽の電極を数十個交互に配列懸垂したもので、各極を石綿の布を以て被覆してある。これに水を充たし、少量の苛性ソーダを溶解して両極に直流電氣を通ずれば水は次第に分解されて陽極に酸素、陰極に水素を発生するからこれを別々に捕集して電極工場右側に群立せるタンクに導く。その発生する酸素と水素との割合は水の組成通り一対二である。

―窒素製造―

窒素分離機は熱交換機、液体機、膨張機、及び分離機の四部より成り立っている。空気の液化分離は圧力と温度とに依る微妙な物理変化を利用して空気中の窒素と酸とを分離するものである。即ち精製した空気を圧縮機で圧縮して液体空気としてこれを分離機に移し、酸素と窒素との僅かの沸騰点の相違により窒素と水素とを別々に採取する。

―発生炉ガス―

発生炉ガスは赤熱炭素物質に空気、水蒸気の混合物を通じて不完全燃焼を起さしめる際に生ずる瓦斯で、興南工場に於いてはこれをアンモニア合成用原料ガスの一部に使用している。この方法によれば同時に炭酸ガスを副生するから、後述する硫燐安製造用炭酸ガスは別にこれを製造する必要がないのである。

発生炉を出たガスは先ず硫黄分を洗い取った後、水蒸気を混合し、反応槽に送ってその内部の触媒層を通過させ、その間に反応せしめて略略量の窒素と水素とを含む混合ガスを製造する。

発生炉ガスを最後に精製する塔に於いて、先ずガス中の多量の炭酸ガスを取り出してこれを硫燐安工場に送り、更に少量の一酸化炭素その他の不純物を除去した後、タンクに送りこのガスに適量の電解水素を混ぜてアンモニア合成用に供するのである。

水電解工場、発生炉ガス工場、窒素工場等より送られる各種のガスは一時円の如きタンクに別々に貯蔵される。アンモニア合成工場より精製のために送り返される排ガスも同様の工程をとる。タンクの間の小さい建物はガス工場で、ガスの計量、清浄、配給を司り、アンモニア合成用ガスもここで自動計量器を以て適当に混合されて合成工場に送られる。

―アンモニア―

ガス工場より送られてた窒素一容、及び水素三容より成る混合ガスはアンモニア合成工場に来り、合成塔に送られる前に先ず圧縮機によって約750気圧程度に圧縮される。興南工場6段超高圧縮機の1500馬力という大馬力の動力を以て運転される圧縮機は各台毎に毎時750気圧の高圧混合ガス3200㎥を送り出している。

アンモニア合成工場の細長い一棟は全工場内に於いても最も高く屹立しているので著しく目に立って見える。その内部には合成塔が直立して一列に整列している。その工場の端から端までは変流工場と同様頗る長く、興南工場の如きは数百メートルに達する。

延岡工場のアンモニア合成塔室、当社が世界に魁けてカザレー式アンモニア合成法を大規模に実施して華々しく成功した最初のものとして特に意義深い工場である。アンモニア合成塔は頗る長大な鋼製の円塔で、一基の重量約40トンに達する。ガス圧縮機により導かれた高圧の窒素水素混合ガスは合成塔内部の触媒の層を通過する間に反応化合してアンモニアガスを生じる。

ここに空気中の窒素は水素と直接結合し、アンモニアとして固定せられるのである。

アンモニア合成塔には一基毎に循環ポンプ又はインゼクターがあり、合成塔内の原料ガスは新規の原料ガスと共に反覆触媒帯に還流せしめられる。壁を隔てて合成塔室があり、この壁面に各種のメータを取り付け合成塔の操作をなす。アンモニア合成塔より採取されるアンモニアは液状を極く少量の水分を含有している。この液体アンモニアと称する。この中の水分を特殊の技術を以て充分に除去したものが無水アンモニアである。即ち純度の高い液体アンモニアで、これ等は継目なし引き抜き管に詰めて販売する。アンモニアを、水に溶かせばアンモニア水となる。

当社の製造するアンモニアの一部は液体アンモニア、無水アンモニア又はアンモニア水として市販するものが大部分は、これを自家原料として他の製品の製造用に供するのである。即ち硫酸と化合せしめて硫安とするものが最大部分を占めているが、その他に硫燐安の製造原料に供し、又ベンベルグ人絹製造原料とし、或いは硝酸の製造に使用する。当社の諸製品中アンモニアを原料とするものは約15種類あって、全製品種目の約1/4に及んでおり、且つこれを量的に見ればその圧倒的大部分をしめている。

興南工場 電解工場を望む

※併設するのは変流工場と貯蔵タンク

興南工場 電解工場を望む

※サイレントファクトリー

水俣工場 電解工場の一部を望む

延岡薬品工場 電解工場の一部を望む

興南工場 窒素工場の内部を望む

水俣工場 窒素製造工場内部を望む

窒素分離機

窒素と水素を分離するもの

興南工場 ガス発生炉

興南工場 発生炉ガス反応槽の一部を望む

興南工場 発生炉ガス清浄装置を望む

ガスタンクの一部を望む

興南工場 ガスタンクと計量、制御小屋を望む

興南工場 アンモニア合成工場 圧縮の一部を望む

興南工場 アンモニア合成工場 屋外より望む

※軌道は構内列車

興南工場 アンモニア合成塔

旭ベンベルグ延岡工場 アンモニア合成工場内部

興南工場 アンモニア合成工場 循環ポンプ室を望む

~感想~

興南工場のアンモニア工場は当時世界最大規模を誇る大化学工場として誕生しています。その背景には満州事変により満州開拓が本格的に進行することにより、不毛の地である満州を日本窒素肥料により農作物の発育を著しく促進し、生産効率を上げるものとして、多くの肥料が必要とされました。当時は内地(国内)にしか工場がなく、輸送も常に船便によるものでしたが、興南工場を建設することにより、輸送費を削減、安価な人件費(朝鮮人)を利用することにより、大量かつ安価に生産することができたのでしょう。

又、広大な2000坪の工場はどうも海軍省の関与により優先的に土地の利用ができたのではないかと思います。

戦火が悪化すると海軍省から重油、火薬、魚雷の生産を命令され、軍事工場として大規模に化学兵器を製作していたそうですが、戦後になってロシア軍に世襲され、工場はロシア軍の管轄なったそうです。その後、朝鮮戦争によりアメリカ軍との衝突により、興南工場は壊滅したそうですが、現状稼働していることから、興南工場には一切手を出さなかったのではないかと思います。戦後に必ず必要となるために壊すことなく、復旧までしたとか・・・。

現在も興南工場は一部の設備が入れ替えられて、北朝鮮の起爆剤として国営管理で運営されているそうですが、この化学工場を利用してミサイルが生産されているとなると、兵器生産の助長をした日本は今後どう対処していくかが問題となるところですね。

その日が来ればわかるとしか、今は言えません。

平成30年4月3日 執筆