日本窒素肥料株式會社 あらましと製造工程説明

~事業紹介~

現在60数種類に及ぶ当社の化学工業用品は各部門ともいずれも大規模なる工業的設備によってはじめて製造し得られるものであって、その一つを理解するだけでも多くの紙数を深い専門的知識とを必要とする。実に当社の事業は我国に於ける代表的化学工業の一大集合言うべく、その製造過程の説述は自ら本邦化学工業に生けるエンサイクロペペディアを成すであろう。然し、単に当社の各製造事業がその製造過程の技術上の見地から如何に相互に密接なる関連を有し、当社各事業の発展 が如何に合理的必然性に基いて今日の大を成し、而して如何なる期待をその将来に対して持つべきかをあらはさんと試みたに過ぎない。当社の製品は多岐多様にして、紹介する製品はその主要なるものの一部に止まるのである。然しそれ等は何れも一時の流行や偶然の思付から出発したものでなく、皆それぞれ的確な理論的根拠と応用化学の法則の巧みな結合に基いているものである。読者諸氏が若し当社の製品の製造工程について少し留意してその系統を跡付けられるならば、当社事業の製造工程はそれのみでも優に生けられる「応用化学読本」と称するに足りることと了得せらるるであろう。

当社の各事業の製造過程を説明するには先ず、暫く各事業を沿革的に辿るのが便利である。

今から30年前当社は鹿児島の一小電力會社として誕生したが、間もなくこの電力を利用して我国最初のカーバイドの大工業的事業に着手したのであった。

当社の製造するカーバイドは勿論相当の利益を上げたのであるが、当社は進んで当時ドイツに於いて発明された石灰窒素の製造即ち、カーバイドに空気中の窒素を吸収せしめて石灰窒素となし、これを窒素肥料として販売することを企画しし、フランク・カロー式特許権を買収し、それに幾多自己の考案を加味し、我国に於ける最初の空中窒素固定工業に成功したのである。

然し我国の農家は石灰窒素よりも硫安を歓迎し、硫安の輸入甚大であったので、当社は石灰窒素に加圧蒸気を加えてアンモニアを分離せしめ、これを硫酸と化合せしめて硫酸アンモニアを製造することにした。

世界大戦中にアンモニアの製造は革命的進歩を遂げ、アンモニアをその元素より直接合成することが発明された。当社はルイ・カザレー氏の発明なる所謂、カザレー式アンモニア合成法を採用して宮崎県延岡の地にカザレー式アンモニア合成の大工場を建設した。この延岡工場は我国に於ける最初の合成アンモニア工場であり、また当時は未だに試験時代を脱せざりしカザレー法をして世界的ならしめた最初の大工場である。合成アンモニアの製造法はドイツのハーバー法を初めとしてその後幾多の方法が案出されたが、当社に於いて成功したカザレー法じゃその操作の安全容易にして実用的なる点に於いては他に卓絶し、運転頗る順調、製造法も有利であったので、当社は直ちに延岡工場の大拡張を爲し、水俣工場の石灰窒素法に大改造し、更に朝鮮興南にカザレー法として世界最大を誇る工場を建設したのである。

合成アンモニア製造の成功は当社の技術史上特筆大書すべきことであって当社の発展に一大エボックを劃した大事業であった。従来の一個の窒素肥料會社であった当社は此処において大化学工業會社たる第一歩を踏み出したのである。即ち合成アンモニアは先ず硫酸と化合せしめて硫安となりその大量生産を容易に遂行し来たのみならず、無水アンモニア、アンモニア水等、当時は輸入に俟つの外なかったものを安価に大量に供給し得ることになった。更に当社はこのアンモニアを硫安以外の化学工業の原料として使用することに志し、先ず独特の特許発明の下に合成硝酸の製造に成功してこれより順次研究と努力を重ねて全化学工業の広大なる分野の開拓に力を延ばすこととなったのである。

即ち当社の事業は窒素肥料その他の肥料部門より始まり、工業薬品類、人造絹糸、油脂、火薬等の各分野近時着手したる石炭加工並に油化m調味料及び大豆加工、製鉄、マグネシウム、アルミニウム等の金属工業等、次から次へと事業範囲を不断に拡大進歩を重ねつつある。而して即ち述べた通り各製品はいづれも偶然に斯くなりたるものでなく、他部門と目的論的に緊密なる関係を保ちつつ一波よく萬波を誘起し来たものなることを忘れてはならない。

当社がアンモニア合成に大成功を収めた後、硫安にこれを使用する外、このアンモニアより出発して発達した事業は直接には硝酸及びベンベルグ人造絹糸の製造である。硝酸の製造はアンモニアを酸化して合成するのであって、これに要する酸素はアンモニアの原料ガスたる水素及び窒素の製造に伴い、副生する酸素ガスを有利に利用する。合成硝酸の製造も本邦に於いては当社が最初に成功したもので、近年次第に同業會社を数えるに至ったが依然として当社は本邦硝酸界の牛耳を握っている。

更にこの硝酸を最も有利に加工せんとして着手したのが火薬事業である。これはニトログリセリン、硝化綿、硝酸及び硫酸を主要原料として製造し得るものである。而して一方に於いて火薬原料たる硝化綿はそれ自身として各種の用途を見出し、またこれを利用してセルロイド製造への進出が企画された。当社のセルロイドは一般の如く樟脳を使用せず、別の製造部門で採取される特殊の原料を使用する難燃性の特色ある製品である。

而かもこれに加えて当社は更にグリセリンの自給を計画した。即ち朝鮮産の魚油を用いて興南工場に於いてこれに水素を作用させて硬化油とし、これを分解して脂肪酸とグリセリンとに分け、油脂事業が火薬工業に関係して関連して大々的に開始された。

当社自身がその資本金を投じて最初に創めた人造絹糸事業はベンベルグ絹糸の製造である。ベンベルグ絹糸の製造には大量のアンモニアを要するが、当社の事業の中心たるアンモニアを有利に使用し得ることがこの事業を起こした根拠の理由である。而して旭ベンベルグ延岡工場のこの事業は本邦を完全に独占し、世界最大の設備を有して特別の地位を確保しつつ大発展を招来している。

当社は又ベンベルグ絹糸の外、ヴィスコース糸をも製造する。即ち旭ベンベルグ延岡レーヨン工場に於いてヴィスコース人絹を同大津工場に於いてステープルファイバを大量に製造している。

人造絹糸事業の発展に伴って、これが製造に必要なる苛性ソーダの自給が計画された。当社の苛性ソーダ自給に採用せる食藍電解法は副生水素をアンモニア合成用その他に利用し得る利点を有している。斯くて苛性ソーダの製造設備が人造絹糸事業の拡張と共に不断に増設せらるるに伴い、副生藍素の処分としてこれを藍酸に変成して調味料、グルタミン酸ソーダを製造することとなった。その理想は世界最大の産出額を有つ満州大豆を原料としてその蛋白質を利用し調味料を製造し、同時に大豆油及びアミノ酸の利用方面に於いて将来の発展を期せんとするものである。又、大豆加工工業に必要なる溶剤アセトンは後述の如く当社の酢酸事業に於いて安価且つ豊富に製造供給することができるのである。

アンモニア又はその原料ガスを出発点としての当社事業の発展は凡そ前述の如きものであるが、当社の事業には別にカーバイドを出発点とせる一系列がある。カーバイドより出発する諸系列の中、既に実現せるものは石炭窒素の他にはアセチレンを利用する一列である。これはカーバイドを利用し、酸素を有効に使用するもので、合成酢酸、無水酢酸、酢酸繊維素、アセトンの製造早くも工業化され、技術的優秀さをもって本邦業界に卓越し、将来の華々しい進歩を約束している。

次に石炭加工部門及び金属工業部門を挙げねばならぬ。石炭加工は北朝鮮に無尽蔵の石炭を有利に加工せんとするもので、低温乾留事業は早くより着工され、幾多の困難を克服して既に工業的に成功しているが、一群の複雑な事業体系を形成しそのエタノールの合成於いては当社の高圧の合成工業の技術経験が著しく貢献している。又目下鋭意工場建設中なる石炭の直接液化の事業は国策として甚だ重いものであるが、これ等の技術的基礎は水素工業、アンモニア合成工業、高圧工業、低温乾留工業等に於ける当社の尊い知識と経験との総合に存する。

これの外既に電気炉の試験を終えた電氣製鉄は直接には硫酸製造の際、多量に生じる残滓の利用が目的であるが、同時にやはり石炭低温乾留の副産物たる半成コークスも多量に消化することができ、且つ多量の水素を副生し得るものなる点に於いても特に注目する値するのである。更にまた金属マグネシウム工業は先ず安価なる電力、自家製の還元用炭素及び水素を多量に使用すること等がその製造方法の優秀性と相俟って当社により初めて工業的に着手されたものである。又目下計画中なるアルミニウムの製造は特にその所要電力の無比の安価とその原料明礬石が加里を副生して肥料硫加燐安の原料に使用されることに特徴を有するものである。

最後に吾々は当社事業に於ける電力の地位を考えなければならぬ。当社が最初に曾木發電所の電力をカーバイド製造に向けたときから50万kWの大出力を以て本邦電力會社の第一迄に逼らんとしつつある現状に至るまで、当社の製造事業は発電事業と歩調を揃えて進歩して来たもので、大電力が即ち当社事業の血液を成している。即ち当社事業中の大電力は先ずカーバイドに転化され、次は合成アンモニア原料水素の製造のため水の電解に使用されるが、これは現在最大の利用率を持っている。又、苛性ソーダ製造のための食藍の電解、而して近時着手されたマグネシウム、アルミニウム、電氣製鉄等は何れも多量の電力を要するものであって、その事業の成否は電力の低兼成るか否かに係るところが甚だ多いのである。最近興南工場で開始されたる石灰窒素の製造もカーバイドに要する大量の電力が極めて安価に得られる点に於いて他の追隨を許さないものがある。これ等が電力を使用する形態は区々であって、水及び食藍の電氣分解、カーバイド及びマグネシウム、鉄、アルミニウム等の電気炉、その他、これ等電気化学工業又は高圧工業の動力としての事業全般に渡る電力の使用量も工業の規模の甚だ大なる当社に在っては大なる数字を示しているが、これ等の総てが電力の安価なることにより恩恵を蒙っていることは申すまでもないことである。

以上簡単ながら当社事業各部門の発展をその内部的必然性を辿って跡付けて来た。これに依って当社事業構成の大要とその各部門全体中かくの如くにして30年前に一電力会社は今や数億の投資を動かして年々一億有余り円の製品を製造販売する一大化学工業會社に発展したのである。堅実な経営方針の下に永く蓄積され来った当社の底力は有り余る安価な電力の利用と相俟って当社の将来に更に多大の希望を抱かしめるものなることは誰しも疑はないところであろう。

製造工程一覧図

工程説明(肥料)

―アンモニア―

アンモニアを合成するには先ず、その組成原料たる窒素及び水素を製造せねばならぬ。アンモニアはHN3、即ち窒素一原子と水素三原子との化合物である。

以下に分解して説明する。

~水素~

水素は水を電気分解してその組成要素たる水素と酸素とに分つことによって製造する。即ち發電所より送電し来る高圧の交流電氣を変圧器によって低圧にし、回転変流器で変流して直流となり、この直流の電氣を水を湛えた電解槽に通じれば水は電気分解して陰極に水槽、陽極に酸素を発生する。かくして製造された水素及び酸素はパイプによって導かれ各別にガスタンクに貯蔵される。

~窒素~

窒素は空気中より採取する。空気を著しく冷却して液体空気とし、これを気化せしめるとその中の酸素と窒素は僅かながらその気化温度を異にする結果、両者を分離して採取することができる。先ず空気中を清浄塔を通じ苛性ソーダ液で洗浄して含有する不純分を除去する。次にこの空気を液体とする準備として圧縮機を以て圧縮する。圧縮された空気を冷却し液化器、膨張機及び分離器によりその中の窒素と酸素とを分離せしめ、窒素は窒素タンクに酸素は酸素タンクに導いて貯蔵する。

~発生炉ガス~

発生炉がすもアンモニア合成用原料ガスである。石炭を不完全燃焼して得られる瓦斯に水蒸気を加え、そのガス中の一酸化炭素と水を反応せしめて水素と炭酸ガスとに変じ、炭素ガスを除去することによって窒素と水素の混合ガスが製造されるのである。先ず発生炉に石炭を投じて燃焼し、空気及び水蒸気を送って窒素と一酸化炭素とを主成分とするガスを製造する。原料石炭中の硫黄分は脱硫器で脱除する。次にこのガスは飽和冷却器及び熱交換器を経て加熱され、且つ充分

水蒸気を含んで反応槽に至り、触媒層中を通過しつつ反応する。その結果生成する窒素、水素及び炭酸ガスを主成分とするガスは清浄塔に送り、中の炭酸ガス及び一酸化炭素その他の不純分を洗浄除去する。これ等不純分の除去のためには約25気圧を要するので、そのために圧縮機を使用する。

~アンモニア~

アンモニアは窒素、水素の両元素を触媒層中を通過せしめて直接合成製造する。原料ガスを混合して窒素1、水素3の割合として圧縮機より約750気圧に圧縮して合成塔に送る。このガス中の不純物は清浄塔によって除去する。合成器には触媒を詰め原料ガスはその外側より中心部に入り、反応温度に達して触媒層に至り反応を起こしてアンモニアが生ずる。かくして生成されたアンモニアガスを高圧のまま冷却器に於いて水で冷却すればアンモニアガスの大部分は液状となる。この液化したアンモニアは高圧受器に貯えられて残りの未反応瓦斯及び液化せざる既成のアンモニアガスから分離される。一定時間に於ける合成塔内のアンモニアの得重を可及的に大ならしめ、且つ安全に反応せしめると共に原料ガスを既成アンモニアガスの一部と共に反応帯に最も有効に接触せしめるために循環機又はインゼクターを用いて反復還流せしめる。高圧受器に溜まった液体アンモニアはこれを低圧受器に移して減圧し、ここにアンモニアの合成は最後の段階を終わって、或いは硫安の製造に或いは硝酸、ベンベルグ絹糸等の所要部門に供給せられる。

―硫安―

硫安はアンモニアと硝酸とを化合せしめたものである。硫安の製造は硫酸液中にアンモニアガスを吹き込むのである。先ず液体アンモニアをアンモニア気化器によってアンモニアガスとなし、次に送気ポンプを用い、アンモニアガスに空気を混ぜて硫酸液中に噴射する。硫酸は送酸ポンプにより飽和器に注入する。飽和器は硫酸とアンモニアとを反応させる装置で周囲より硫酸を注入しつつ中央部よりアンモニアガスを激しく噴出せしめる。而して随時底部に沈積する硫安の結晶を吸い上げて沈積槽に沈殿させ液を流し去った後、遠心分離機に落下せしめ結晶に付着せる液を振り切って乾燥するのである。

―硫燐安―

硫燐安は燐酸アンモニアと硫酸アンモニアとの複合物である。燐酸アンモニアは燐鉱石をアンモニアで処理して製造せる燐酸にアンモニアを化合せしめたもの、硫酸アンモニアはこの燐酸製造の際、副生する石膏にアンモニアと炭酸ガスとを同時に作用せしめて製造するものである。実際に於いてはこの硫酸アンモニア液と最初にできる燐酸との混合液にアンモニアを作用せしめる方法を採っている。

先ず原料燐鉱石を粉砕機にかけて粉状に砕く。これを分解槽に移し、硫酸を加えて攪拌反応せしめて燐酸と石膏とに分解する。石膏の結晶は大きいほど取り扱い上便利なので再結晶させるため反応槽に於いて反応を繰り返す、石膏と燐酸とを分離するために数個の分離槽を設け、石膏を沈殿せしめて底部より取り出し順次数個の分離器に入れ、アンモニア及び炭酸ガスを加えつつ、反応せしめて硫酸アンモニアと炭酸石灰とを生せしめる。石膏分解器より導かれた反応生成物は減圧濾過機を以て洗浄濾過して硫酸アンモニアと炭酸石灰とを分別して硫安液は順次分解槽より得られた原液を混合して飽和器に注ぎ、墳気管よりアンモニアガス及び空気中の混合ガスを噴出して反応せしめ硫燐安溶液を製造する。これを蒸溜器に於いて濃縮し、濃厚となった硫燐安溶液を回転乾燥機により乾燥して製品とする。

―過燐酸石灰―

燐鉱石を硫酸で分解し、燐酸を水に溶ける形にしたものが過燐酸石灰である。

原料燐鉱石は先ず粉砕機で微粉としてこれを反応機に移し、硫酸を注加して分解せしめる、ここで出来た泥状物はコンクリート製の釜に落とし堆積しておくと次第に反応は進行して固化する。これを特殊の粉砕機にかけて粉末となし、倉庫に運び山積みする。分解作用は貯蔵中にも進行しては完全なる製品を得ることができる。

―石灰窒素―

石灰窒素はカルシウムカーバイドに窒素を吸収化合せしめたものである。

その中でもカーバイドは石灰窯に於いて石灰石と石炭とを混合燃焼して得られる生石灰を更に石灰と混合してカーバイド炉に装入し、その電極に通電し2000度以上の温度を保って両者を化合せしめればカーバイドが生成し、熔融して底部に溜まるこれを炉の底部より冷却鍋に流し取、自然冷却を待って粉砕機にかける。

カーバイドを石灰窒素炉に投じ、その上部に於いて電気抵抗によって1000度くらいに加熱しつつ窒素ガスを導入すればカーバイドは容易に窒素を吸収して石灰窒素となりつつ落下堆積する。炉の底部より連続的に製品をローラの作用で排出する。これを更に粉砕機を以て粉砕して製品とする。

―硫酸―

硫酸は硫化鉄鉱を主原料とし、これを燃焼して得られる亜硫酸ガスを酸化して製造する。この反応設備として当社は古い工場に於いては一部鉛室式を採用しているが、大部分は塔式に属する。先ず硫化鉄鉱の原鉱を鉱石粉砕機で粉状に破砕せねばならぬ。粉砕された鉱石を焙焼炉の頂部より少しづづ投入し、内部の階段を順次落下せしめつつ燃焼する。又、中部より生成ガスの既に冷却したものに酸素を混して送入し以て炉内部の過熱を防止すると共に適当に酸素を補給しガスの濃度を大ならしめる。かくて燃焼を了った鉱石は焼滓として底部より排出され生成せる高濃度の亜硫酸ガスは頂部より導出し塵埃を除いた上反応塔に導く、酸化窒素を製造するためには簡単なるアンモニア酸化器を具えている。反応塔は数室に分かれ耐酸煉瓦にて築造されている。ガスはこれ等の室を順次通過しつつある間にアンモニア酸化器より送られる酸化窒素の作用並みに水の補給によって硫酸となり、塔の下部より流出して来るから、これを冷却させてタンクに送る。

工程説明(工業薬品)

―合成硝酸―

硝酸はアンモニアガスを酸化して製造する。その製法はアンモニアガスと空気又は酸素との混合ガスを白金等の触媒の作用によって化合させるのである。当社の水の電解、窒素の分離等に当たって多量に副生する酸素ガスと硝酸の製造に有効に利用している。

液体アンモニアを先ずアンモニア気化器に通じて気体とし、これに適量の酸素を混合してアンモニア酸化器に送る。酸化器内でガスは反応して硝酸のガスが出てくるから、これを吸収塔に導き、水にガスを吸収せしめるとボーメ40度くらいの硝酸となる。これを更に濃縮器に移し、濃硫酸を作用せしめると硝酸が蒸発するのでこれを冷却器で冷却して液化しめれば98%程度の濃硝酸が得られるのである。

尚、40度硝酸を充たした反応槽にアンモニアガスを噴射反応せしめた後、蒸発、乾燥せしめると白色の硝安が製造される。

―合成酢酸―

合成酢酸はアセトアルデヒドを酸素で酸化して製造されたものである。即ち先ずカーバイドをアセチレン発生器に投じ水と作用させてアセチレンガスを発生し、これをアセトアルデヒド生成器に送って水と反応せしめた上、水に溶解して精製すれば純粋のアセトアルデヒドを得る。これを酢酸合成器に充たして、酸素ガスを噴射すれば触媒の作用にとって酢酸が合成される。これを精製して純良な酢酸得る。工業酢酸と食用酢酸とは精製の程度によって区別を生ずるものである。

―苛性ソーダ―

苛性ソーダは食藍の電気分解によって製造する。原料食藍を溶解槽に於いて水に溶解して飽和食藍水即ち最も濃度の高い食藍水を作る。これを電解槽に流し込み直流電氣を通じて電気分解する。その生成物は水素、藍素及び苛性ソーダである。水素はこれをアンモニア合成用その他に使用することができる。藍素は晒粉、蘭酸等の製造原料とする。苛性ソーダは人造絹糸製造用等の自家原料として使用されるが隣接せる工場は液状の儘使用し、遠方の工場へは煮沸窯で煮詰めて水分を除いて輸送するのである。晒粉は晒粉製造室と称する大なる空室の上部より藍素を導入しつつ室の頂部より生石灰を散布して製造する。

工程説明(人造絹糸)

―ベンベルグ絹糸―

ベンベルグ糸は綿を銅アンモニア溶液で溶解して製造する。原料コットンリンターを溶解機、煮沸缶、叩潤機等を以て充分精製したうえ溶解槽に送る。溶解槽には硫酸銅にソーダ灰を作用せしめて作る水酸化銅アンモニア及び苛性ソーダの混合溶液即ち濃青色の水酸化銅アンモニア溶液を充たしてある。これに原料リンターうぃ投入し徐々に攪拌すれば次第に溶解して粘周な液体となる。これを濾過機にかけて不純物を去り脱泡タンクに静置して減圧し、原液中の気泡を除去する。これを紡糸機に導いて紡糸液中に射出紡糸する。

―ヴィスコース糸―

ヴィスコース糸はパルプを苛性ソーダで溶解して製造する。浸漬圧搾機中に苛性ソーダを吸収せしめた後圧搾して過剰の苛性ソーダを排除する。かくして得られるものはアルカリ繊維素である。これを粉砕機で粉砕し、熟成槽に容れて十数時間放置して熟成した後、二硫化炭素を作用せしめキサントゲン酸ソーダとし、更に水または苛性ソーダ溶液に溶解してヴィスコースとする。硫化溶液機は即ち紡糸原液であるが、紡糸機に送る前に熟成槽中に十数時間放置熟成せなばならぬ。後これを濾過し且つ、脱泡して紡糸機に導くのである。

工程説明(油脂)

―硬化油―

硬化油の製造はアルカリ処理槽に於いて原料魚油を苛性ソーダで処理して多くの不純分を含んだものをダークオイルとして分離し、更に白土処理器に移し、酸性白土を以て脱色精製するまでが準備工程である。これの精製原油を硬化器に注入し、触媒を混ぜ加熱しつつ水素を噴射せしめた後、これを濾過して冷却すれば白色の固形硬化油を得る。

―グリセリン―

グリセリンは硬化油を分解器に送り、水及び分解促進剤を混ぜ水蒸気を噴射分解してステアリンと分別して製造する。これを分離器によって別々に採取する。このグリセリンを更に真空蒸留器に移して加熱蒸留せしめ圧搾機で凝縮して精製グリセリンを得る。

―脂肪酸―

脂肪酸はグリセリンと分離したその儘で製品にもするが多くはこれを凝縮棚で搾ってプレスト・ステアリンと石鹸用脂肪酸と分つ。圧搾するために脂肪酸を液のままに蒸留器に導き一定の容器に入れて薄板状に硬貨せしめる。脂肪酸を鹸化釜に移して精製したものは蒸留脂肪酸である。

―石鹸―

石鹸は脂肪酸及び石鹸用脂肪酸を鹸化釜に注ぎ苛性層達を以て鹸化し更に食藍にて藍析したる後乾燥成型するものである。

工程説明(火薬)

―ダイナマイト―

当社の火薬事業は鉱業用の爆薬を主として付属的に導火線その他の火工品、チッソロイド等を製造している。爆薬は大体ダイナマイト、硝安ダイナマイト及び硝安爆薬の三種類に分つことを得る。原料の主たるものはニトログリセリン、硝化綿及び硝安である。

ニトログリセリン製造装置はグリセリンを混酸で消化してニトログリセリンとしてこれを洗浄精製する。

綿火薬製造装置であはコットンリンターを混酸で硝化し、洗浄精製裁断する。ヂニトロナフタリン製造装置はナフタリンを硝化するものである。ニトログリセリンと綿火薬とを混和器で混ぜ合わせ、予攪和機及び攪和機で加温しつつ練り合わせこれと他の成分とを混合するとダイナマイト又は硝安ダイナマイトが得られる。硝安爆薬は綿火薬、硝安その他の原料を混和機で混合粉砕したものである。