2023.11.5
デジタルCPトークン市場創設構想

 Digital Securities/CP Tokens
(討議資料:Materials for Open Discussions)


2023.11.05

デジタルCPトークン市場創設について

日本とアジアでの「デジタル CP (Commercial Paper)トークン」市場創設のご提案 (案No.13)

説明図表

2024.01.26

当方は、ライフワークとして、本構想を推進し続けたいと考えております。別紙詳細説明をお読みいただきますと、あるいは荒唐無稽とお感じになられるかもしれませんが、新たなデジタルの時代に向けて、19世紀から20世紀に開発された(1)銀行融資と(2)社債と信用格付けという、企業の資金調達の仕組みを抜本的に変革し、限られた数の上場企業等(日本では4000社足らず)のみならず、一定規模を有する中小企業もそれによって恩恵を受けられるようにする(そして地場の金融機関をはじめとするプロの投資家サイドにも新たなメリットを与えることができるようにする)ための、新たな金融資本市場のグランドデザインを描き切ることがまさにこれから必要になるのではないかと考えております。

日本発で、アジアと世界の、大企業のみならず中小企業も使える短期金融資本市場の新しい市場制度インフラを創造することが目標です。

日本とアジアでの 「デジタルCP (Commercial Paper)トークン」市場創設のご提案

--日本では電債法(電子記録債権法)に準拠/リンクしたデジタル・アセットとして構成--

 

この提案資料は、2020年の初頭から始まったコロナ禍の時期からこれまでの間、別紙説明書表記の2名によって自主研究を継続的に行ってきたなかで得られた情報や知見を基に、絶えず見直しを行いながら作成したものです。ここに書かれた内容や主張については、2名の所属団体とは関係なく、あくまでも個人の資格で個人的に作成しているものです。今後、お読みいただいた方々よりのご意見を踏まえて、その実現方法も含めて、継続的に内容を見直してまいりたいと考えておりますので、ぜひ皆様よりのご意見とご感想をお寄せいただければ幸いです。

 

1.     構想の意義 ― 未上場の中堅・中小企業を含む企業に対する短期資金調達手段の充実

      日本では、短期継続融資を減らす方向での銀行融資慣行(2002-2015年の金融庁監督指針が影響)が依然として残る中、中堅・中小企業は、資金需要に対して機動的な対応を行うことが困難な状況にある。伝統的な審査手法を前提とする銀行借入れは、現状、長期が中心で、特に短期手形融資や短期継続借入はハードルが高い。現下の、短期資金の資金需要自体が乏しいか顕在化していない状況の下で、問題が生じているわけではないが、中堅・中小企業の持続的成長に本来必要な安定的な短期資金供給のパイプは、ここ20年来、細いままである。

      2021年には、経済産業省・中小企業庁から、2026年までに紙の約束手形の利用を廃止する取組方針が表明され、政府も産業界と金融界にそれを促しているが、実際に紙の手形の廃止で短期手形融資も消滅すると、企業に不便と不利益が生じないかが懸念される。いまだ大きな声にはなってはいないものの、電子記録債権とデジタル化技術の活用による利用しやすい代替手段開発が急務と考えられる。

③ また、大企業のみならず中堅・中小企業においても、リスク回避の観点から、長期のみならず短期も含めて調達ソースを分散しておくことが重要である。企業にとって、

 (1)伝統的な間接金融手段である「銀行等金融機関からの借入れ」とともに、

 (2)直接金融手段としての「中長期資金ソースである社債市場」と

 (3)「短期資金ソースであるCP等のマネー・マーケットの調達手段」とを適度に組み合わせて活用できることが、本来は望ましい。

   (それを、「期間別デットポートフォリオの分散」と呼ぶ)

    日本では近年、「企業の間にそれほど資金需要は存在しない」との見解が広く流布されてきたが、ここ20年来、わが国では中堅・中小企業が利用しやすい無担保の短期資金調達手段(銀行等による手形貸し付けなど短期融資商品)が事実上金融市場に存在しなくなっていたため、「企業には資金需要そのものがない」という誤った本末転倒の観念が支配的であったように思われる。中堅・中小企業の資金需要を顕在化させるための市場システムが日本に存在しなかったことが、これまで資金需要が顕在化できなかった一つの理由ではないか。言い換えれば、それが長期に亘って我が国に経済停滞を招いた理由の一つである可能性があるのではないか。これは我が国の中堅・中小企業にとっての「金融包摂(資本市場包摂)の問題」であるとも言い換えられよう。

      使い勝手の良い「デジタルCPトークン市場」が存在すれば、資金提供側においても、プロの投資家は、銀行免許がなくても、自らの判断で、合理的と判断される中堅・中小企業に対する投資ベースの直接資金提供が可能となる。また国際的な活動に従事する企業グループも、アジア域内のサプライ・チェーンにおいて、子会社や関連企業に対して、資本出資や親子ローン以外の短期の資金提供手段を持つこともできる。さらに、地方や地場の金融機関も、投資ベースで、自らの融資対象地域以外や海外のSMEsへの短期資金の供与も可能となる。デジタル技術を用いたこの新しい手段を通じて、大企業のみならず、中堅・中小企業の資金需要を顕在化させ得るとの側面も、見逃すべきではないであろう。

    中堅・中小企業の持続的な成長力と強靭性・リスク対応性の確保のためには、コロナ禍のような危機的状況下において大きな役割を果たした「ゼロゼロ融資」と呼ばれた公的な保証や支援確保の仕組みのみならず、非常時の公的融資が役割を終えた平時においてこそ「あらゆる企業が必要な短期資金を、速やかに・簡単に・かつ安定的に確保できる仕組み」、すなわち、大企業のみならず中堅・中小企業の育成・事業継続・発展に資するための具体的で永続的な「短期調達のための複数の代替可能な市場金融システム」の基盤創出が、重要となっているといえよう。

    日本では、短期資金の調達先として「請求書買い取りファイナンス」等と称したファクタリング業者も複数存在する(ただし、その多くは二者間ファクタリングである[1])が、多くの場合、年率換算後の借入レートが高く、中小企業にとって銀行借入れに代わる短期資金の代替調達手段として十分なものであるとは言い難い。

    最近、企業自身が持つ銀行口座の入出金の情報(取引履歴明細)の動態情報データベースを活用して「スコアリング・モデル」が複数開発されている。ここ数年の間にキャッシュ・フロー予測やスコアリングの精度も向上しており、銀行等による「オンライン・レンディング」も実用化されつつある。資金提供者にとって、これらの技術革新の下で「新たな企業信用度(短期債務返済の確実性)評価の手法を用いた短期資金提供手段」を採用することも、徐々に可能となってきた。(添付資料:GU Tech 稲葉様よりの関連参考情報をご参照)

  デジタルCPトークン市場」での利用を前提として、今後、銀行の口座情報、受注情報、売掛債権等などのキャッシュ・フローに関する情報(確定している入金予定情報も含む)を基に、従来からの銀行等の金融機関の(融資及び審査部局による)伝統的審査手法や債券信用格付けとは全く異なる原理による「短期企業債務返済の確実性評価の仕組み」の開発が、さらに促進されることが期待される。その際には、安全性とセキュリティに留意しつつオープンAPIを活用することが必須となる。地元・地場の金融機関のみならずその他のプロの投資家を資金供給元とした、中堅・中小企業のために、彼らが取り組みやすい新たな手段・手法としての「デジタルCPトークン市場システム」の開発推進が期待される。

      日本には、会社法上の法人企業とそれ以外の医療法人やその他の法人を含めて300万社弱の法人が存在している。このうち、会社法に準拠する企業は約230万社存在する。そしてそれらの過半が零細企業である。中小企業のうち資本金一千万円以上で一億円未満の会社は90万社弱、中堅企業もしくは大企業といわれる資本金一億円以上の会社は3万社程度存在している。そしてそれらの中に一般に上場企業といわれる大手の企業が、約4千社存在する。すなわち、約3,800社の上場企業と、それらの上場企業を含む4,200社程度の有価証券報告書提出企業である。また、日本には、これら大手の企業や中堅企業を含めて、外国と取引を行っている会社が5万社ほど存在するといわれている。

  ここで特筆すべきは、我が国では、これらの4千社ほどのごく一部の上場企業を除き、ほとんどの中堅中小企業は、「コーポレート・ガバナンス」や「企業情報開示」や「サステナブル・ファイナンス/サステナブル・ディスクロージャー」の議論に参加したりそれらに関する市場慣行に触れたりそれらについて考えたりする機会を与えられていないということである。わが国では、すべての企業法人は、法務局に企業情報が登記され、国税庁に法人情報が登録されているものの、「企業情報開示」や「サステナブル・ファイナンス/サステナブル・ディスクロージャー」についての議論と市場実務は、4千社ほどの上場大企業がその対象となっているにすぎないのである。

    また、現行のCP(短期社債)も、SPCと金融機関を除く国内の事業法人による発行銘柄数は2,000-2,300程度である。長期信用格付けも、日本での取得件数は1,100件にとどまっている。

      前述の通り、我が国の企業法人の太宗を占めるSMEs(中小企業)には、これまで、公的保証等の支援/融資と銀行等金融機関からの長期性資金主体の融資以外には、短期の安定的資金調達ソースは事実上存在せず、彼らにとって、特に資本市場からの長短資金の調達への扉は依然として塞がれたままであることを見過ごすべきではないであろう。繰り返しになるが、我が国の中堅・中小企業にとっての金融包摂(資本市場包摂)の問題が残されたままとなっているのである。

    ただ、新しい市場調達手段としての「デジタルCPトークン」自体は、中小企業だけが発行できるインスツルメントではない。翻って、我が国においては、1987年に紙ベースの「手形CP」が初めて導入され、2003年には証券振替方式の「電子CP(短期社債)」が初めて導入された。電子CPの発行開始から20年目の節目となる今、CPのさらなる進化系としての「デジタルCPトークン」の発行が、上場企業を含む我が国の複数の企業によって実現されることが期待されるのである。

    今後、デジタルCPトークン市場創設の検討を通じて、これまで「コーポレート・ガバナンス」「企業情報開示」「サステナブル・ファイナンス/サステナブル・ディスクロージャー」などの議論に参加する機会を全く与えられてこなかった我が国の中堅・中小企業も含めて、プロ投資家やアジア域内のサプライ・チェーン上から見た場合に、ビジネスを行う主体としていわば公的な存在であるともいえる企業法人としての存在、そしてその存在の真正性(ID)確認、及び、彼らにとっての各種の情報の公示と開示の在り方の再構築の問題に取り組むきっかけとなるべき議論が同時に開始されることを期待したい。そして、それら企業が、日本及びアジア域内の「プロ投資家向け短期資本市場」に参入するにふさわしい、「デジタルCPトークン」の発行体として備えるべき条件とは何かについて、同時に議論が深められることを、期待したい。


[1]者間の場合は、取引先に「この売掛金はファクタリング会社に売却したのでファクタリング会社に入金してほしい」旨の「債権譲渡通知書」又は「債権譲渡承諾書」を送ることになる。ファクタリング会社は自社の口座に売掛金が直接入金されるので回収リスクを大幅に軽減でき、手数料を安くできる。一方で資金調達にファクタリングを利用する事業者にとっては、取引先に債権譲渡の依頼をせねばならず、煩雑且つ手間がかかる。したがって、多くの場合、二者間ファクタリングが実施される。


2.     アジアへのインプリケーション

      デジタルCPトークン市場」の創設は、アジア域内各国においても、
(1)「中堅・中小企業(SMEs)への短期資金調達手段の充実」のために必要であり、さらに、

  (2)各国金融資本市場における「短期から長期へのイールド・カーブの形成」の実現のためにも不可欠である。

  (3)そしてその「イールド・カーブの形成」が実現して初めて可能となるのが、各国ごとの「金利と為替のキャッシュ市場」と、それらのヘッジを可能とするための「金利と為替のデリバティブ市場」の一体的な開発である。

  そしてそのために欠かせないのが、各国国内の「公社債市場」及び「短期マネー・マーケット(インターバンク・マーケット及びオープン・マーケット)」の開発である。

      したがって、アジア各国のSMEsにとっての、オープン・マネーマーケット商品としての使い勝手の良い「デジタルCPトークン市場」の創設は、金融資本市場インフラの構築の観点からも、待ったなしの課題であるといえる。

  「デジタルCPトークン市場」の創設と開発の推進によって、特に、アジア域内の発展途上国のマネー・マーケット及び金融資本市場の形成に貢献することができるであろう。

      ADB自体は、先進国である日本の国内金融資本市場とその市場関連システムの創設に直接関与する立場にはないが、日本はあらゆる面で「課題先進国」である。そこで、証券や債権の電子化やデジタリゼーション、及びそれらに関する法制度の整備も含めて先行しつつある日本において、この短期デジタル・アセット市場創設の試みを、アジア発展途上国のための「sandbox」あるいは「PoC(プルーフ・オブ・コンセプト: 概念実証)」の場として捉えることとしたい。

  そこで、例えば、数件のデジタルCPトークンの発行実例を日本国内で作り、その実績をもとに、タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、ベトナム、カンボジア、韓国など、アジア各国に展開することを考えたい。その意味で、この「デジタルCPトークン市場」創設の提案は、財務省国金局が事務局を務めるABMF-Jの分科会や取引所など関連団体における検討課題の一つとして位置づけることも検討に値しよう。


3.    「デジタルCPトークン」と「デジタルAMBIF債」のアジア展開の可能性

日本において一定数の発行が実現した後、同様な仕組みのアジア展開を想定するにあたっての当方の認識は以下の通りである。すなわち、アジアの中堅・中小企業にも同様なニーズは存在しているといえる。

① パブリックチェーンをベースとするICO を認めない国は多いが、プロの投資家向けに限定されたコンソーシアムからなるプライベートチェーンをベースとする社債有価証券のトークン化(STO)を用いて、「デジタルCPトークン」及び「デジタルAMBIF債トークン」のアジア域内における導入振興を展望したい。アジアでのサプライ・チェーン・ファイナンスを念頭に置いて、市場を拡大させることを志向したい。

➁ 将来的に、「デジタルCPトークン」及び「デジタルAMBIF債トークン」の取扱いを通じて、本邦金融機関等に、アジア域内の支店がなくても、取引先企業の円および現地通貨建ての海外資金繰りを支援できることを、既存の証券会社のみならず、本邦地銀・信金・信組等にもアピールしてゆきたい。

③ また、将来に向けて、アジア域内の中堅・中小企業(SMEs)の、口座情報、受発注情報等による短期債務返済の確実性信用度Trustworthiness)分析の精度の向上とも歩調を合わせつつ、非居住者企業による「円建てデジタルCPトークン」や「サムライ債型円建てデジタルAMBIF債トークン」の発行も視野に入れることとしたい。そして、相手国側の規制が許せば、同様の短期と長期の「アジア通貨建デジタルAMBIF債トークン」の発行も展望できる。