2007.06.01

Achievements and Prospects of Securities Settlement Reform in Japan
The Necessity of a Grand Design for Financial and Capital Market System Infrastructure Reform
わが国証券決済改革の実績と展望
金融資本市場システムインフラ改革へのグランドデザインの必要性
金融庁 金融審議会
「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」

第12回 発表資料


2007年6月1日

総合研究開発機構(NIRA)

主席研究員 犬飼 重仁 


(CMAA設立の背景となる参考情報)

Link from JFSA Site: https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/s_group/s_group_index.html

PPT:  https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/s_group/siryou/20070601/04.pdf

Manuscript: https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/s_group/gijiroku/20070601.html

(犬飼注)犬飼による2007年のこの金融庁ワーキングでのこのプレゼンテーションは、改めて読み直してみると、その後の 2010年の ABMF 及び CSIF の創設につながる一つのマイルストーンになっていると思います。

(Inukai Note)Rereading this presentation by Inukai at the 2007 Financial Services Agency Working Group, I believe that it has become a milestone leading to the establishment of ABMF and CSIF in 2010.

Presentation PPT PDF (Japanese)

Inukai Speech manuscript(Japanese)

○池尾座長

どうも大変ありがとうございました。それでは、ちょっと時間が押しておりますので、早速ですがNIRAの犬飼主席研究員からご報告をお願いします。

○犬飼参考人

ただいまご紹介いただきましたNIRAの犬飼でございます。よろしくお願いいたします。本日は大変貴重な場でお話をさせていただけることを大変光栄に存じます。

私は三菱商事の社員でございまして、ただいま内閣府の関係のシンクタンクでありますNIRA、総合研究開発機構に出向しております。そういう人間が証券決済のお話をここでさせていただくというのは大変僣越とは思いますけれども、実は私、財務の経験が長くございまして20年ほど三菱商事の財務関係部局におりました。そしてその間の87年から94年まで、6年3カ月間ロンドンの金融子会社で調達、運用、そして管理部門の経験を持っております。そのときにその金融子会社がメンバーでありましたユーロクリアの関係のオペレーションの責任者もいたしまして、直接自分でベルギーのブリュッセルのユーロクリアのオペレーションを動かした経験もございます。そういう意味で、一応、ハンズ・オンの経験があるかなということでございます。

(P.2)プレゼン資料「わが国証券決済改革の実績と展望-金融資本市場システムインフラ改革へのグランドデザインの必要性」の最初のページには、これも皆様はとうにご承知のお話ですが、1999年の規制緩和3カ年計画から始まった「証券のペーパーレス化の歴史的な流れ」を、簡単に書かせていただいております。実は、企業財務協議会という大手企業の財務部局で金融資本市場調達を担当する者たちの協議会がございまして、2000年の5月に、その中に「日本コマーシャルペーパー協議会(略称:CP協議会。現在の日本資本市場協議会)」というものをつくらせていただいて、私が事務局長を務めました。そのあとすぐに、プレゼン資料2ページの赤○で囲っておる部分ですが、非常に重要な、2000年6月の、金融審議会の報告が出たということでございます。

この金融審議会報告が、その後のCP・社債・株式のペーパーレス化、証券決済の流れを決める非常に重要なものであったと認識しております。その前からご当局に音頭をお取りいただいてコマーシャルペーパーについて紙の手形ベースのものを完全に電子化するにはどうしたいいかという「CPペーパーレス化に関する研究会」を約一年間に亘り開催していただいていたわけですが、その結果、短期社債としてCPの完全電子化を行うという法制度の枠組みが整ったということで、ではその次に実際の振替決済のシステムをどうつくればいいのか考えようということで、私どもの協議会で、欧州証券決済制度調査ミッションを送ったりしまして、CP協議会として約半年ほどかけて自主的に「電子CPの決済システムのグランドデザイン」のとりまとめを行ないました。

このCP協議会で取りまとめたそのグランドデザインが日本経団連に採用されまして、その後、日本証券業協会にもそのアイデアへのご賛同をいただき、それを受けて私どもの原案をベースにした民間サイドの草案という形のものを保振機構さんにご提案申し上げ、その後保振さんには大変なご尽力をいただいて、ただいまのペーパーレスの流れができたということでございます。このように、その最初のところで、多少とも私どもが意見を申し上げるなどのお手伝いをさせていただいたくことができたのかなと思っております。

ただ、このときはあくまでもコマーシャルペーパーの電子化のグランドデザインをとりまとめたということで、その後、保振さんには、実際の2003年のCP、2006年の社債、そして2009年の株式の電子化(振替決済)システムの構築に向けて大変なご尽力をいただいているということは、大変ありがたいと思っております。

そういう意味で、これは保振さんのご努力の賜物ですが、有価証券のペーパーレス化では、我が国は「欧米の周回遅れの状態から、いまや最先端の状態」に現状なっていると思います。ただ、株券電子化が日本の証券決済システム改革の最終目標かというと、多分そうでもないのだろうと思います。


(P.3)先ほど、2000年6月の金融審議会の報告が大事だと申し上げましたが、当時そこで指摘されていたことは、ここの3ページに書いてございますように、ほとんど実現をみております。これも大変なことだと思いますが、ただ、これも先ほど大前さんからご指摘がございましたが、実はこのとき既に「クロス・ボーダー取引の円滑化」という言葉が謳われておりました。ただ、これは残念ながら、ようやく今になって問題の重要性が認識されはじめてきたのではないかなと思っております。 

(P.4)では、そのときに、2000年6月の金融審議会の証券決済ワーキング報告でどういうことがいわれていたのかということなのですが、「クロス・ボーダー取引にかかわる決済を円滑に行うためには内外の証券集中保管機構の提携が重要」とされております。「その手法についてはさまざまなものが考えられるが、我が国の証券決済機関と海外の証券集中保管機構が相互に口座を開設することによって連携を図るということも可能にすべき」と謳われております。非常に重要な指摘が、この時点でもう既に行なわれていた。ただ、その下に書いてございますように、当時は、当面の課題としてSTP、DVP、ペーパーレス化の国内対応が非常に重要であったということで、既存の枠組みの範囲内でクロス・ボーダー取引の市場慣行を最大限意識して整備していくという対応が、精一杯であったものと考えられます。まだ具体的なものが出てきてはいなかったということが言えるのかもしれません。それはそれでしようがなかったと思いますが、しかし「ただいまの現時点ではそれでは十分ではない」というのが、ここにきて日本全体の認識になっているのではないかと思われます。

やはり、先程来お話が出ておりますように、決済システムというものはなかなか目立ちませんが、非常に重要でございます。最近、日本の金融資本市場の国際化が政府レベルにおいてさかんに議論され、わが国金融プラットフォームの一段の国際化を求める声が強くなっております。日本がアジアの中核市場を目指すならば、決済システムのグローバル化についても議論を行う必要があるのではないか。株券電子化は証券決済システム改革の最終目標ではなく手段です。関係者は株券電子化で精一杯かもしれませんが、それを乗り越えて、わが国金融プラットフォームの重要部分である、決済システムを始めとする市場インフラのさらなる利便性の向上、効率性、コスト競争力の向上、ひいては国際化のために、市場関係者のご努力が必要になっているのではないかと思われるところでございます。


(P.5)実は、それらの点に関しまして、今年になりましてから数カ月の間に、官邸、政府関係機関で3つの大変重要なレポートが出てきていると認識しております。

最初のものは、首相官邸から5月16日に出ました「アジア・ゲートウェイ構想」です。2番目は経済財政諮問会議のグローバル化改革専門調査会のワーキンググループから出ているものです。そして3番目が、こちらの金融審議会のスタディグループから出されているものです。

この3つの報告を拝見致しまして、非常に重要な指摘がそれぞれなされていると思います。それらを貫く考え方と致しまして「日本が目指すべき金融サービス市場とその構成インフラのグランドデザインというものが必要になっている」ということかと思います。

資料の5ページの左下の方に書かせていただいておりますのは、金融商品取引法(FIEL)をはじめとする法規制体系、それには開示制度や税制も入りますが、金融サービス市場のインフラとしてそういうものを発展させ、これからさらにきちっとしたものになっていかなければいけないということかと思います。

右下の方に書かせていただいているのは、金融資本市場のシステムのインフラです。そういうシステムインフラは、証券決済制度もその一つですが、取引所のシステムから、証券の清算や保管振替のシステム、証券取引情報収集登録のためのシステムや、資金取引のためのITコミュニケーションシステム、またシステム障害など万一の場合の業務継続計画(BCP:Business Continuity Plan)にいたるまで、そういうものを統合的かつ同時的に整備し、効率化、高度化をしていく必要があるということです。

そういうものがそろって初めて、つまり右と左の、法規制システムと市場システムインフラとがそろって初めて、金融資本市場の国際化、アジアの金融センター化というものがなされるのではないかということかと思います。


(P.6)これは既に公表されていることですが、アジア・ゲートウェイ構想の中には、大変進んだ考えといったらいいのでしょうか、注目されるべき記載事項がたくさん出ております。ただ、アジア・ゲートウェイ構想に関する新聞記事等を拝見すると、残念ながら羽田の発着枠の話だとかそういうことしか載っておりませんで、金融関係のことが余り報道されていないのですが、その中身の方は大変大事なことがたくさん書かれていると考えております。例えば、「証券・資金決済を一体として行う集中決済システムを創設することが重要」ということが、おそらくこういう形では初めて書かれていると思います。

それと、「アジア債券市場育成の取組みを一層強化する」と謳われていますが、アジア債券市場というのは一体何なのだというところが、巷間いろいろ言われる割にはあまり議論が進んでいない分野であったのかもしれないと思うわけです。例えば、6ページの下の方ですが、「クロス・ボーダーのアジア国際債券市場の創設等」というところで、「アジア債券市場育成の取組みを一層強化し、究極的には、アジア各国と協力し、アジア域内に各国の規制の枠組みを超えた、ユーロ市場並みの高度の自由の許容されるクロス・ボーダーの市場が創設されることを目指す」と書かれております。ちょっとこれだけ見ると何のことかわかりにくいのですが、非常に重要なことが書いてあると思います。

ここで釈迦に説法ですが、債券というのは3つの種類があると思っております。それは通常の国内債がまずその第1番目です。第2番目がクロス・ボーダー債というものだと思いますが、クロス・ボーダー債を2つに分けるとするならば、1つは、外国の国内市場で発行される国外債ですね。例えば、これが日本で外国の方が発行する場合にはサムライ債、日本企業等がアメリカで発行する場合にはヤンキー債、韓国で発行する場合にはアリラン債というふうに呼ばれるものですが、これらは国内債の一種ですね。外国人が出すわけですが、国内債の一種です。それで、もう一つのクロス・ボーダー債は、いわゆるユーロ債のようなものです。これは場合によってはオフショア債と言われたり、あるいは民間企業等が出す場合には民間国外債というふうに言われたり、いろんな言い方がありますが、まだまとまった名前がございません。実は、この後者の方が、これから日本とアジアの時代を画していく、我が国とアジアにとって非常に重要なものではないかと思っております。ただ、これを総称してアジア債、アジアボンドというふうに呼ぶ場合もありますが、この辺の議論がまだよく尽くされていないということで、「何がアジア債なのか」、また「アジア債というものをどのようにつくっていかなければいけないのか」という議論は深まっておりません。

私どもが、ロンドンの金融市場、そしてユーロ債市場のICSD(International Central Securities Depositary)であるベルギーのユーロクリア等を見て、経験して、実感しますのは、「アジア域内において、ユーロ債のようなアジア債を出したい、しかしそのアジア債が、ベルギーのブリュッセルまで行って、ユーロクリアのシステムにのせて決済しなければいけないという状況はどうなのだろう?」ということです。ユーロ円であればいいのかもしれませんが、「今後、アジア各国の発行体がアジア通貨建てのアジア債を出していく場合に、それがすべて、例えばユーロクリア決済になってしまうというのはどうなのだろう」という気持ちはございます。ただ、それ以前に、ユーロクリアでは、特定のアジア通貨建ての債券しか取り扱ってもらえないとか、決済が一日遅れるといった問題があるわけです。また、一般化した言い方ですが、欧米の決済のシステム、欧米の仲介機能・仲介等の業者の手によってアジア債ないしアジアのインターナショナル債がすべて決済され、仲介され、保管されるという状況を、今後アジアに定着させるということがどうなのか? これはグローバルカストディアン業務あるいはセトルメントおよびクリアリングの業務を含めてということですが。つまり、そういうアジア債券市場の発行と流通に関する市場インフラと呼べるようなものを、大変かもしれませんが、日本だけということではないのですが、アジア域内全体で何とかつくっていくということが考えられていいのではないかという感じが致します。


(P.7)2番目は、これは経済財政諮問会議の報告なのですが、わが国の市場のあり方に関して「決済システムの戦略的強化」ということが書かれてございます。ここでも「証券決済と資金決済が一体として効率的に機能」とか、「決済システムの国際標準化、清算決済機関の国際的な連携強化を図るべき」ということで、中島先生や大前さんが今おっしゃっていただいたことが、まさに書いてあるということではないかと思います。大変これも進んだ考えのことが書かれていて、素晴らしいと思います。 

(P.8)そしてこちらは金融審議会から出していただいたペーパーですが、「国際的な競争力の高い金融資本市場となるためには、市場を支えるインフラとなる決済システムが、グローバル化、IT化の流れに対応したものであることが重要」と書かれています。

さて、これらの3つの報告をざっと見てまいりまして、それぞれ整合性が取れていると思いますが、今の段階は、先ほどの2000年の6月の金融審議会答申の直前の段階のような雰囲気が感じられます。といいますのは、決済システムのお話というのはなかなか難しいと思いますが、やはり市場実務家、市場関係者の間で議論をこれから高めていく、その前の段階にあたるのかなと、つまり、2000年の6月の前のような状況かもしれないなと思うわけです。ただ、2000年のときは、国内の話をしていればよかったのですけれども、これからは国内だけではなく、日本を含むアジア域内外を対象とする国際的な金融資本市場システムのインフラの創造と改革へのグランドデザイン、そして工程表というものが、これからは多分必要になるのではないかと思います。


(P.9)次に示しておりますのは、NIRAの金融プラットフォーム小委員会として、本年2月にアジア・ゲートウェイ戦略会議に提出・提案をさせていただいたペーパーからの抜粋でございます。かなり分厚い提言を出させていただいておりますけれども、先ほど申し上げましたように、金融サービス市場の構成要素としては、売る人、買う人、仲介する人、それの中にあらゆるいろいろなシステムがありまして、そういうものを一体的にこれからよくしていく必要があるのではないかということを提言させていただいております。

9ページの右の方に書かせていただいているのは、実は今、SE、つまりシステムエンジニアの方たちが不足しているということのようです。株券電子化まで2年を切った今日では目前の株券の電子化対応、あるいは企業と金融業界の日本版SOX法対応、電子政府対応、あるいは各省庁の業務・システム最適化対応等々で、今皆さん大変に忙しい状況にあって、新しいことなどやれないような状況にあるのではないかなということが言われます。少なくとも2009年ぐらいまではまったく新しいことができないのではないかと言われておりますが、その状況について金融庁さんは1年前にそういう調査もされているようでございますが、その辺を今後どう考えるのかというのも一つ重要なポイントになろうかと思います。必要なのはSEをたくさん確保してシステムをつくりにいくということではなくて、いまこれから早急にやらなければいけないのはその前段階のグランドデザインづくりではないかなという感じが致しております。その不在というのは、最終的にはやはり我が国とアジア域内全体の金融サービス産業の空洞化へのリスクを高めることにならないかというのが非常に懸念されるところでございます。


(P.10)続いて、字がいっぱい書いてあって恐縮でございますが、これは先般、NIRAの方で東大の神田秀樹教授と私で対談をやらせていただいたときに、神田先生の方から教えていただいたことを転記させていただいているのですが、「マーケットのグローバリゼーションの意味とは何か」というところで非常に重要なご指摘をいただいております。これはお読みいただきたいと思うのですが、まとめていいますと、「金融の世界というのは決め事の世界である。決済にせよ何にせよ、何をしたらいいのかというのが見えている、つまり各論のカタログは見えているので、あとは決め事の世界の問題である」と、当たり前といえば当たり前かもしれませんが、そういう認識が重要であるということです。

10ページの下のまとめのところにありますように、「金融市場というもの自体がまさに人為的なもので、ものづくりの世界と異なって、どういう市場をつくるかは決め事の世界なので、したがって、市場のシステムインフラのつくり方が重要である。つまり、規制しないのも当局の判断、決め事である。それで、日本のためだけのオフショア市場というものは不用であって、やっぱりアジア全体のことを考えて、国内市場とクロス・ボーダー市場のデザインを構想しなければいけない。それで、アジア各国の金融市場のビジョンが必要となる」ということです。なお、「既存の各国の国内市場にもう一つ、参加者・ルール・税制が違う市場が共存するのがクロス・ボーダー市場である」という点も重要です。これは先ほど申し上げたクロス・ボーダー市場の2番目の方だと思いますけれども、いわゆるオフショア型ということだと思うのです。

ただ、ここで一つ申し上げなければいけないのは、「オフショア」という言葉を使いますと、「何かよくないもの」という印象が我が国では強いのではないかと思います。したがいまして、オフショアという言葉はあまり使わない方がいいかなと思っております。すなわち、「マネーロンダリングの世界」であるとか「税金をごまかす世界」であるとか、そういうふうな意味合いのニュアンスがオフショアという言葉にはありますので、ちょっとこれから言葉の使い方は難しいかなというふうに思っております。いずれにせよ、この「クロス・ボーダー市場の整備がアジアに欠落していることは事実である」ということで、「アジア各国の民間と政府との対話でクロス・ボーダー市場の制度を積み上げていくということが重要」ではないかと神田先生はおっしゃっておられます。

それを受けまして、オフショアという言葉を使わないでアジアボンド市場ということをもう少し詳しく言った場合に、我々は、「アジア域内国際債市場」、ないし「Asian Inter-regional Professional Securities Market」、最近は略して「AIR市場」の創設が必要という提言をさせていただいております。


(P.11)こちらはそのNIRAの提言の中から、「アジアボンド発行市場へのロードマップ」ということで、表の4番の証券決済のところを見ていただきたいのですが、「Dual Core Asian international CSD」というものがありうるのではないかという提言をさせていただいております。 

(P.12-13)では、その Dual Coreとは一体何だということなのですが、これは先ほど2000年6月の中に出てきておりましたように、例えば日本の保振と韓国のKSDを結んで相互に決済するようなことを考えれば、ベルギーのブリュッセルにありますユーロクリアまでいかなくても、アジアの中で、各国の国内で決済される国内債に加えて、アジア域内で自己完結するアジアボンドつまりインターナショナル債(AIR債)をつくり出すことができるのではないかというような提言をさせていただいているわけでございます。 

(P.14-15)もう一つ、これはADB(アジア開発銀行)がホストを務められるABMIの検討の中で、RSIという議論が最近なされております。これはいわゆるアジアクリアだとかアジアセトルだとか言われるものとほぼ同じで、アジアのICSDということなのですが、これを Regional Settlement Intermediaryという名前で呼んでおられるようで、それについて韓国のテクニカルアナリストの方を中心に大変に重要な議論が行われているように見受けられます。RSIのあり方をどうすべきか、ということで、進んだ議論が行われているということは、我々もきちっと見ておく必要があるのではないかと思います。ここで重要なのは、ユーロクリアはアジア各国通貨の中でも日本円やその他一部の国の通貨が効率的に決済できるに過ぎません。将来に亘る中長期で考えますと、やはりアジアの各国が、アジア通貨建てのアジアボンド(インターナショナル債)をいかにうまく創っていけるかというところが問題になると思います。そういう意味で、アジア各国通貨の決済の円滑化の問題、具体的にはセトルメントの話、アジアのインターナショナルCSDあるいはRSIの議論をするときには、そういう決済通貨の問題も同時に考える必要があるというところの指摘がなされているところです。 

(P.16)こちらのページは、先ほど中島先生から、日本にはCCP(セントラル・カウンター・パーティ(清算機関))がいくつもありますというお話があったかと思いますが、これを絵に描くと、こんな感じになるかと思います。小さいものも入れますと、大阪証券取引所にもCCPがあり、国際清算機関、日本証券クリアリング機構、そして保振のクリアリングということで4つあります。これがばらばらになっているということです。先ほどの中島先生のお話のように、CCPというのは非常にメリットがあるが、ただユーザーメリットということを考えた場合には、この4つをさらに集約するということはありうるのかどうかというのも、ひとつ検討課題なのではないだろうかと思います。

それと同じような意味合いにおきまして、CSD(国内の証券集中預託機関)ということで括らせていただいておりますけれども、一般債の場合には保振さんが担われておりまして、国債の場合には日本銀行が資金決済も含めて担われているということだと思うのですが、保振さんの場合には残念ながらというか現状は証券決済だけでございまして、これを例えば保振さんの中で証券決済と資金決済と両方が行われるようなことができないだろうかという検討も、必要になるかもしれないと思います。いずれにしてもいろいろな議論がありうると思いますので、従来はスピーディな制度整備の観点で、個別最適を重視していろいろな制度設計が行われてきたわけでございますが、今後はもう少し全体最適の議論というものを重視すべきではないかなという感じが致しております。


(P.17)今申し上げたことをまとめますと17ページのようになりますが、ここでひとつ指摘をさせていただきたいのは、ページの真ん中あたりなのですが、欧米がどうなっているかというところで、先ほどもお二人の方からお話がございましたけれども、私の見るところでは、欧米の諸国は、証券取引にかかわる横断的かつ統合的な観点を重視して、統一的なインターフェイス構築や清算・決済機関等の組織運営の一元化など、証券決済全体の効率性を常に目配りし、目指しているのではないかという感じが致します。例えば、米国の証券決済制度というのは、日本のそれと機能配置、組織やシステム配置は似ているわけですが、いわゆるインターフェイスの一元化、資金決済や担保利用の効率化が非常に進んでおりまして、「事実上全体で最適化が図られている」のではないかと、完全かどうかわかりませんが、外から見るとそういう感じが致します。また、向こうではセキュリティ・インダストリーが競争力向上に常に前向きであるような印象を受けております。それと、国はサポートする程度と感じます。

また、米国だけではなく欧州・EUも、同じように市場関係者中心に決済効率の追及に向けて積極的な取組みが種々行われているのではないかということです。

従いまして、アジア域内の市場システムのあり方に関しては、日本とアジア域内の決済システムをはじめとする国際的なアジア域内の金融資本市場システムインフラといってもいいかもしれませんが、それらの効率性、競争力というものは、おそらく市場規模で最も大きい日本がイニシアチブをとり、そしてその次は韓国であるわけですが、日本、韓国、そして中国あたりがお互いにきちっと相談をしつつ、その辺の議論をこれからはしていく必要があるのではないかという感じが致しております。


(P.18)最後に、我が国証券決済システムの当面の展望と致しましては、3つ書いてございますが、重要と思いますのは、(1)ペーパーレス制度の方を市場拡大につなげられるかどうか、一般債はどうか、またペーパーレスだけで効率性・コスト競争力の向上が達成できるかという点、それと、先ほど申し上げたように、(2)アジアの中核市場としての(わが国の)ビジネス戦略というものが、これから必要になるのではないかという点。つまり、わが国の清算・決済機関と関係当事者は、互いに連携して、より効率的でアジアに開かれた決済システムの提供を、ビジネスプランとして明確にすべきではないか。豊富な金融資産を持つ日本市場はアジア諸国にとってやはり魅力的ですので、今のうちに、アジアの国々と、あるべき金融プラットフォームについて真剣な議論を行い、実現可能なものから着手しつつ、ビジネス面での連携を深めることが必要で、特に日韓対話が、その第一段階として重要と思います。そして、これも先ほど申し上げましたように、(3)効率性向上には既存の枠組みを超えた取組み、米国の例に学ぶということが必要ではないか。DVP決済についても、元利金決済の効率化など非常に細かい部分の話もございますが、それと先ほど申し上げた、資金と証券の一体的な取扱いが現在可能になっていないわけですが、例えば銀行免許が必要かどうかわかりませんが、保振さんがそういう機能を持っていただくことがどうなのかというご検討も、今後検討に値するのではないかと、そういう感じが致しております。

大変に勝手なこといろいろ申し上げているような気がしておるわけでございますが、あくまでも素人考えかもしれませんが、ヨーロッパの決済システムを実際に使った経験、そしてコマーシャルペーパーの決済システムを提言させていただいた経験、そして実際の資本市場のユーザー、市場実務家としての経験をベースにいたしまして、コメントをさせていただきました。どうもありがとうございます。

以上です。