2014.3.18 Proposal on ASEAN+3 Multi-Currency Bond Issuance Framework (AMBIF)

AMBIFのスタート

Proposal on ASEAN+3 Multi-Currency Bond Issuance Framework (AMBIF)

 

犬飼重仁が主著者の一人として執筆に参加した、ABMFSubForum1Phase2(第二段階)の最終報告書「Proposal on ASEAN+3 Multi-Currency Bond Issuance Framework (AMBIF)」(全86ページ、英文)が完成し、アジア開発銀行(ADB:フィリピンのマニラ市に本拠地を置く国際機関)によって、2014318日に、公表・公開された。以下、詳細のご説明。

 

ABMFASEAN +3債券市場フォーラム)とは何か?

 

20109月以降、ASEAN+3の枠組みで行われてきたのが、ABMF ASEAN+3 Bond Market Forum)の活動である。アジア開発銀行(ADB)を事務局として、域内各国の財務省と中央銀行の共同イニシアチブにより、ABMI TF3(規制枠組みの改善タスクフォース)の下、域内各国の官と民の双方の専門家(百数十人)が一堂に参加してのグループ(ABMF)が初めて立ち上げられ、以降、ASEAN+3の域内横断的なプロ向け債券市場である「AMBIF Market」を創設するためのプロジェクトが進みつつある。ABMFは、域内のクロスボーダー債券取引に係る市場慣行の標準化・規制の調和化を議論し促進するための共通の場として機能してきた。その中には2つのサブフォーラム(SF)が設置され、SF1 (議長:日本, 副議長:マレーシア)では、ASEAN+3各国市場の法規制および市場慣行に関する情報収集と、域内の各債券市場に存在し続ける情報ギャップの解消・縮小を最初の段階の目的としてきた。SF2 (議長:韓国, 副議長:インドネシア,日本) は、取引慣行および証券決済上のメッセージ・フォーマットの調和化を目的としてきた。

 

ABMFは、2010年秋から2013年末までの3年間に、域内各国の官と民の双方の専門家(百数十人)が一堂に参加して、アジア各地で14回の全体会合を開催した。その運営に当たっては、基本的な考え方や取組方針についての議論をおろそかにせず、重要事項を参加者全員で都度確認し合意するステップを重視してきた。またこれと並行して、いくつかの国で、例えば日本では財務省を事務局とする「ABMF-J」、韓国では「ABMF-K」というように、各国国内ごとの対応・支援のためのグループが組織され、ABMF での議論を各国の関係者の間で理解しまた補完しあいながら、プロジェクトは着実に進展してきた。

 

ABMF 第一段階の活動

 

第一段階(20109-2011年末迄)では、二つのサブフォーラムで、①規制の調和化市場慣行の標準化、②債券決済の調和化・標準化について、現地調査を含め包括的な研究を行い、それぞれの債券市場の、市場慣行の在り方、発行手続きを含む関連法規制と規制プロセス、上場/登録規則の在り方、清算/証券決済の概念と制度などについての詳細、相違点の存在、各市場に共通する要素などを、順次明らかにしていった。 

そして、その成果として、20124月には、域内11の国と地域の債券市場関連情報を幅広く網羅し、かつ比較分析を含んだ、全1,532ページにおよぶ、域内初の「ASEAN+3債券市場ガイド2012」を公表した。この「ASEAN+3債券市場ガイド」がカバーする市場は、中国、香港、インドネシア、日本、韓国、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、およびベトナムの、11の国と地域の債券市場である。域内の政策立案者や市場参加者との協議を経て、ASEAN+3の規制当局によって初めてお墨付きを得たこの「ASEAN+3債券市場ガイド」は、世界中の投資家および市場関係者による域内債券市場への理解をさらに促進させる役割を果たしている。

 

ABMF 第二段階の活動

 

第二段階(2012年初め-2013年末迄)では、第一段階で行った域内各市場に関する法規制などの市場情報の横断的な把握の成果を基礎に、SF1においては、東京プロボンド市場も参考にしつつ、域内のプロ投資家を対象としたASEAN+3共通債券発行フレームワーク(AMBIF)の導入についての詳細にわたる検討を行った。コアとなる部分が標準化された債券発行プログラムのフレームワーク(AMBIF)の構成要素および内容を明らかにすることによって、初めて域内に必要なクロスボーダー取引を支援するための政策イニシアチブとしてのAMBIFの達成が可能となることから、そのための諸原則、条件、方法などについての詳細にわたる議論を行い、2014年春、本報告書が取りまとめられた。

 

すなわち、2013年の5月には、インドのニューデリーにおいて開催されたASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議にABMFとしての政策提言(第二段階の中間報告書)を提出し了承され、これを受けて、2014318日マニラで開催されたABMFPhase3の第一回の会合において、2013年末に終了したABMF SF1 Phase2(第二段階)の最終報告書「Proposal on ASEAN+3 Multi-Currency Bond Issuance Framework (AMBIF)」が公表された。

 

説明部分:

http://www.adb.org/publications/proposal-asean3-multi-currency-bond-issuance-framework-ambif


PDF:

https://drive.google.com/file/d/1oHWyOjorgndImd1pdt1hgcA1U5RxP4X6/view?usp=drive_link


Contents

  

本報告書の日本語による概要説明

 

なお、上記の報告書の日本語による概要説明は、

機関誌「日立総研」201403 (vol.8-4) 『特集:自律化するアジアの金融市場』の中に収められた犬飼重仁の論文「ASEAN+3 債券市場創設に向けた議論の進展と課題」をご参照いただきたい。


 

以上

規制監督当局によるAMBIF Bondの規制プロセス
The AMBIF Regulatory Process

例えば、域内の市場(規制管轄区域)ごとにプロ向け債券の発行承認手続き(規制プロセス)が大きく異なる中、AMBIF Bondに係わる規制プロセスに関して、各規制監督機関が共有すべきアプローチとして、図4 のような方法が存在する。

それらを対比的に一覧すると、図4を、下から上に行くほど、実現可能性についての困難さが増し、左から右に行くほど標準化の度合いが強いことを示している。

図4記載項目を、左下から順に、簡単に整理すると、以下、(1)~(6)のようになる。


直接的には、個別の二カ国ごとの、通常、相対する二当事者間(例えば、発行国と販売国のそれぞれの規制監督機関)による、特定の個別規制プロセスに関しての相互合意を意味し、一般に、当該国の規制自体の変更手続きを要するものではない。

なお、AMBIFがめざす合意の対象は、必ずしも個別規制プロセスの相互合意ということではなく、下記の(2)から(3)で説明するような、最低限必要な原則(プリンシプル)や基準(スタンダード)である。

なお、この概念が図4の Target Area に含まれていない理由は三つある。


Substituted Compliance (SC) は、AMBIFがめざすものであるといえる。

SCのもとでは、原則(プリンシプル)や基準(スタンダード)に係わる各国規制監督機関の間の理解と合意の基礎の上に、例えば、発行地の規制監督機関と販売地の規制監督機関の両方が、迅速(Expeditedないしfast-track)な方法で、発行体所在国ないし発行国の規制・審査プロセスに、販売国の審査プロセスを有機的に連動させることにより、AMBIF Bond の発行並びに販売事前審査業務に協力することで、全体としてスピーディーな規制プロセスを実現することができる。

AMBIFが推奨するのは、「Mutual Cooperation among Regulators under SC」ということになる。

なお、国際的な金融規制監督機関の間では、このSCの概念にはすでになじみがある。


これは、表現は異なるが、上記のSCと同様の意味であり、「規制プロセスに係わる承認手続き面でのスピード」により重点を置いた表現といえる。


Mutual Recognition (MR) は、一般的には相互認知や相互認識と訳す場合なども含めて非公式かつよりソフトな意味と解される場合もあるが、通常、二カ国ないし多国間における、国際的な、政府(規制監督機関)間の正式な承認を意味する。このMRの効果を得るためには、基本は、条約などによる相互承認手続きが必要となるなど、実際に実現するまでには、通常長い時間を要する。


Proxy Approach (PA) は、地域的にかなりの程度標準化・包括化された規制プロセスの存在を前提として、域内の多くの規制監督機関が相互に追加の規制プロセスを必要とせず、それぞれの国でAMBIF Bondを発行するための有効かつ規制監督機関が満足できる規制プロセスを受け入れるとのアプローチを意味する。

PAはMRの変形であり、MRがより統合化された形のものをいう。

PAは、AMBIFが最終的にめざす究極目標ではあるが、発展段階が大きく異なる域内の各規制管轄区域の現状に鑑みれば、想定可能な時間軸で達成できるものではない。

したがってPAの概念を安易に持ち出すことには慎重であるべきと考えられる。


Integrationよりは表現は柔らかであるが、EU市場のような市場統合を想定したものといえる。