2018.3.31 過去5年間の早稲田COE研究所でのシリーズ研究に係る最終事業報告

早稲田大学 研究院教授/上級研究員 犬飼 重仁

早稲田大学 総合研究機構《企業法制と法創造》総合研究所

プロジェクト研究所 シリーズ研究に係る最終事業報告書

報告期間(2013~2017年度の五年間)

はじめに

これまで当早稲田大学《企業法制と法創造》総合研究所 プロジェクト研究所 のシリーズ研究では、「企業法制・金融資本市場法制研究」分野において、比較法大国とも言える日本法学を起点に、一貫して「企業」と「市場」と「市民社会」をキーワードとして共有しつつ、あくまでも具体的ソリューション提供を念頭に置いて金融資本市場制度研究を継続することで、多くの理論上・政策論上の成果をあげることができました。

とりわけ、犬飼重仁 研究院教授/上級研究員 と市場関係者の皆さまで構成される研究グループ(早稲田大学 アジア・プロボンド研究会)は、過去数年来、我が国のプロ向け債券市場(東京プロボンド・マーケット)の骨格を形成する「特定投資家私募の枠組み」の法制度整備、関連市場インフラ制度の設計、アジア域内横断的プロ向け債券市場(AMBIF Market)のヴィジョンとその具体的枠組みの形成、そしてそれらの実現に向け一貫して研究活動を推進。その結果として、2014年には「AMBIF市場の共通発行申請フォーマット兼ディスクロージャー・ドキュメンテーション」として汎用的に利用可能な SSF (Single Submission Form) を策定。2015年にはタイのプロ向け債券市場において AMBIF Bond 第一号が発行されました。このことは、私共が12年前の2006年に早稲田大学法学学術院客員教授を兼務していた犬飼が総合研究開発機構(NIRA)において提言した「アジア共同国際債(アジアボンド)市場の創設提言」の構想が進化を続け、プロトタイプの段階から実現段階に移ってきたものと言えます。

この一連のシリーズ研究は、単にEU的な市場を上からの発想でアジアに導入しようとするのではなく、アジア各国の金融資本市場法制・会社法制・自主規制・監督体制・民事法・手続法・司法制度等々の長期的な研究の進展を踏まえて、アジア域内各市場の主体者である規制監督当局と市場参加者の自発性を促し、ボトムアップの発想と行動を尊重しつつ、辛抱強く弛むことなく実施されてきたものであり、将来アジア全域の比較法研究が開花することまでを展望した息の長いシリーズ研究であります。

お陰様で、当シリーズ研究は、2010年以降、アジア開発銀行(ADB)及びABMF等の域内関係機関・フォーラムとも協調し本邦はじめアジア域内各国の規制監督機関・政策立案者・法律家・市場実務家・専門家等の方々との連携を一層深め、域内各国各地域の金融資本市場法規制システム研究をより実践的に推進することで、その共通項を相互に認め合うことに成功し、さらに新たな共通の市場慣行(AMBIF Market Practice)の創造を展望できる段階に入ってきました。即ち、今後アジア域内では実現段階に至ったAMBIF Marketの更なる発展と定着とを目指す段階に入ったと言えます。また、比較法的観点からも、域内各国の広義の証券資本市場とその将来の多角的な統合および各国の関連法規制制度の整備・発展・充実が、具体的に展望される段階となってきました。

言い換えれば、多くの皆さま方の継続的なご支援の下、この息の長いシリーズ研究の継続的な実施が可能となったことで、アジア域内の各国各地域の債券市場インフラの整備当事者である規制当局間で、資本市場法制と関連システムの整備についての良い意味の自律的・自主的な前向きの意志と競争が生まれ、複数の発展途上国で自発的な法規制制度整備が進展し、実際に構想した横断的プロ向け市場が実現ないし実現を見通せる段階に達し、域内共有の財産として発展しつつあります。このことは誠に喜ばしく、この場をお借りしてこれまでご支援とご協力を賜りました皆さま方に、改めて御礼と感謝の意を表させて頂きます。

この早稲田大学 総合研究機構《企業法制と法創造》総合研究所としての最終の活動実績報告につきましては、本研究自体が2004-2013年のCOE時代の研究を継承しつつ継続して行われてきた長期的スパンにわたるシリーズ研究であり、かつ早稲田の研究としては2018年3月末をもって研究が終了することに鑑み、COE終了後の2013年4月から2018年3月末の現在までの5年間を中心に、研究概要とその成果をまとめてご報告申し上げることとした次第です。

なお、2018年3月末に犬飼と鈴木が早稲田大学を退任したのちは、2018年3月12日に一般社団法人として設立されたアジア資本市場協議会(CMAA)において、残された研究を継続するとともに、このシリーズ研究の更なる発展を期す所存です。

内容:

I. はじめに P.2

II. 報告期間(2013 - 2017年度)の研究概要 P. 3

A. シリーズ研究実施の背景情報の要約 P.3

B. シリーズ研究の研究概要とその成果の要約 P.3

C. 年度別要約: 2013年度~2017年度 P.5

2013年度  P.5
2014年度  P.6
2015年度  P.6
2016年度  P.7
2017年度  P.8

III. 成果物一覧  P.10

IV. その他の特記事項  P.15

V. Appendix  P.16

A. 研究員 (犬飼) のアジア渡航記録 兼 ADB関連イベント実施記録 P.16

B. シリーズ研究に係る外部研究資金(早稲田大学への指定寄付金)受入の状況 P.18

C. 研究協力団体「早稲田大学アジア・プロボンド研究会」会合開催実績 (2014年度-2017年度) P.19

D. 早稲田大学アジア・プロボンド研究会メンバー団体一覧 (順不同) P.20


その他特記事項(最後に)

• 多くの関係者・関係先企業及び団体・ご寄付を頂いた団体各位の継続的なご支援の下、息の長いシリーズ研究の実施が可能となったことで、アジア域内の各国と地域の債券市場インフラの整備当事者である規制監督当局間で債券市場法制と関連システムの整備についての良い意味の競い合いの状況が生まれ、域内の多くの新興国と後発発展途上国で自発的な法規制制度整備がここ数年の間に急速に進展し、実際に、構想した横断的なプロ向け市場が続々と実現し、域内共有の財産として発展しつつあることは、誠にありがたくまた喜ばしいことと思います。

• このご報告の場をお借りして、過去 10 年以上にわたって継続的にご支援とご指導を頂いた、早稲田大学の上村達男教授はじめ研究グループの皆様、企業と団体の関係者各位に、心よりの御礼と感謝の意を表させて頂きます。

• 本年 3 月末をもって早稲田大学を離れますが、これまで皆さまから頂戴したご恩に報いるとともに、依然として発展途上にあるアジアと、そして日本の金融資本市場の発展のために、今後は一般社団法人 アジア資本市場協議会(CMAA)という新たな枠組みの下で、引き続き活動を行ってまいりたいと存じます。引き続きのご支援を、切にお願い申し上げます。

2018 年 3 月 31 日

主管研究員代表 犬飼 重仁