2010.09 ABMF Established
ASEAN+3 Bond Market Forum
ASEAN+3債券市場フォーラム 設置
「ASEAN+3債券市場フォーラム」(ABMF)
2010年9月、2003年設置のABMI(下記参照)の取組みの 一環として、域内のクロスボーダー債券取引の促進に向けて、債券市場慣行の標準化・規制の調和化を目的とした官民一体の「ASEAN+3 債券市場フォーラム(ABMF: ASEAN+3 Bond Market Forum)」が設置された
ABMF には、各国当局からノミネートされた金融機関や証券振替機関、証券取引所や証券業協会、グローバルバンク・域内各国の大手の金融機関に加えて、中央銀行や財務省や証券監督当局等の公的機関や 格付機関, SWIFT等が、メンバーやオブザーバーとして参加
サブフォーラム、ワーキンググループの活動を通じて、技術的・制度的な問題を議論
各国各市場の債券市場ガイドなどの出版物は、ABMFのセクレタリアット・チームが、各国各市場の専門家の協力を得て策定したもの
年3回程度開催し、その結果は、毎年ABMI タスクフォースに報告される
「アジア債券市場育成イニシアティブ」(ABMI)
2003年に始まったアジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI: Asian Bond Markets Initiative)は、1997年のアジア通貨危機の経験を踏まえ、それを教訓に、二度と同じ失敗を繰り返さないため、同年8月にASEAN+3財務大臣会議(於: フィリピン・マニラ)で合意し開始された枠組み ASEAN+3各国の財務大臣と中央銀行が中心となりADBを事務局として運営されている
域内各国の企業と金融機関の「資金調達と資金仲介チャネルの多様化」に資するための「現地通貨建て債券市場の育成」を目標として掲げ、
効率的で流動性の高い債券市場育成にり「各国の政府と民間企業の調達手段の多様化」を進め、域内金融資本市場の厚みを増すことで、各国の金融システムの安定化に繋げ、
「アジア域内全体として、域内で益々潤沢となる貯蓄を、同じ域内に対する投資へと振り向け、域内で活用できるようにする」ことを目的としている
金融機関の現地通貨の流動性確保・域内各国の国債を利用した取引安定化のための担保の提供を行い、ミクロレベルでの平時の金融システム安定策を提供し、活用されることも目指している
新・ABMI中期ロードマップ(2023-2026)参考
アジア開発銀行 (ADB: Asian Development Bank)
その存在と役割, 日本との関係
ADBはアジア・太平洋地域を対象に経済成長と経済協力を助長し, 開発途上加盟国の経済発展に貢献することを目的に, 1966年フィリピンマニラを本部に設立の国際開発金融機関
世界最大の貧困人口を抱える同地域の貧困削減を図り平等な経済成長を実現することを最重要課題とし, この困難な問題に取り組んでいる
現在67か国の国と地域(アジア太平洋域内48, 域外19)で構成され最大の出資国は 日本とアメリカ(共に15.7%)
他の主な出資国は 中国(台湾も中国台北として参加) - 6.46%,
インド- 6.35%, オーストラリア - 5.8%, カナダ - 5.25%,
インドネシア - 5.17%, 韓国 - 5.05%, ドイツ - 4.34%
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日本の大蔵省(現財務省)が深く関わり, 大蔵省OBで大蔵大臣だった故福田赳夫総理大臣とその盟友の大蔵省OBで初代総裁も務めた渡辺武氏が作成した案をもとに設立 歴代総裁はすべて財務省OBが就任
主な事業は, 開発途上国に対する融資と技術援助, 開発プロジェクト・開発プログラムの準備・執行のための技術支援及び助言業務, 開発目的のための公的・民間支援の促進, 開発途上加盟国の開発政策調整支援等
2016年には, 中国主導で設立された AIIB(アジアインフラ投資銀行) と, 協調融資の実施で, 覚書を締結
ADB (ERCD: Economic Research and Regional Cooperation Dept.)は, ABMIとABMFの事務局を務める
「ASEAN」と「ASEAN+3」
ASEAN (東南アジア諸国連合: Association of South-East Asian Nations) は 1967年の「バンコク宣言」によって設立された 地域協力の枠組み
地域の平和と安定や 経済成長の促進 を 目的に、当初 5カ国で設立され、現在は10カ国が参加 (ASEAN 10)
ASEAN 10: ブルネイ; インドネシア; カンボジア, ラオス; ミャンマー; マレーシア; フィリピン; シンガポール; タイ; ベトナム
(太字は ASEAN 5)
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ASEAN+3 (アセアン・プラス・スリー)は、地域交流の緊密な 東南アジア諸国連合 (ASEAN) と 日本・韓国・中国 で協力していく枠組み
1997年のアジア通貨危機を契機に開始
+3とは: 中国 (香港含む), 日本, 韓国 (= 13カ国, 14 economies)
ABMF - As a Common Platform for P&PP
(プライベート&パブリック・パートナーシップ)
ABMF は、官民が一体となって、自由闊達に様々な議論を行うフォーラム
域内各国の規制機関や金融機関などの参加者の間で、公式/非公式に情報交換や交流を行い、互いに触発されたり、議論を深めたりすることのできる有意義な場
参加各国の規制機関による関連法規制の自主的なレベルアップも相次いでいる
(それを,良い意味での Peer Pressure と呼ぶ)
「ASEAN+3 債券共通発行フレームワーク」
(AMBIF: ASEAN+3 Multi-Currency Bond Issuance Framework )
(背景にある問題意識)
アジア通貨危機以降、日本を除くアジア(ASEAN+2)の債券市場は、徐々に発展してきたが, 中国を除けば, 経済規模や通貨規制等の制約から、世界的に見れば, 依然として周辺市場の扱いを抜け出すことができていない
域内各国の債券市場を完全に統一することは不可能だが, 各市場の共通項(投資家層をプロのみに絞る, 公募ではない限定開示のルールと 簡素な発行手続きとする, プロのみの参加者を前提とした市場慣行など)を抜き出し, プロの市場参加者の間での共通化を図ることで, 各国の国の垣根を超えた 域内横断的 (Intra-regionally standardized) な市場として機能させられれば, 規模の経済を追求できる
実際, プロ投資家向けの市場であれば, どの国の市場も, 制度・考え方がほぼ同じなので, すべてを統一するのではなく, 足並みをそろえることが出来るところから行う
AMBIF
ASEAN+3 Multi-Currency Bond Issuance Framework
2013年に、ABMFにおいて、濃密な議論を経て、初めて各国の国内プロ市場連結型のAMBIFの枠組みと市場の特徴が合意された
AMBIF(ASEAN+3 Multi-Currency Bond Issuance Framework)は、国により異なる債券発行手続きなどを、共通化しようというもの
具体的には「各国の国内で発行され, 証券決済される国内債」であるという国内債券の性格自体を変更せず, 「プロ投資家向けの限定開示の市場」を構想し, 「域内各国で横断的に使える同一の書面・フォーマット (Single Submission Form: SSF)」を用いて, それぞれの国の債券発行, 登録・上場(プロファイル・リスティング)の手続きを行えるようにした
AMBIFでは, 市場参加者を, 専門性の高いプロ投資家(主に銀行や保険会社などの金融機関)と引受業者などの専門家の市場関係者に限定することで, 各国の制度的な違いを極小化することを可能としている
AMBIF市場は, 国際的市場であるユーロ債市場とも整合的 (プロの参加者に親和的) な市場ルールを各国の国内債券市場に広めることを目指しており, それにより, 取引の共通化・標準化を進める
ABMI/ABMFと密接にリンクする
我が国の官邸発表の新成長戦略/政府提言の一部
2010年6月
ユーロ市場(欧州の国際債券市場)と比肩する市場を我が国に実現するために、
「プロ向けの社債発行・流通市場を整備」、
「アジア域内の豊富な貯蓄をアジアの成長に向けた投資に活用」、
「金融自身も成長産業として発展できるよう、市場や取引所の整備、金融法制の改革等を進め、ユーザーにとって信頼できる利便性の高い金融産業を構築」
することで、金融市場と金融産業の国際競争力を高めること
(工程表の金融部分)
2010年度実施事項:「プロ向け社債市場の整備」(2011年にTPBMとして結実)
2010年中実施事項:「ASEAN+3債券市場フォーラム(ABMF) の設立」(2010年9月に創設)
2020年迄に実施する事項:「アジア債券市場を育成し日系企業等の現地通貨での資金調達を円滑化する」
2013年12月
2020年をゴールとして、
(1)総合取引所を含む東京市場すなわち我が国金融資本市場を、アジアとともに成長しうる
「アジアナンバーワンの市場(国際金融センター)」とし、かつ、事実上我が国が主導して、
(2)クロスボーダー債券の発行・取引円滑化のための市場整備
(ASEAN諸国との債券発行手続きの共通化等)
を推進し、最終的に、
(3-1)アジア各国における本邦企業の円滑な現地通貨建て資金調達・貸出等を実現し、
(3-2)同時にアジア地域におけるクロスボーダーでの資金証券の取引市場や決済システムを確立する
ABMF設立・AMBIF市場創設/TPBM創設として結実した
NIRAと早稲田&CMAAの研究提言
犬飼とそのグループは、総合研究開発機構(NIRA)出向中の2006年から早稲田大学教授在職中の2010年にかけて、ロンドン駐在時代の経験を活かし、国際的債券資本市場制度についての調査研究を継続的に行い、多くの有力学識経験者・法律家・市場実務家を含む官・学・民の協力を得て、日本とアジア域内を対象とした「アジア域内国際債市場創設構想-アジアボンド市場へのロードマップ」,「アジ域内プロ向け国際債市場とその日本版である我国プロ向け公募債市場 (AIR-PSM)創設」を提言
それら提言のエッセンスは第一次安倍内閣の「アジア・ゲートウエイ構想(2007)」の金融部分に反映され、それ以降歴代の政権戦略にそれらビジョンが反映されるなど、現在まで我国の官邸による中長期的戦略ビジョンの一部となっており、ABMI/ABMF の活動とも密接に繋がっている
AIR-PSM から AMBIF へ
当初のNIRAと早稲田の2006-10年の段階におけるアジア域内プロ向け債券市場創設提言においては、アジアの各国の天空(AIR)にユーロボンド型の地域横断的国際債市場を作るということを構想、つまりオフショア型の市場創設を構想していた
その時に使った英語は、AIR市場 (Asian Inter-Regional Professional Securities Market: AIR-PSM)
その後、2010年秋に始まったABMFでの初期の実際の議論の中で、香港とシンガポールを除く各国の規制当局の中から、「ユーロ債市場を自分たちの国に持ち込まれることは絶対に嫌だ」、「各国の規制についての主権が失われて、自分の国の市場がミニ・ロンドンになって、欧米の法律事務所の法律家が国内を闊歩するような状況は作りたくない」、という意見が相次ぎ、非常に建設的な議論が行われて、その結果、ABMF参加のメンバーの合意の上に作り出されたのが、2013年に命名された AMBIF市場(発行開始は2015年)
なお、香港とシンガポールは、いわばハイブリッド市場なので、国内債であるかオフショア債であるか(証券決済の場所が国内であるか海外であるか)、基本的に気にしない市場である
AMBIFが狙う市場は、プロ投資家向けの市場であり、その意味で、ユーロ債市場とも同質性を持っているが、AMBIF市場は、あくまでもローカルな国内債であるというところが、いわゆる国際債市場(言い換えればオフショア市場としてのユーロ債市場)とは異なる
ちなみに、Eurobond は、通常ロンドンでサイニングがされ、ロンドンの引受業者が関わるが、その証券決済は、ベルギーのブラッセルにあるユーロクリアか、若しくは、ルクセンブルグにあるクリアストリームという国際証券決済機関で行われるため、純然たる英国の国内債ではなく、従って「オフショア発行の国際債」と呼ばれる
「AIR-PSM」から「AMBIF」に至る道程のサマリー:
→2010年 「ASEAN+3 債券市場フォーラム(ABMF)」始動, (P&PP) 開始
→2013年 「ASEAN+3債券共通発行フレームワーク(AMBIF)」の枠組みと市場の特徴を合意
→2015年 「AMBIF市場創設」(AMBIF債第一号発行実現)
2006-10年のNIRA・早稲田の「AIR-PSM」提言と軌を一にして「アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)」の下、2010年9月にはアジア開発銀行(ADB)が事務局を務める域内官民一体のフォーラム「ASEAN+3 債券市場フォーラム(ABMF)」が立ち上がった
2013年末には、ABMFの域内官民専門家メンバーの総意(P&PP)により, オフショア債型ではなく, 各国国内債連結型の市場設計に基づく、域内横断的プロ向け債券市場である「ASEAN+3債券共通発行フレームワーク(AMBIF)」の枠組みと市場の特徴を合意
2015年に、AMBIF債第一号が発行されて以降、AMBIF市場は着実に発展
一方、日本国内では2008年の金融庁「金融資本市場競争力強化プラン」により金融商品取引法が改正されて「特定投資家私募の枠組み」が導入され、それに基づき2011年には「東京プロボンドマーケット(TPBM)」が創設 TPBM は AMBIF市場の有力な一部を形成
なぜオフショア型(ユーロボンド型)国際債市場ではだめか?
NIRAと早稲田の2006-08年当初の「アジア域内のプロ向け国際債市場創設構想」では、アジア各国の天空(AIR)に、ユーロボンド型域内横断的国際債市場を創設することを提言し、その時使った市場の名称は AIR-PSM (Asian Inter-Regional Professional Securities Market)
2010年9月開始のABMFにおける議論では、香港とシンガポールを除く各国規制当局から「ユーロ債市場システムが自分たちの国に持ち込まれるの避けるべきであり、国の規制主権が失われ、自国市場がミニ・ロンドンになるような状況は作るべきではない」との趣旨の意見が相次いだ 香港とシンガポールはいわばハイブリッド型のFC的債券市場であり、国内市場であるかオフショア市場であるか(証券決済の場所が国内であるか海外であるか)基本的に気にしない市場
ABMFでの建設的な議論とP&PP の結果、ABMF参加各国の官民の積極的な貢献と合意の上に2013年にその概念ができ上ったのがAMBIF市場であり、その市場の特性を説明するとき、Asian Intra-Regional Professional Securities Market (Inter-RegionalではなくIntra-Regional)であると説明することにした
各国の国内債であるとの国内債の性格は変えず、域内プロ投資家向けに自由に流通可能な横断的プロ市場を、参加者の官民全員の英知によってアジアの天空に生み出したもので、官民の専門家のP&PPがあれば、新市場の設計も進化することが事実の上で実証された
AIR-PSM から AMBIF へ