『バイオレント・ナイト』感想

こういう映画に倫理観とかを持ち込むのは野暮だろうと思う。

デヴィッド・ハーバー演じるサンタクロースが魔法を使……うよりも暴力を使って「悪い子」押し込み強盗グループを退治する映画なんて、血しぶき飛ぶごとに拍手して喜ぶのが正しい鑑賞法であろう。

実際、かつて戦士だった自分を取り戻し、悪者を虐殺するサンタのアクションシーンは残酷すぎて笑っちゃったし、魔法すら虐殺に利用する戦い方はさすが87NORTH製作だなあと感心(?)した。


それでも、頭を空っぽにして映画を観ることができない私なので、「良い子/悪い子」の境界はそんなに絶対的なものか? という疑問はずっと頭の中にあった。

常日頃、サンタクロースという「制度」は理不尽なものだと思っている。

そりゃ分かってますよ、「良い子にしてないとプレゼントもらえないよ」と子どもを脅すのも躾の一環なんでしょ。

だけど親によって良い子の基準って違うしだな……

それに宗教とか加わってくるとまた複雑だしな……

どんだけ良い子にしてても貰えるプレゼントは家の所得の都合でしか決まらないしな……

大体、ほとんど親とか環境の影響で子どもの性格なんて変わってくるもんなのに、そういうの度外視で良い子悪い子のジャッジするってアンフェアじゃない?

相手は子どもやぞ。

この映画、そこにちゃんとツッコんでたので「やるじゃん」と思い、途中から見直した。

まあ、基本的にはブラックジョークなアクション映画なのだが。


◆◆◆


映画の中でサンタが持っている巻物みたいなアイテムは、めちゃくちゃあっけらかんと「良い子/悪い子」を判定していた。

(しかも善悪が微妙なキャラクターについてはどっちなのか判定を言及しないというご都合主義だった。あの小物のハリウッドスターはどっちだったんだよ気になる)


その上、映画の中でサンタに救われサンタを救うスーパー良い子のトルーディは、超資産家の祖母を持ち、なに不自由なく暮らしているお嬢さまである。

確かに両親の不和(目下別居しているようだ)という不幸には見舞われているかもしれないが、クリスマスには一家で集まる程度でそこまで破綻していない。

両親も子どもに対してはまともそうな人々だ(父親は泥棒チャレンジしちゃってたが)。

それくらい環境に恵まれた子は、親からのプレゼントでいいんじゃないですかね。


一方で、ジミー(ジョン・レグイザモ演)が語るクリスマスの思い出はとても悲しいもので、私は極悪人のジミーの子ども時代が可哀相になっちゃった。

父親がクリスマス時期にリストラされて家計が苦しくなり、クリスマスが祝えなくなってしまった。

ジミーは自分をみじめに思った。

そこで普通にクリスマスを祝えている隣家に夜中忍び込んだところ、そこの家のおじいさんに見つかってしまって、階段から突き落としてしまった(実際そうだったのかは不明だが)。そのせいでおじいさんは亡くなった。


よその家に不法侵入してしまうあたり、彼は確かに良い子ではなかったわけで、サンタは来てくれなかったんだろう。

結果的に、貧しかっただけのジミーは一転犯罪者となり、悪の道に入っていくことになった。


なんだよ!!! サンタクロースって格差の拡大しかしてない存在じゃん!!!


しかし、この映画はそこにしっかりツッコミを入れた。

ここは正直「おおっ」となった。


ジミーと対峙したサンタは、自分が悪い子にペナルティを与えるだけで導くことはしない存在であるのを受けいれており、怒るジミーに「人生に介入はできない」と言う。

それでジミーはサンタにブチ切れるのだ。

「介入しろよ!!」と。


本当だよ。

ぶっちゃけ強盗犯退治するなんて、平気でめちゃくちゃ介入しちゃってるじゃないの。

悪い子にクリスマスの祝福を与えないというペナルティを与えるのであれば、まずは全ての子どもたちに善の側に導くようなことをしろよ。

運命に左右されて決まってしまうことに、絶対的な価値を与えるなよ、とジミーは怒るのだ。

演じるレグイザモ兄貴がラティーノだからこそ、アメリカの人種格差もうかがわせる。


映画ではこの話題をそれ以上掘り下げることはなく、結局はジミーは退治されるし富豪一家は救われる。

それでも、ジミーが指摘したサンタ制度の理不尽さは、きっとあのサンタクロースの今後の仕事ぶりに影響を与えるであろう、少なくともそうであってほしい。

そのあたりは続編で!(あるのか?)

(2023年2月3日)

《おまけ》

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