『ハスラーズ』感想

『ハスラーズ』、最高のアンチヒーロー映画だった……私が求めていたシスターフッドが眼前に繰り広げられていた……男不在でめちゃくちゃ楽しくやってるシーンの数々にニコニコになる人多いのでは。格差・階級社会に性差別とテーマも深く、性産業がエロもロマンもない「労働」として描かれていて安心‪した。

もちろん女性のヌードは出てくる(ストリップクラブが舞台だから当然)けど必要最低限だし、エロティックな衣装を着てはいるけどそれはあくまでも仕事の衣装で、男性の妄想みたいな女は出てこないし、描き方が本当プロフェッショナルな感じでスラットシェイミングなどさせんぞ!という気概を感じた。J.Loのポールダンシングは圧巻、あそこだけ繰り返し観たいくらいの圧倒的パフォーマンス。世界一のいい女が出たー! って感じにゴージャスで札も降り注ぐんだけど、すぐ後に綺麗でもない寒々しい屋上でタバコをふかしてて、新人のデスティニーに屈託なく接する態度なんかもあって「それでも苦労してきた1人のダンサーにすぎない」と否応なく感じさせる。

このステージ上と楽屋裏のギャップという演出があったおかげで、私にとって遠い存在のストリッパーが一気に生身の人間になった気がする。監督の演出の力を感じた……。

本当は華々しくもゴージャスでもない。ストリッパーは職業としても収入源としても不安定で、だからこそやれる間に稼げるだけ稼がなくてはいけない労働者たち。
そしてその職業に就く人々は、経済格差が作り出す今日の階級社会で、選択肢を奪われた挙句に辿り着いた人々でもある。

本作のプロデューサーであるアダム・マッケイの名前を見れば、彼の監督作『マネー・ショート』に、サブプライムローン債券の暴落によって財産を失ったストリッパーが居たことも思い出す。
『ハスラーズ』で「被害者」になったウォール街の奴らは、そういう不安定な職業のストリッパーたちを性的に搾取する一方で、経済的打撃も与えていたわけだ。

インタビュアーのエリザベスが口にした「自業自得」という言葉は、実は何重もの意味を含んでいるのではないかな。

(2020年2月8日)