L.ボッケリーニ(1743-1805)
■スターバト・マーテル G 532
ハイドンとモーツァルトの間の世代であるボッケリーニは、交響曲やチェロ協奏曲のほか、三重奏から五重奏までの弦楽作品に数多くの楽曲を遺している。有名な「メヌエット」は弦楽五重奏G275の第3楽章。鍵盤楽器やギターを含む作品にも佳曲が多く、哀愁を帯びた旋律と愉悦感あふれるリズムが特徴である。
チェロ奏者でもあったボッケリーニは、20代半ばで出身地のイタリアからスペインに拠点を移し、王室作曲家として名声を博した。「スターバト・マーテル」はボッケリーニの数少ない宗教曲の一つで、チェロ2本の弦楽五重奏+ソプラノという極めて珍しい形態をとる。1781年の作曲後、改訂され、3人の声楽と弦楽アンサンブルで演奏されることもある。本日演奏する版は、原典版をもとにパートの人数を増やし、コントラバスも取り入れたものだ。
スターバト・マーテルは「悲しみの聖母」という邦題で知られる。十字架の傍にたたずむ聖母マリアの姿を描いたこの有名な韻文詩は中世に作られた聖歌の一つで、ルネッサンス時代のジョスカン・デ・プレやパレストリーナに始まり、ハイドン、ロッシーニ、シューベルト、ヴェルディ、ドボルザーク、プーランク、ペルトなどの手で多くの名曲が生まれた。試みにYouTubeで検索すれば、一晩かかっても聴ききれないほどの演奏が現れる。もっとも有名なのは18世紀イタリアの作曲家ペルゴレーシによるもので、弦楽器と通奏低音をバックに、ソプラノとアルトが悲嘆の情景を切々と歌い上げる。
ボッケリーニによる本作がユニークなのは、「悲しみ」一辺倒ではないことだろう。全11曲中、中盤の数曲などは幸福感すらにじむ。それが言い過ぎなら、聖母マリアに寄せる親しみの表れか。弦楽器による五つの声部と1本の歌声が、あたかも室内楽のような親密さで悲しみのタペストリーを織り上げる。
器楽的な聴きどころを一つ挙げるとすれば、第6曲「さあ、御母よ、愛の泉よ」でのチェロのソロ。ゆったりしたテンポながらチェロとしては音域が極めて高く、名手ボッケリーニならではの超絶技巧が求められる。川島さんの慈愛に満ちた歌声とともにお楽しみいただきたい。 (Vn.仮屋)
F.ブリッジ(1879-1941)
■ロジャー・ド・カヴァリー卿 Sir Roger de Coverly
イギリスの作曲家フランク・ブリッジは、主にブリテンの作曲の師として知られています。本曲は、イギリスの古いカントリーダンス曲「ロジャー・ド・カヴァリー卿」に基づいて作曲された弦楽曲で、「クリスマス舞曲」という副題がついています。曲は、ジーグ風の9/8拍子のリズムにのって「ロジャー・ド・カヴァリー」の快活なメロディーが何度も繰り返されます。曲の中盤で、爽やかな民謡風のメロディーが登場し、後半では再びロジャー・ド・カヴァリーのメロディーが繰り返される中で、ビオラに「蛍の光」のメロディーが現れ、にぎやかに曲を閉じます。
■3つの牧歌〜第2曲 Allegretto poco lento
ブリテンは10代半ばにブリッジに作曲を師事した後、ロンドンの王立音楽大学に入学します。卒業後の1937年、ブリッジへの感謝と尊敬を込めて「フランク・ブリッジの主題による変奏曲」(弦楽合奏のための)を作曲しました。これがザルツブルグ音楽祭で初演されたことで国際的な名声を得るとともに、彼の出世作となりました。この変奏曲の主題として使われたのが「3つの牧歌」第2曲主部です。曲は、物憂げで霧がかかったようなメロディーの主部で始まり、起伏のある中間部をへて、再び冒頭のメロディーを静かに奏して終わります。
B.ブリテン(1913-1976)
■シンプル・シンフォニー Op.4
10〜13歳で書いた習作をもとに、音大在学中の1934年に作曲した弦楽合奏曲で、中期以降のやや前衛的な作品と比べて親しみやすい曲です。
第1楽章:「騒々しいブーレ」Allegro ritmico(リズミカルに)。2拍子の古風な舞曲形式の中にも、斬新な和声やおどけたパッセージが見られる。
第2楽章:「おどけたピチカート」Presto possibile pizzicato sempre 全てピチカートで演奏される。中間部はややゆったりした民謡風メロディー。
第3楽章:「感傷的なサラバンド」Poco lento e pesante(重々しく) 悲しみあふれる短調のメロディーが続く。長調に転調する中間部は一筋の光が差し込むよう。
第4楽章:「浮かれた終曲」Prestissimo con fuoco(火のように) 疾走感のある短調の曲。浮かれて悪ふざけをしている感じか。 (Vc.吉野)