『地域ケアとリカバリーを支える心理学 精神病と統合失調症の新しい理解』
(2016年 北大路書房)
京都市図書館にリクエストして購入してもらい、やっと手元に届いた。
仕事の中で、多くの「統合失調症と診断された方」と接するようになって十数年たつ。最初は「からすが話すことがうるさくて」と言われてビックリしたが、だんだん「そうなんですね」とお話を聞けるようになってきた。どこかへふと旅たつタイプの方の場合、医師に相談したら「旅たたせてあげてください」とアドバイスをもらった。本人が帰りたいというので旅先の関係機関と話をして帰りの飛行機便に乗せてもらったこともある。彼の場合、関係者に好かれてそのままの人生を生き抜いていかれた。きっと本人の中にはたくさんの辛い体験があったのだと思う。人は強いストレスを受けると、なんらかの辛い症状が現れるのかもしれない。誰でも起こりうることなのだろう。それはある程度納得できる。医師のアドバイスにもあるように、相手をそのまま受けとめること、そんな存在が近くにいれば、随分、辛さが軽くなるのではないかと思った。この本には、本人たちのたくさんの経験談が紹介されている。近くに敬意をもって接してくれる人がいることは症状を自分で落ち着かせる一歩のようだ。身近な家族の忍耐強い対応が嬉しかったという体験談はとくに印象的だった。落ち着かない嵐の日々に毎日接している家族がこんな風にあとで感謝される対応をするのは、なかなか困難だと思う。誰か落ち着いた助言者にアドバイスをもらいたくなるし、支えてもらいたくなるものだと思う。話を聞いてもらうこと、それが基本なのかもしれないと改めて感じた。
医師の診断ごとに違う診断名をもらった人にも出会う。神田橋医師によれば「統合失調症という概念は本質的にくずかご」なのだそうだ。(『発達障害は治りますか?』花風社)よくわからないものはひとくくりにしてとりあえず「統合失調症」にされるということなのかなと思う。まだまだ一般的には誤解されやすい病名だが、障害区分を問わず支援センターが動き、訪問看護が増え、訪問診療を受けながら地域で暮らす人が増えてきている現在、支援者の中で、だんだん、こういう人たちなんだ、という最低限の理解は進んできているのではないだろうか。
英語圏で暮らしているとか英語の論文を読み慣れている人なら苦にならないのではと思うが、直訳英語なので読むのに苦労した。本著は英国心理学会・臨床心理学部門が出した報告書であり、原文はホームページからも読めるそうであるから、英語が堪能な方は原文を読まれるほうがわかりやすいかもしれない。