相楽の廣瀬明彦先生が本を書かれたと知り、早速、発行元のSプランニングから送ってもらいました。
『命と存在を支えあう 相楽福祉会の理念と実践』(Sプランニング)です。
前書きを読んでショック。先生は療養中とのこと。しかし療養中でもケアホームの同居人として暮らし続けておられるようです。今年外部の仕事に区切りをつけ、本拠地の相楽の仕事に戻り、週1回出した通信をまとめたのがこの本です。8人の利用者と保護者とともに相楽作業所を立ち上げて30年。ケアホーム(グループホーム)の同居人として22年。「入所施設には送らない」「ニーズには誠実に応える」という方針を掲げ、京都の福祉の先頭を走り続けてこられました。この本はその実践をふりかえり、後輩達へのメッセージとして書かれたものです。中には伝えたいことがあまりに多くて、この続きはまた、という項目もありました。そして夢をもって国の制度設計に関わってきたのにどんでん返しのような結末になったという痛恨の想いもひしひしと伝わってきました。
タンタンでは、1994年2月、立派な建物になったばかりの相楽作業所にうかがったことがあります。廣瀬先生は当時、補助金だけではきちんとした建物ができないと自己資金と借入金でなんと1億円以上の予算をだされたのでした。当時は30人の利用者がおられてその親の会が3000万円を出資、その熱意にこたえて行政も3000万円の追加補助をしてやっと完成したのが当時の建物だったのでした。やるときは立派なものを、いい加減な妥協はしない、しばしば過激とも評された先生の姿勢は、いつも関係者の「憧れ」でした。そしてその姿勢は、京都の福祉のいくつかの団体や個人にしっかり受け継がれてきたと思います。
この本で、先生は国の制度設計に関わった自分を必要以上に責めておられる気がします。しかし今では誰も山の中の施設に閉じこめられることを普通だとは思っていません。先生の目指したそういう時代がちゃんとやってきました。ただ、「福祉サービス」のコーディネートだけで人の生活が成立するわけではないというのは、今まさに必要な視点だと感じました。先生の根本姿勢はやはりグループホームの同居人の目です。その人の日々の唇の色を誰が確実に見つめ、その表情から誰が「思い」を受け止めていくのか、切り売りされた「福祉サービス」のみでは、人の命と全存在を支えあうことにはならないのではないか、というのが先生の主張です。
あとがきでは、人と人が出会い「生活のしづらさ」をともに変えていこうとするとき、技能や科学的理解は必要かもしれない。しかしその技能も科学も根底となる「思い」あるいは「哲学」を失えば、かえって危険なものになりかねないと警鐘を鳴らしておられます。傍にいる利用者が安心して元気が漲るような関係をどうやって築いていくのか、不断の振り返りの中で「思い」や「哲学」を見つけていって欲しいと願っておられます。ご一読をおすすめします。 (谷内)
〈 Sプランニング 申込み専用FAX03-3766-1646 本は税込1260円 〉