田中康雄先生の『支援から共生への道』(慶応義塾大学出版2009年)を読んだ。
2008年の6月と11月、田中氏の講演会で話を聞き、すっかりフアンになってしまったが、この本もそのときの思いをよみがえらせてくれるものであった。
ここには精神科の医師となり日々歩んできた中で感じたことがとても正直に書かれている。それだけに、まっすぐに言葉が届く。
医師に成り立ての頃、どうにも対処できない夫婦の問題を聞き続けたあと、「良いお医者さんを紹介できればいいのですがー」と発言し同席していた親族達を唖然とさせたという失敗談や、入院患者の高校生に聞かれるまま自分の高校時代のいじめ体験を語ったところ、それまで人知れず苦しんできたいじめのフラッシュバックが消滅したという告白、さらには、自分自身の子どもの体調が悪い時には、一個人に戻って「早くお医者さんにみてもらおう」とおろおろする等の発言は、本当に正直すぎてびっくりするエピソードだ。
そんな素人みたいな若い医師であった頃、いじめ体験の消滅の経験から、支援とは相互に入れ替わりながら、支えあうことではないだろうかと実感したと述べ、またどうしても対処できなかった患者さんへの対応の中で、一人ではできないことも多くのネットワークがあれば、人を頼り、人につなげていくことで共に支えあっていけるのではないかと、理解していく。
今、子どもを診る医師となり、就学相談の乱暴なシステムを目の当たりにして以来、診断を下した子どもと家族にはその後の対応を約束し、学校訪問や面談を続けていくことに徹している。
子ども達が学校や家庭で生きていくことを支えるために、そして、親が一生懸命に努力している姿を支えるために、立場の異なる人と繋がることを大事にする。
強靱な精神力を感じさせるのは、その立場の異なる人との繋がり方である。立場の異なる人は自分とは異なるものさしを持っている。できるだけ自分とは違う別のものさしを持っている人と手をつなぎたい。それぞれのものさしには優劣はなく、ただ多彩であるという事実と、それぞれの良さに注目したい。そしてそれと同時に自分のものさしを大切にすることも忘れないようにしたい、と述べている。
また、子どもと家族への目は優しく、暖かい。診断名よりも大切なことは、その子どもを丸ごと受け止めることであり、両親には「自閉症の成長や変化ではなくて○○君の育ちに付き合って欲しい、ご両親の元に生まれ○○くんと名付けられたかけがえのない存在であるということがもっとも大切なことですから」と語りかけるのだ。
講演会でも同じように感じたのだが、この本からはまた、どんな立場の人でも、それぞれの立場で繋がりながら、かけがえのない○○くんと一緒に生きていくことを喜び合える、という強いメッセージを感じることができ、ほっと癒される気がした。
(この本は京都市図書館にあります。)
(谷内)