『旦那さんはアスペルガー 奥さんはカサンドラ』野波ツナ著
(コスミック出版)
今人気のコミック「旦那さんはアスペルガー」シリーズ。図書館でも予約待ちの状態です。5冊目のこの本タイトルには新しい症状名「カサンドラ」がありました。
「カサンドラ」とは何でしょうか。
一般的に言って、アスペルガー症候群の人たちは、目に見えない他者の労苦(家庭で小さな子どもを育てている妻の苦労等)を理解することが苦手です。またしばしば身勝手この上ない考えを真っ正直に相手に伝えてしまいます。推し量ってほしい、思いやってほしいパートナーからみれば、つらい相手となってしまうのです。アスペルガー症候群の夫(妻)をもった妻(夫)は、コミュニケーションがうまくいかず、その葛藤や徒労感から自信を失い、しばしば残酷な状況の中で精神症状、身体的症状を呈します。
しかしアスペルガー症候群の夫の多くは、世間的には何ら問題のない理想的な夫にみえるため、他者から妻の苦痛を信じてもらうことができません。2003年、イギリスの心理学者がその苦悩や症状を「カサンドラ症候群」(カサンドラ情動剥奪障害)として発表しました。ギリシャ神話に登場するカサンドラは、予知能力がありトロイアの滅亡を予見するのですが、アポロンの呪いによって誰にも信じてもらえず苦悩したとされ、その立場が妻たちの立場に似ているとしてこう名付けられたのだそうです。
解説を担当している臨床心理士の滝口のぞみ氏によれば、夫婦の収入額の差や、子どもの出現によってそれまでの恋人関係が変わること、等が、アスペルガー症候群のパートナーを横暴な夫に変身させてしまうことがあるそうです。でもある意味、これらはどの家庭でも起こりうるものなので、この本を読むと「うちもこれかもしれない」って思う人が多いかもしれません。
本当の「カサンドラ症候群」の人たちがつらいのは、アスペルガー症候群のパートナーの(悪気のない)自己中心的な考え方であり、容易に変わることのないこだわりやルールへの絶望感なのだろうと思います。特にこのコミックの主人公のように、夫による多額の借金と一家離散など辛いことが加われば、本当に大変だろうと思います。
もちろん誰もが「カサンドラ症候群」になるわけではないですし、むしろあっさりとしたいい関係のカップルも少なくありません。たとえこじれても、互いに変わることも全く不可能とは思えません。また、何もかもを「アスペルガー症候群」のせいにしたり、敵視するのも間違いでしょう。でも今辛い思いをしている妻達の場合、その実態を知らない人々からの非難は、カサンドラのように妻たちをより辛い立場に追い込み、集団でのいじめになる可能性もあります。その点だけは、肝に銘じておかなくては、と思いました。
(谷内)