第10章 水リスクツールのこれから
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10.0 概要
H08水リスクツールは環境研究総合推進費2RF-1802(平成30年度~令和2年度)プロジェクトで開発されました。プロジェクトは終了しましたが、ツールの改良は今後も継続する予定です。
かつて、世界の水逼迫はニッチな地球環境問題でしたが、パリ協定に掲げられた気候目標や持続可能な開発目標(SDGs)が広く浸透した現代において、企業の水リスク評価は定着し、高度化していくと考えられます。
10.1 H08水リスクツールのこれから
H08水リスクツールは環境研究総合推進費2RF-1802(平成30年度~令和2年度)プロジェクトで開発されました。プロジェクトは終了しましたが、以下の方針で、ツールの改良を継続します。
ツールは研究室のサーバ上で、少人数で開発されてきました。この体制を維持することで、改良や拡張を継続します。専門業者に外注できれば、ソースコードのセキュリティ向上や機能の大幅な拡張を実現できますが、往々にしてその後も外注し続けない限り、維持さえ難しくなります。こうした考えから、少なくとも現在のような開発・拡張の段階では、研究室で閉じる開発環境を維持しようと思います。
データを作り出す全球水資源モデルH08の開発と応用は、今後も精力的に継続します。H08は最初の論文公開から10年以上が経過しましたが、未だに拡大・拡張を続けています。それを測る一つの目安が、出版される論文数と被引用件数です。私のPublonsやGoogle Scholarをご覧いただくと私の関わった論文の数とそれぞれの被引用件数が表示されます。世界の多くの研究者と論文を書き、世界の多くの研究者から論文が引用されています。私の関わる研究のおそらく9割はH08の開発・応用・解析に関するもので、2つのサイトに示されるのはほぼH08の活動量・インパクトと考えることができます。今後も、拡大と拡張を続けられるよう、精一杯研究していきます。
10.2 H08水リスクツールの課題
H08水リスクツールの開発にあたり、国内7社のCDP Water調査の担当者様にヒアリングを行いました。その際に頂いたご要望は以下の8つに大別されます。これらが、H08水リスクツールに残された課題と言えます。
ツールの拡張に関するもの
より具体的な利用手順を提示してほしい:何を、どの順番で見ていけば、CDP Water調査などへの回答に有用な知見が得られるのか?一つ一つの結果をどう解釈すればよいのか?
操作性をさらに改善してほしい:数百の拠点の一括処理を行いたい。画像ではなく、数値データが一括して欲しい。
データの拡張に関するもの
高解像度化してほしい:0.5度=50kmでは粗すぎる。特に日本国内の解像度だけでも上げられないか?
水質の情報を提供してほしい
データベース(モデルの計算結果でなく、観測・統計に基づく情報)の提供に関するもの
国内外の水利用情報を提供してほしい
国内外の渇水(洪水)発生の履歴情報を提供してほしい
体制・実績に関するもの
ツールを長期間、維持管理してほしい:データが更新されなくなると困る。
ツールとモデルにお墨付きがほしい:株主への説明責任があり、利用する根拠の乏しいものは使いづらい。
どれも困難な課題で、すぐには解決できませんが、常に心にとめ、協力者を探しながら、一つずつ解決していきます。
10.3 水リスク評価のこれから
かつて、世界の水逼迫はニッチな地球環境問題でした。ところが、パリ協定に掲げられた気候目標や持続可能な開発目標(SDGs)が広く浸透する現代において、世界の水逼迫は注目・解決すべき問題として、認識が高まっていくと考えられます。その中で、企業の水リスク評価も定着していくのではないかと思います。
ただし、水逼迫は単純な水利用量削減の問題ではありません。「水利用を減らせば水逼迫の解決につながる」という主張は基本的に正しいですが、その延長線上で「イネよりトウモロコシなどの方が栽培に必要な水が少ないから好ましい」と主張する人がいたりします。この主張は砂漠の環境では正しいものの、洪水時の水利用・土地利用が必要なアジアなどの湿潤な環境ではむしろ間違っています。地域ごとに水環境と水利用は大きく異なるので、何が問題で、何か解決になるのか、よく考える必要があります。本質的で、地域に根差した、的確な水リスク評価が求められていくでしょう。
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