求職活動

研究者の求職活動については、研究実施や論文執筆にもまして、一般的なアドバイスがしにくいものです。ただ、特に外国籍の方が日本の研究職を探すにあたり、とりわけ苦労されているのを目にすると、ごく一般的なことでもまとめておくことに意味があるのではないかと考えました。以下は、彼らから相談を受けたときに、私がお伝えしたことです。

大前提

  • 公募の文章をよく読む:公募の文章を読まずに、いきなり、提出資料を作成する人がいますがやめましょう。採用者は、応募してほしい人を想像しながら、公募の文章を作成しています。よく読み、特に要件などは見落とさないようにしましょう。

  • 採用者についてよく勉強する:採用者(組織)のお仕事を知らずに、よい提案はできません。ホームページなどをよく見て、どういう研究・教育活動をされているか勉強しましょう。

履歴書

履歴書(CV)は最も多くの方の目に留まります。日本語と英語で書く内容や順序などがかなり異るので、標準的な様式に沿ったうえ、フォントやレイアウトにも気を配り、美しく作成しましょう。

研究実績

研究職への応募にあたり、ほぼ必ず提出を求められるのは、研究実績(これまでの研究のまとめ)です。このとき、ただ、これまで実施してきた論文の要旨を述べただけでは、他の候補者たちと差別化できません。私がこれまでポスドクの応募書類をたくさん見て来て、印象に残りやすい書き方のポイントを挙げると以下のようになります。

  • 研究をグルーピングする:これまでの研究を2~3のテーマにまとめましょう。それぞれのテーマに対して、これまでに何をしてきたのかが分かりやすくなります。

  • まず研究テーマを示す:採用者はあなたがこれまでに書いた論文の中身が知りたいわけではありません。あくまで、研究をした人と、研究テーマ(知的なゴール)が知りたいのです。まずは、何をテーマとして設定したか、なぜ関心を持ったのか、そしてどのようにアプローチしてきたか書くとよいでしょう。

  • 論文紹介では研究の背景と目的を書く:最も簡潔で分かりやすい研究のまとめはNatureのアブストラクトだと思われます。Natureのアブストラクトは必ず、1文ずつの背景と目的から始まっています。研究の新規性や重要性(significance)は背景と目的がなければ分からないので、必ず書きましょう。

  • 論文紹介では研究の新規性と重要性を書く:採用には多くの人が関わりますが、ほとんどは専門が異なるため、数行読んだだけで研究の新規性や重要性が分かりません。「初めて〇〇した」「〇〇につながった」など、新規性や重要性を具体的に書くようにしましょう。

  • 簡潔に完結させる:研究業績(これまでの研究のまとめ)は1~2ページしか書けないことがほとんどです。このとき、あれもこれもと詰め込んで、ぎっちり書いても、伝わりません。また、細かい結果(得られた値など)を示しても、実験の条件までは示せないので、伝わりません。1~2ページの中で文章を完結させるため、簡潔に書きましょう。

研究計画

研究職への応募にあたり、研究計画はほぼ必ず提出を求められます。ここは、プロジェクト付ポスドクの場合と、自由度の高いポスドクならびに助教・研究員以上とで、書くことを変えた方がよいでしょう。

まず、プロジェクト付ポスドクというのは、大型研究プロジェクトで雇用されるポスドクのことです。この場合、だいたい研究内容は決まっているため、応募者に大きな自由度がありません。プロジェクトへの理解を示したのち、こういうことに貢献できそうだ、と書くとうまくまとまると思います。

次に、自由度の高いポスドクというのは、日本学術振興会の特別研究員や外国人特別研究員などのことです。提案内容に枠がないので、自由に記述できます。助教・研究員以上も、分野の枠はありますが、その中では大きな自由度があります。私自身、こうした採用に関する経験がほとんどないのですが、おそらく、こうすると説得力のある提案になるでしょう。

  • 研究テーマを一つに絞り、名前を付ける:あれもこれもと書くよりは、壮大な一つのテーマを書いた方が印象に残ります。また、独立した研究室を持てるなら、研究室の名前も考えてみましょう。

  • 研究テーマの背景と目的を書く:大きな研究テーマには、大きな課題と、成功した時の大きな果実があるはずです。それらをきちんと伝えましょう。

  • 国内外の研究事情と自分の強みを書く:助教・研究員以上となると、研究者として独り立ちすることはもちろん、ゆくゆくは、競争に勝って大きな研究費を取ったり、学会や業界をリードしたりすることが求められます。あなたが研究テーマに取り組んで、国内外で優位性を持てるのか、シビアに問われます。研究を取り巻く事情についてもきちんと分析し、自分の強みが何かを述べましょう。

  • 研究計画は過去の業績を元に、具体的に書く:大きな研究テーマを立てなければならないと気負ってしまい、これまでやったことのない全く新しい研究計画を書く人がいますが、それでは全く説得力がありません。説得力を持つのはあなたが過去に成し遂げた成功だけ。過去の業績を出発点とした計画としましょう。どうしても新しいことに取り組みたい場合は、着想に至った経緯と確かな勝算があることを示しましょう。

  • 採用者の関心や事情に寄り添う:どんなにあなたが素晴らしく、研究テーマが優れていても、採用者の事情を無視してしまっては採用に至りません。例えば、地域の問題を重視する研究機関に、世界の問題の解決を訴えても響きません。採用者の関心や事情を正確に言いあてるのは不可能ですが、冒頭に述べた通り、相手をよく理解し、歩み寄る姿勢があることを示すのが重要です。

教育への抱負

大学等の教育機関では必ず提出が求められますが、私は教育に携わったことがないため、全くアドバイスすることができません。ただ、想像するところ、日本の大学において対応しなければならない課題には次のようなものがありそうです。

  • 就職への対応:現実問題として、学業よりも就職が大事、というのがほとんどの学生さんにとっての本音でしょう。就職活動の成功を支援しつつ、どうやって学業にも関心を振り向かせるか。

  • 多様性への対応:特に環境学の場合、理系と文系の境界はますますあいまいになっています。また、入試も現在は様々な形態があると聞いています。「ここまではみんな分かる・できる」という共通項が減る中、どうやって学生さん一人一人に向き合い、それぞれの夢の実現を支援できるか。

  • 少子化への対応:この先もずっと、日本の18歳人口は減少していきます。そういう状況にあって、どうやって学生さんを引き付け続けられるか。