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バイオエネルギー生産と水利用の関係について研究を始めるにあたり、関連論文をまとめようとしてこのページを開設しました。その後、ご縁があってポツダム気候影響研究所のFabian StenzelさんとDieter Gertenさんと一緒にレビュー論文として以下のようにまとめることができました。
Stenzel, F., Gerten, D., and Hanasaki, N.: Global scenarios of irrigation water abstractions for bioenergy production: a systematic review, Hydrol. Earth Syst. Sci., 25, 1711-1726, 10.5194/hess-25-1711-2021, 2021.
レビュー
Bonsch et al. (2014)
バイオ燃料生産に伴う土地と水の競合を扱ったPIKグループの論文。利用したモデルはLPJMLとMAgPIE。エネルギーセクターの排出を1100Gt CO2 eqに抑制し、2095年に300EJ/yrのバイオ燃料生産をすることを想定し、灌漑してバイオ燃料生産する場合としない場合を比較した。灌漑する場合、現在の食料生産用と同じくらいの量(2095年に約3000km3/yr、バイオ燃料用農地は486x106ha)の水が必要になる。灌漑しない場合、バイオ燃料用の農地が41%追加的に必要(2095年に689x106ha)になる。
Chaturvedi et al. (2015)
Wise et al. (2009)による炭素税とバイオ燃料の生産の関係において、水利用の観点から考察したPNNL/Edmondsグループの論文。利用したモデルはGCAM-GWAM。3つの安定化シナリオと2つの炭素税政策(全ての炭素排出に課税するUCTか化石燃料由来の排出のみに課税するFFICTか)を比較することによって、それぞれどれだけ水の利用が増えるか調べた。気候政策がない場合でも人口増加や経済発展により農業水利用は現在の2倍になる(2095年に約5000km3/yr、バイオ燃料用農地は378x106ha)。農業水利用はFFICTで気温上昇を強く抑制した場合最大になり、現在の約4倍(9379km3/yr)になる。
バイオ燃料の灌漑水量は単位当たりの生産に必要な水(いわゆる仮想水原単位:VWC)から求めている。バイオ燃料のVWCはどうも期間・全球一律に25km3/EJとしたようだが、そこからグリッドごとに天水と灌漑に分割する方法が私にはわからなかった。
Hejazi et al. (2014)
出版された時期が前後するものの、Chaturvedi et al. (2015)を発展させたPNNL/Edmondsグループの論文。Chaturvedi et al. (2015)は農業用水だけを扱ったが、この論文では基礎的な水収支モデル、工業・家庭用水も加えられ、標準的な21世紀の全球水資源評価が実施されている。利用した基準シナリオはSRES A1FI (放射強制力8.8W/m2相当)。ここからChaturvedi et al. (2015)でも利用されたUCTとFFICTの炭素税によって7.7, 5.5, 4.2W/m2相当にまで排出削減した際の水利用を検討している。
FFICTで大きな排出削減を行うと、炭素税がかからないという観点から相対的に安価になるバイオ燃料が大量に導入されることになり、水利用が激増する。シナリオの組み合わせ上、最も水利用が大きくなるのはFFFICTで4.2W/m2まで下げる場合だが、必要なバイオ燃料の灌漑水量は2095年に14,000km3/yr(現在の世界の総水利用量の3.5倍)に達する。これはPostel et al. (1996)の古典的な世界の水利用可能量12,500km3/yrをも上回り、非常に「極端」な値だと言える。なお、他に「極端」な値になるのはFFICT 5.5W/m2である。それ以外は2,000km3/yr未満となり、Bonsch et al. (2014)とも似たようなオーダーになる。
Hejazi et al. (2015)
緩和策によって水ストレスが減る(水資源に対する温暖化の悪影響が減る)効果と、緩和策によって水需要が増え、水ストレスが増える効果を比較した、気候・エネルギー・水のnexus研究。アメリカを対象にモデルシミュレーションしたところ、緩和策をとることにより、むしろ水ストレスが増大するという結果が得られた。
基準シナリオはRCP8.5、政策シナリオはRCP4.5。
文献
Bonsch, M., F. Humpenöder, A. Popp, B. Bodirsky, J. P. Dietrich, S. Rolinski, A. Biewald, H. Lotze-Campen, I. Weindl, D. Gerten, and M. Stevanovic (2014), Trade-offs between land and water requirements for large-scale bioenergy production, GCB Bioenergy, n/a-n/a.
Chaturvedi, V., M. Hejazi, J. Edmonds, L. Clarke, P. Kyle, E. Davies, and M. Wise (2015), Climate mitigation policy implications for global irrigation water demand, Mitig Adapt Strateg Glob Change, 20(3), 389-407.
Hejazi, M. I., J. Edmonds, L. Clarke, P. Kyle, E. Davies, V. Chaturvedi, M. Wise, P. Patel, J. Eom, and K. Calvin (2014), Integrated assessment of global water scarcity over the 21st century under multiple climate change mitigation policies, Hydrol. Earth Syst. Sci., 18(8), 2859-2883.
Hejazi, M. I., N. Voisin, L. Liu, L. M. Bramer, D. C. Fortin, J. E. Hathaway, M. Huang, P. Kyle, L. R. Leung, H.-Y. Li, Y. Liu, P. L. Patel, T. C. Pulsipher, J. S. Rice, T. K. Tesfa, C. R. Vernon, and Y. Zhou (2015), 21st century United States emissions mitigation could increase water stress more than the climate change it is mitigating, P. Natl. Acad. Sci. USA.
参考文献
Postel, S. L., G. C. Daily, and P. R. Ehrlich (1996), Human appropriation of renewable fresh water, Science, 271(5250), 785-788.
Wise, M., K. Calvin, A. Thomson, L. Clarke, B. Bond-Lamberty, R. Sands, S. J. Smith, A. Janetos, and J. Edmonds (2009), Implications of Limiting CO2 Concentrations for Land Use and Energy, Science, 324(5931), 1183-1186.