第26回日本産業精神保健学会 精神保健福祉士部会 活動報告
●精神保健福祉士部会企画のシンポジウム「障がい者雇用と合理的配慮をコミュニティの視点で考える」
日本産業精神保健学会精神保健福祉士部会の企画として、8月31日(土)精神保健福祉士部会シンポジウム「障がい者雇用と合理的配慮をコミュニティの視点で考える」と題して、下記シンポジストをお招きし、シンポジウムを行いました。会場には多くの方々に来場いただきました。以下各シンポジストの発表内容の概要です。
1.「障碍者雇用の労働における合理的配慮のバランス」秋葉原社会保険労務士事務所代表 脊尾 大雅
合理的配慮が過少でも過剰でもなく適切に行われることが必要であり、そのためには企業も本人も適切な意見や考えの表明ややりとりが必要であること。特に昨今留意が必要なのは、本人意向を先回りしすぎたり、システム優先の形式的思考から結果的に本人の可能性を削ぐ過剰配慮に陥ることの危険性には留意が必要。
また、合理的配慮の具現化のひとつとして「長屋プロジェクト」を提案したい。困った人が困ったときに必要な支援を「隣の長屋にお醤油を借りる」ような発想で実現する考え方や、仕組みの在り方の意義を伝えたい。
2.「合理的配慮のための包摂的なシステム」産業医科大学産業生態科学研究所精神保健学研究室助教 真船 浩介
合理的配慮は、不履行すれば差別であり、当事者の権利擁護、能力の発揮の促進として実質的なシステムが持続可能でなければならない。ともすると、合理的配慮は支援者・関係者の個人的な技能や理解に依拠してしまうが、持続可能運用のためには、方針や体制、規定、を理解し、啓発・育成・評価・監査・改善のサイクルを組み立てていくことが重要。
かつ、属人的になる恐れもある者の評価・助言・調整技能に関するコンピテンスも必要である。
3.「障害者雇用と職場の合理的配慮を社内事例から考える」(株)スタッフサービス・ビジネスサポート健康管理室 岸田 好之
スタッフサービスビジネスサポートはスタッフサービスグループの特例子会社である。会社概要、健康管理室機能の紹介。合理的配慮をめぐっての現場の葛藤がある。たとえば、職場に声の大きい人がいてそれがストレスと感じる社員の場合、離れた席や耳栓を勧めても、耳栓は聞こえなさすぎるとか自分だけ目立つなどの理由で拒否し、結果的に退職を選択されたケースがあった。また別のケースでは、イヤーマフを利用することになったが、音楽を流したい本人の意向があり、本人は私的に音楽を楽しむなどの目的ではなく、上手に意識を集中するためだとしても、会社側は否定的な見解だったケース、などを出され、本人の意向と会社の秩序などの調整をどのようにしていくのか、何をどのように「合理的」とするのかの難しさがある。
4.「職場で対話を活用する 産業でのオープンダイアローグの可能性」(株)ジャパンEAPシステムズ顧問医 米沢 宏
オープンダイヤログ(OD)の紹介。斎藤環先生との縁でこの方法を初めて知った時には懐疑的であったものの、薬に依拠しない治療成績研究などをみるにあたって、その有効性と実践に関心を寄せている。この手法は、職場でもつかえるのではないかと考えている。問題の起ったのも職場であるなら、その解決法のバリエーションも職場が一番持っているはずであり、本人を含む関係者が一堂に会して話し合うことが有効なのではないか。ODの重要な要素は様々だが、特にリフレクティングという手法を用いることで、相手の立場が理解できたり自分が大事にされているという感覚を持てることで、非常に話し合いが有効になると感じている。産業現場での活用の可能性についても今後期待したい。
●日本産業精神保健学会第26回大会 第7回精神保健福祉士部会
8月31日(土)12:00-13:00 第8会場(4号館2階4206)にて開催
18名の方にお集まりいただきました。前年度の活動報告の概要や、PSW協会における産業保健分野を巡る最近のトピック紹介(専門研修報告・業務指針産業領域・PSW英語名称の変更)、参加者全員の自己紹介(最近の関心ごと)、産業保健領域におけるPSWが様々な立場での業務や関心ごとを共有し、PSWとしての結束がはかれた会となりました。
部会の様子