※このページの情報は,日本認知科学会に研究分科会の設立を届け出た時点(2014年5月13日)のものです.
研究分科会「間合いー時空間インタラクション」設立趣意書
1. 趣旨
間合いは日常生活に溢れている.例えば,対戦型のスポーツ(野球,サッカー,柔道,剣道,空手,柔術など),コミュニケーション(会話,プレゼンテーション,交渉など),舞台演技,楽器演奏,介護・看護の場においては,適切な間合いをつくりだすことが求められる.間合いは,時間の流れのなかで,空間的な位置関係に立脚して,絶え間なく生起するインタラクティブな現象であると考えられる.認知科学はひとが暗黙的に了解しつくりだすモノゴトの秩序を解明し構成方法論を探る学問分野であるが,いまだかつて間合いの問題に正面から探究のメスを入れたことはない.間合いという現象に着眼することを介して,ひとの知性を深く探究する分科会として,本会を立ち上げたい.
間合いということばは,「自分の間合いをつくりだす」というフレーズで使われることが多い.それはどういう行為であろうか? 真相は未解明ではあるが,現時点でのわれわれの解釈を挙げておく.「自分の間合いをつくりだす」とは,リアルタイムに生起する相手の身体状態の何かに着眼し,そこから相手の意図や精神状態を読み取り,自分の身体状態や意図・精神状態をリアルタイムにつくりあげ,それを相手にどう見せるかを決めることを通じて,相手よりも自分が身体交渉的にも精神的にも優位に立つ,もしくは自分にとって心地よい関係性をつくりだすことであろう.複数人が対峙するときに,ひとりが自分の間合いをつくりだすと,他のひとは自分の間合いを形成できないのか,それとも複数人の「自分の間合い」は同時に存立できるのか?対戦型のスポーツ,コミュニケーション,その他の問題領域ではそれが異なるのか? 興味深い様々な問いが立つ.
間合いという暗黙的な知性に探究のメスを入れるためには,認知科学,人工知能など,ひとの知性に関する数多くの研究資源を持ち込む必要がある.まずコミュニケーション研究,身体知研究はその代表格であろう.コミュニケーション研究は,会話の秩序を解明することに端を発し,最近ではより暗黙的な「身体動作も含めたやりとり」の解明に乗り出している.身体知研究は,スポーツ科学で進めてきたようなモノとしての身体の分析だけでは不十分であるという意識に基づき,からだと自覚的意識(ことばと言い換えてもよい)の相互循環の様相の探究に乗り出している.「自分の間合いをつくりだす」という現象の本質が,相手と自分のからだや意図・精神状態のあいだの関係性がリアルタイムに生起と消失を繰り返すことにあるとするならば,コミュニケーション及び身体知の分野で醸成してきた知見や問題意識をフィードすることは探究の糸口になる.更に,相手を含む環境に何らかの着眼を得て身体を整合させる(リアルタイムにその場で新しい関係性を創り上げる)という意味合いにおいて共創やアフォーダンスの概念とは関連が深いはずである.これらの境界領域的な知見を総動員して,間合いの研究に道筋を見出したい.
間合いの探究にはどのような研究方法論が必要かも精査する必要がある.間合いの現場は日常生活に溢れていると上述したが,何よりも自然な状況での自発的な動作を探究対象とすることが不可欠であると考えられるため,実験室を飛び出しフィールドに出る「現場研究」が必須であろう.ひとがからだで暗黙的に了解する現象であるだけに,間合いが生起する様々なシーンの例題を拾い集めることは簡単ではない.間合いの生起や消失が時間的にほんの一瞬の出来事であろうことも難しさを倍増させる.しかし現場で生じているリアルな間合いの例題を集め,分析することでしか,間合いの時間的空間的インタラクションの様相は探究できないであろう.
現場研究であること,客観的に観察可能なモノとしての身体だけではなく,意図や精神的状態をも扱わざるを得ない問題領域であることを鑑みると,「間合い」の研究には,従来の「科学」の枠組みを拡張して臨む必要もあるだろう.つまり,客観性や普遍性を無自覚に遵守する研究方法論では立ち行かない.内部観測という概念に基づき,主観的なデータや一人称的な事象をも許容し,リアルな現場で生起する実現象を分析する新しい科学的方法論が必要になろう.間合いの時空間インタラクションの研究の進展が,方法論構築への足がかりになることも期待する.
2. 活動計画
年2回の研究分科会を開催し,一般公募による研究発表セッション,及び企画セッション(講演者招待)からなるものとする.2015年度からは,認知科学会大会でのワークショップも基本的に毎年テーマを特定して企画し,この境界領域的研究の周知を図る.
予算は,認知科学会からの支給分を収入とし,分科会会場費,印刷費,招待講演者の謝金などに充てる.
3. 主査,幹事,事務局の氏名
主査
諏訪正樹(慶應義塾大学)
幹事
伝康晴(千葉大学)
高梨克也(京都大学)
郡司ペギオ幸夫(早稲田大学)
三宅美博(東京工業大学)
日高昇平(北陸先端大学院大学)
事務局
西山武繁(慶應SFC研究所上席所員)
252-0882 神奈川県藤沢市遠藤5322
慶應義塾大学環境情報学部・諏訪研究室内
4. 発起人氏名とその専門分野
伊藤毅志(電気通信大学):ゲーム情報学
榎本美香(東京工科大学):言語心理学
岡田猛(東京大学):認知科学(芸術表現)
岡本雅史(立命館大学):認知言語学
奥野敬丞(九州先端科学技術研究所):サービス工学
加藤貴昭(慶應大学):スポーツ心理学
河合桃代(帝京平成大学):成人看護学
清河幸子(名古屋大学):認知心理学
郡司ペギオ幸夫(早稲田大学):理論生命科学
坂井田瑠衣(慶應大学):コミュニケーション科学
阪田真己子(同志社大学):認知科学(身体メディア)
城綾実(国立情報学研究所):コミュニケーション学
諏訪さゆり(千葉大学):老年看護学
諏訪正樹(慶應大学):認知科学(身体知学習)
関根和生(ウォーイック大学):発達心理学
高梨克也(京都大学):コミュニケーション科学
伝康晴(千葉大学):コーパス言語学
西山武繁(慶應SFC研究所):スキルサイエンス
橋詰謙(大阪大学):スポーツ科学
日高昇平(北陸先端大学院大学):認知発達、機械学習、時系列解析
藤井晴行(東京工業大学):建築学
藤波努(北陸先端大学院大学):スキルサイエンス
古川康一(嘉悦大学):スキルサイエンス
古山宣洋(早稲田大学):認知科学(生態心理学・社会文化心理学)
細馬宏通(滋賀県立大学):人間行動学
坊農真弓(国立情報学研究所):コミュニケーション科学
松野孝一郎(長岡技術科学大学):生物物理
松原仁(公立はこだて未来大学):人工知能
松原正樹(筑波大学):音楽情報処理
三宅美博(東京工業大学):共創システム
三輪敬之(早稲田大学):共創システム
山本裕二(名古屋大学):スポーツ心理学
山田雅之(日本教育大学院大学):学習科学
50音順(33名)
(届け出日:2014年5月13日)