第13回研究会

第13回研究会では,「声の間合いと身体性」というテーマを設け,細馬宏通氏(滋賀県立大学),花村俊吉氏(京都大学)の2名に招待講演をお願いしました.さらに,指定討論者として菅原和孝氏(京都大学名誉教授)をお招きしました.


  • テーマ趣旨

これまでの間合い研では,視覚的あるいは触覚的なやりとりが鍵となって間合いが形成される事例を数多く取り上げてきた.他方,当然ながら声のやりとりによって間合いが形成される場面も多くある.音声会話においてはもちろんであるが,共同作業やゲームにおける掛け声,歌の掛け合い,合唱,動物の鳴き交わしなどでは,声が決定的に重要となる.
さらに本企画では,声が人や動物の身体から発せられ,他個体の身体によって受け取られるメディアであるという性質にも注目したい.多くのコミュニケーション研究では,音声と対比する形で身体が位置づけられており,そこでは声の身体性は見逃されがちである.しかし,声は複雑な身体的調整の結果として発せられるものであり,他個体の身体的な(おもに聴覚的な)注意が向くことで初めて受け取られるものである.その際,声は遠距離まで届けることもできる一方,指向性が弱く拡散しやすい,といった聴覚的メディアとしての特性も,やりとりの様相に影響を与えているはずである.

本企画では,あらゆる音声的コミュニケーションの基盤となっている声にあえて焦点化し,声が生み出す多様な間合いとその身体性について議論したい.

(企画者:坂井田瑠衣(国立情報学研究所))

  • 日程

2019年3月2日(土)11:00-18:00

  • 場所

京都大学吉田キャンパス総合研究7号館 情報1講義室(1階 107)

  • テーマ

「声の間合いと身体性」および一般

  • 招待講演者

    • 細馬宏通氏(滋賀県立大学)

    • 花村俊吉氏(京都大学)

  • 指定討論者

    • 菅原和孝氏(京都大学名誉教授)

  • プログラム

11:00-12:20 一般セッション

11:00-11:40

「スポーツのテレビ実況における質問ー応答連鎖に対する分析」(発表原稿PDF)

劉礫岩(情報通信研究機構)

言語コミュニケーションにおいて、発話は単にその内容と置かれた局所的な文脈だけでなく、物理環境内の状況を参照して理解されることがしばしばある。では、参照される物理環境内の状況が時間とともに変化する場合、我々はどのように発話を行い、ことばと変化する状況とを結びつけるのだろうか。本発表では,スポーツのテレビ実況放送におけるアナウンサーと解説者のやりとりをデータに、この問題を検討する。番組において、アナウンサーが刻一刻変化する映像内の競技を対象に、解説者に質問することがしばしばある。それに対して、解説者は競技の専門家として期待される一方で、常に確たる意見を持っているとは限らない。では、両者はどのようにこのジレンマに対処するのだろうか。また、このやりとりは単に質問→応答で終了するのではなく、解説者の応答において述べた内容を手がかりに映像内の競技を見るという活動が行われることがある。この活動を相互行為的な視点から分析する。

11:40-12:20

「討論を通じた学習における発言の流動性と参加者の間合い」(発表原稿PDF)

木下まゆみ(高崎経済大学)

学びの場面で行われる集団討論は、参加者間の知識の共有化・理解の深化を目的とする。しかし、発言の停滞や発言者の固定によって、一定の成果が得られない場合も多い。こうした難しさを乗り越えるには、発言者の移り変わりが円滑に行われる、つまり発言の流動性が高い必要がある。そこには、発言を引き受ける手がかりとして、話し手と聞き手の身体的な「間合い」の存在が推測される。そこで、複数の集団討論について、発言の流動性の程度を検討し、高い流動性を可能にする「間合い」を探ることで、良き討論のあり様に迫りたい。

13:20-18:00 テーマセッション「声の間合いと身体性」

13:20-14:00

「発声の間合いがつなぐ声の主」(発表原稿PDF)

佐野奈緒子(東京電機大学),土田義郎(金沢工業大学),秋田剛(東京電機大学)

カクテルパーティー効果に見られるように、多様な環境音声の中からコミュニケーション対象となりうる音声を聴き分けるには、どのような手がかり情報が機能しているのだろうか。本報告では発声の間合いに注目し、音環境下で自己発声に対し追随して生じる音声への注意や、異なる対人距離での発声のテンポについての実験結果から、環境音声に対する選択的注意を生む手がかり情報について考察する。

14:00-14:40

「話し合いで話し手/聞き手になるための声の間合い ~「仲間」になるまでのプロセスの分析~」(発表原稿PDF)

水上悦雄(情報通信研究機構)

「話を切り出す」「声をかける」「話してもらうように仕向ける」などの話し手としての企図と方略、およびそれに対する受け手/聞き手との相互作用について、話し合い活動のデータ分析により明らかにする。特に、大人数から少人数の話し合いグループを自律的に作るような話し合い活動において、どのように声をかけ、距離を縮め、仲間になっていくのか、というプロセスを分析することで、その声を使った間合いの詰め方について考察する。

14:50-15:50 招待講演(1)

「動作、発声、発話は共同作業にどのような間合いをもたらすか?」

細馬宏通氏(滋賀県立大学)

最近、会話分析で考えられてきた投射の問題と、発声や発話の認知の問題とを架橋するような研究が行われるようになってきた。この発表では、机運びやじゃんけん、伝統行事における運搬の観察などを例に、できごとに対する人の動作、発声、発話の遅延時間と、その遅延を補うための予測の問題とを考え合わせた上で、発声と動作を用いて共同作業がどのようにあるタイミングで行為を達成しうるのかを考察する。

16:00-17:00 招待講演(2)

「野生チンパンジーの「間合い」:長距離音声を介した非対面下の相互行為から」

花村俊吉氏(京都大学)

野生チンパンジーは,群れをつくらず,集団のメンバーがそのつど顔ぶれの異なるパーティを形成しつつ,出会いと別れを繰り返す。半径1~2kmの範囲に届くパントフートと呼ばれる長距離音声が発達しており,パーティ内の個体どうしではコーラスに,パーティ間では鳴き交わしになることがある。本発表では,とくに鳴き交わしに着目し,タンザニアのマハレM集団におけるパントフートを介したプロセス志向的な――間を詰めたり制したりするというよりかは,間を産み出したり引き延ばしたり拡散するに任せたりするような――行為接続のやり方(間のとり方)と,そこで実現される非対面下の出会いや共在のあり方について紹介し,ヒトのゴール指向的な間のとり方との比較を試みたい。

17:10-18:00 総合討論

指定討論者:菅原和孝氏(京都大学名誉教授)