第4回研究会

  • テーマ

「触覚的インタラクション」および一般

我々の日常生活では、握手に代表されるように、触覚を介した他者とのインタラクションが頻繁に行われています。しかし、対人行動における触覚の役割は視覚・聴覚に比べて見過ごされがちであり、触覚をインタラクションの観点からとらえた研究はほとんど見られません。今回の研究会は、視覚・聴覚だけでなく、触覚が重要な役割を果たす対人行動について、インタラクションの観点から迫ろうというものです。握手や抱擁、柔道や柔術などの組技系格闘技、ペアダンスや獅子舞、触診や整骨院・マッサージの治療、盲ろう者が使う指点字や触手話、動物と人や動物同士の接触行動など、日常の中に触覚的インタラクションはあふれています。これらのテーマに関して、多様なドメインや方法論による研究発表が集まりました。

  • 招待講演

    • 三輪敬之氏 (早稲田大学創造理工学部)

    • 島田将喜氏 (帝京科学大学生命環境学部)

  • 日時

2016年3月16日(水)10:00-18:20

  • 会場

国立情報学研究所19階1901~1903室

  • プログラムおよび予稿

10:00-11:10 一般セッション (1)

10:00-10:35

「リズムコントローラを用いた間合いの生成に関する研究 ―アバタ運動生成パターンのダイナミクスについて―」

板井志郎,三輪敬之 (早稲田大学)

本研究では,アバタ運動生成パターン(コントローラ入力とアバタ運動の関係)に多義性があるリズムコントローラを用いて,映像アバタを介して人間の間合いの生成について調べた.その結果,間合いを創ろうとしたり,崩そうとしたりする人間の意図が,アバタ運動生成パターンに反映され,間合いが維持されている際には,そのパターンが互いの間で合致することを示した.さらに,複数のアバタ運動生成パターンを創り出すことが,間合いの生成に関係している可能性があることを明らかにした.

10:35-11:10

「局所的論理が創発する大域的論理の特性」(予稿PDF)

澤宏司 (無所属)

大域を参照しない、徹底的な局所判断に基づく「ならば」のネットワークが示す大域的なネットワークの特性について議論する。すべての事象を参照しうる系を大域的論理、部分的にのみ言及しうる論理を局所的論理と呼ぶ場合、前者は天下り的な公理的体系とみなせるのに対して、後者は非公理的で柔軟な体系と呼べる。にもかかわらず、後者により生成されるネットワークがスモールワールド性を示すことにより、局所論理判断が論理における普遍性を導くことを示す。

11:20-12:30 テーマセッション (1)

11:20-11:55

「見えない身体を「見る」:柔術の攻防から」(予稿PDF)

伝康晴 (千葉大学)

(ブラジリアン)柔術は関節技・絞め技を中心とする組み技系格闘技である。空手やボクシングなど、相手との距離を取って戦う格闘技とは異なり、お互いの身体が密着した状態での攻防が多く、それゆえ視覚情報だけでは相手の身体の状態がわからないことが多い。そういった際に手がかりとなるのは、力覚情報である。本研究では、筆者が通っている柔術道場での乱取り場面を題材として、直接見えない相手の身体部位を、力覚を頼りにいかにして「見て」いるのかを議論する。

11:55-12:30

「触ってみる:触覚を資源とする視覚障害者と歩行訓練士の相互行為」

西澤弘行 (常磐大学),坂井田瑠衣 (慶應義塾大学),南保輔 (成城大学),佐藤貴宣 (大阪市立大学),秋谷直矩 (山口大学),吉村雅樹 ((株)グッドビレッジ)

視覚障害者が,歩行の中で触ることによりおこなっている探索・情報収集という行動には少なくとも次の3つの媒体が用いられる:白杖,足裏,手である.視覚障害者と歩行訓練士(正式名称:視覚障害生活訓練等指導者)による実際の街路での歩行訓練場面のビデオデータを用いて,視覚障害者は触ることによってどのように探索・情報収集をしているのか,そのやり方を歩行訓練士は資源としてどのように用いているのか,これらについて両者の発話を中心とする振舞いのなかに見ていく.

13:30-14:30 招待講演 (1)

「間の表現を力性から捉える ―手合わせ表現を通じて―」

三輪敬之氏 (早稲田大学創造理工学部)

互いに手と手をあわせて表現をつくりあう手合わせ表現では,表現の深化にともない,自己と他者が一つになって“わたしたちの表現”が生まれることが実践的研究から知られている.このような共創表現は,表現を通じて場が耕されていくことにより実現されると考えられるが,それと同時に,互いのあいだの時空的関係も深化していくことが予想される.以上を踏まえ,ここでは主として,一軸方向に限定した手合わせ表現計測装置により得られた共創表現の力学的特性に関する結果をもとに,間の共創を力性と関連づけて論じることにする.

14:40-15:40 招待講演 (2)

「ニホンザルのコドモ同士の取っ組み合い~遊びコミュニケーションの定量化の試み」(予稿PDF)

島田将喜氏 (帝京科学大学生命環境学部)

インタラクションとしての社会的遊びは、取っ組み合い遊びなどの典型的な遊び、あいまいで非典型的な遊び、そして喧嘩など典型的な非遊びの間を時間的に変動してゆくプロセスとして記述することができる。本研究では、取っ組み合いが遊びから喧嘩になってしまう(エスカレートする)事例と、遊びとして持続する事例のそれぞれについて、参与者の行動とインタラクション自体のもつ情報量の変動として定量化する。参与者間で共有される情報量の大小と遊びの典型性の関係について検討する。

15:50-17:00 テーマセッション (2)

15:50-16:25

「リレー運搬における「手応え」と掛け声のタイミング ー野沢温泉村道祖神祭りの社殿造りの事例からー」

細馬宏通 (滋賀県立大学)

物を手渡しで次々と運搬していく「リレー運搬」では,目視や掛け声だけでなく,物に触れたとき,持ったときの「手応え」が重要な手がかりとなる.野沢温泉村の道祖神祭りでは,高さ8mほどの社殿屋上に薪や奉納品を運ぶ作業が毎年行われ,はしご段に6-7人が上下に並んで社殿の屋上に物をリレー運搬する.本発表ではこのリレー運搬を題材に,メンバー配置の差,運ばれる物品の形状の差に注目しながら事例を比較分析し,物体のもたらす「手応え」と掛け声のタイミングとの関係を考察する.

16:25-17:00

「《日常の行為とその周りの人々 - A-Z, a-zから考える》の分析」(予稿PDF)

北堀あすみ,松井茂,城一裕 (情報科学芸術大学院大学)

本研究では,発表代表者による修士修了制作の映像作品《日常の行為とその周りの人々 - A-Z,a-zから考える》を対象に,日常の行為に基づく「接触によるコミュニケーション」という視点から分析を試みた.対象とした本映像作品は,発表代表者の日常を基盤とした28の単独行為を捉えた「A-Z」と,街頭の人々と発表代表者共が行った26の共同行為を捉えた「a-z」から構成されている.分析の前提として,ウィリアムスによるコミュニケーション形態の分類を踏まえ,「A-Z」を個人完結型,「a-z」を対人・小集団のコミュニケーションと位置づけている.行為直後に記した動機や感想等のコメンタリーを分析し,日常生活における触覚によるコミュニケーションの役割を考察した結果,接触を中心とした一人称のコミュニケーションが,ありえるかもしれない別の身体感を体験として理解したこと,および,接触を中心とした複数名によるコミュニケーションが自発的な行為と解放感を促したこと,が明らかとなった.

17:10-18:20 一般セッション (2)

17:10-17:45

「作業空間の間合い−作業時間と余暇時間のうつりかわり−」(予稿PDF)

大西未希 (東京大学)

人びとが集まり,同じ目的を持って同空間で作業をすることがある.そこで人びとは常に集中して作業を行っていることはなく,会話をしたり,短い休憩をはさんだり,時に目的に関係のないことを行ったりし,作業に戻るという行為が繰り返されている.ここではそれぞれが,その空間で行われる主要な行為の転換が許される間合いをはかっていると考えられる.本研究では創作活動を行う集団のなかで行われる主要な行為が転換する場面の相互行為を分析し,彼らがいかに間合いをはかっているかを検討する.

17:45-18:20

「雑談における讃岐方言ナ行音終助詞の出現の観察」(予稿PDF)

乙武香里 (国立国語研究所)

讃岐方言の雑談におけるナ行音終助詞(間投助詞, 感動詞を含む)の出現状況を報告し,「一体感」や「ターン保持」の観点から,話し手と聞き手との間合いについて考察する。特に, 間投助詞の「注意喚起」,「発話埋め合わせ」(宇佐美1997)としての出現に注目し,参与者が協同して即興で作り出す雑談という会話の中での間投助詞の出現要因について考える。そして,一要因として,「発話のリズム調整」を提示する。