第10回研究会

第10回研究会では,「拡張された身体と間合い」というテーマを設け,加藤文俊氏(慶應義塾大学),野中哲士氏(神戸大学)の2名に招待講演をお願いしました.


  • テーマ趣旨

日常の中で道具や乗り物などの人工物を操作することはよくある。日常生活で使うお箸やペンなど、スポーツで使うラケットや竹刀などに加えて、職人が使うチェーンソーや金づちなど、医療・福祉の現場で使われる義手やパワーアシストスーツなどもある。より大きな物としては、車の運転は多くの人が経験するし、ショベルカーや戦闘機などを操縦する人もいる。SFの世界ではガンダムも人が操作する人工物である。これらの人工物はいずれも、自己の身体の「先」にあり、かつ、自己によって制御可能な存在である。このような人工物が介在する状況について、たんなる知覚の拡張としてではなく、人工物が介在した先にある環境や他者とのインタラクションに焦点を当てて議論したい。

  • 日程

2018年1月28日(日)10:30-17:30

  • 場所

慶應義塾大学三田キャンパス 大学院校舎1階313教室

  • テーマ

「拡張された身体と間合い」および一般

  • 招待講演

    • 加藤文俊氏(慶應義塾大学)

    • 野中哲士氏(神戸大学)

  • プログラム

10:30-11:50 一般セッション(1)

10:30-11:10

「横浜スタジアムから甲子園を目指す-The Pride of Kanagawa-」(発表原稿PDF)

永山友子(神奈川大学)

本研究は、第99回全日本高等学校野球選手権大会神奈川大会において、優勝した横浜高校がポジショニング(Waring, 2017:148)される過程を追う。ポジショニングは、「境界線」を描く行為である。「境界線」は、展開していくストーリーラインに沿って、話者が自己及び他者を位置づける物差しである。「境界線」を描く行為は、話者が物差しに沿って自己と他者の隙間を図りながら、間合いを作り出してやり取りを進める「リーリング」(reeling)である。

11:10-11:50

「話し合いにおける参与者間の間合い~話し合いの相移行期の考察(1)~ 」(発表原稿PDF)

水上悦雄(情報通信研究機構)

本発表では、合意形成や問題に対する解決策の提案などの目的をもったグループディスカッションに見られる停滞や葛藤、衝突や協調などの相移行期に見られる参与者間の間合いの取り方に焦点をあてる。三人以上で話し合われるグループディスカッションにおいては、時として意見を出すメンバーが固定する場面がある。二者の間で陣形が固定し、視線までもが固定するような場面において、他の参与者は二人の間合いに入っていけない。その間合いが変化する過程について、話し合いの相転移(移行)の文脈から考察する。

13:00-14:20 一般セッション(2)

13:00-13:40

「熟練ドラマーの正確な演奏はどのように実現されるのか ―床反力データを用いた姿勢制御に関する検討―」(発表原稿PDF)

谷貝祐介,古山宣洋,三嶋博之(早稲田大学)

ドラム演奏では、正確な「間」を維持し続けることが要求される。こうした正確さはどのような運動によって実現されているのだろうか?本研究では、ドラム演奏時の打圧データ、床反力データを計測し、ドラム熟練者・初心者の比較を行った。床反力データの面積、主成分分析を用いたベクトルの安定性の検討から、ドラム熟練者の運動はダイナミックでありつつも、ドラムに対して一定の運動方向を維持しながら演奏をしていることが明らかとなった。

13:40-14:20

「認知症高齢者と介護職員の役割交代における動作の時間構造」

細馬宏通(滋賀県立大学)

介護場面において、高齢者に何ができ、何ができないかを見極めるのは職員にとって簡単ではない。「高齢者にできることは何か」が更新される場面の一つに高齢者と職員間の役割交代がある。本研究では、紐を結ぶ作業場面で、介護者:結び手/高齢者:支え手という役割が突然交代する事例を分析することで、自発的で微細な動作がいかに相互行為の時間に組み込まれるかを考察する。

14:30-15:30 招待講演(1)

「〈モノ〉をとおしてコミュニケーションを考える」

加藤文俊(慶應義塾大学)

私たちのコミュニケーションが必ず〈いつか・どこか〉で実現することをふまえると、コミュニケーションは、時間と空間のありようを調整する、絶え間ない場づくりの試みとして理解することができる。場づくりには、さまざまなモノ(人工物)が重要な役割を果たしているが、本講演では、とくに「移動体」に着目しながら実践したプロジェクトを事例に、「拡張された身体と間合い」というテーマに接近してみたい。

15:40-16:40 招待講演(2)

「乳児の日常道具使用の発達とその環境」

野中哲士(神戸大学)

人の行為は同じ目的を非画一的な仕方で達成する「柔軟性」と呼ばれる性質を持つ.近年,柔軟な行為やその発達に,探索的な動作やその変動が貢献するという事実が報告されている.日常生活行為に乳児が道具を使用するようになる過程で,探索や豊かな変動を示す動作が生起する機会はどのようにして乳児に与えられているのだろうか.また,そこでは養育者がなんらかの役割を果たしているのだろうか.本発表では,道具を使い始めた乳児のまわりで起こっている出来事について,養育者との共同行為に注目して記述した一事例を報告する.

16:50-17:30 テーマセッション

16:50-17:30

「理学・作業療法士によるハンドリング技術の分析」(発表原稿PDF)

宮本一巧(地域医療機構りつりん病院/早稲田大学)

理学・作業療法士は治療の中で、身体に直接的に手を添え、動作・行為の遂行を支援していく場面が多々ある。このような直接的な徒手的介入によって対象者を操作・支援することの総称をリハビリテーション領域では「ハンドリング(handling)」という。しかしながら、その技術は経験主義的な部分に負うところが多く、技術を伝達していくには困難を伴う。本研究は、リハビリテーション領域での起立動作の治療に対するハンドリングにおいて、運動学的なデータから熟練者と非熟練者を比較することで、治療者と患者間の協調関係に着目して、熟練者が持つ特徴と、そこから推測できる技術の「コツ」を検討した。