第19回研究会

第19回研究会では,「教え手と学び手の間合い」というテーマを設け,木村健一氏(公立はこだて未来大学)と粕谷圭佑氏(奈良教育大学)に招待講演をお願いしました


  • テーマ趣旨

例えば伝統芸能の稽古やスポーツのトレーニング,学校教育などの場面においては,教え手と習い手(学び手)のあいだでリアルタイムに生じるインタラクションをとおした教育・学習がおこなわれている.そうした場面では,「何を(what)教えるか/学ぶか」だけでなく「どのように(how)教えるか/学ぶか」が問題となる.後者の問題の一つとして,教え手と学び手が,互いにいかなる間合いをとりあうかが重要となるだろう.教え手は,教えるためにさまざまな工夫をこらし,学び手に働きかける.他方,学び手は,そうした教え手の働きかけを受け取り,自らの行為に反映することで学習を積み重ねていく.今回の間合い研では,教え手がいかにして学び手に働きかけるかという点に加え,学び手がいかにして教え手の働きかけに反応し,自らの行為に反映するかという点にも焦点を当てながら,教え手と学び手の間合いについて議論してみたい.

(企画者:坂井田瑠衣(公立はこだて未来大学))

  • 日程

2021年9月25日(土)9:45-18:20

  • 場所

オンライン開催(Zoomを使用)

  • 参加費用

無料

  • テーマ

「教え手と学び手の間合い」および一般

  • 招待講演

    • 木村健一氏(公立はこだて未来大学)

    • 粕谷圭佑氏(奈良教育大学)

  • プログラム

9:45-9:50 開会挨拶・事務連絡

9:50-10:30 一般セッション

9:50-10:30

「シニア世代の英語学習・英語使用についてのナラティブ分析 ―70代女性は老後余暇の英語学習・英語使用をどう捉えているか―」(発表原稿PDF)

山本由実(立命館大学)

本発表は、70代女性の英語学習・英語使用にまつわるインタビュー・ナラティブを分析し、その中で自己をどのように位置づけているのかを論じるものである。近年、人気を増すシニア世代の英語学習・英語使用の実態を質的なアプローチから検証することは、高齢化社会において多くの人々が生きがいを持って暮らせる社会を実現するための一助となる。使用したインタビュー・データでは、40歳程年齢差のある調査者と研究協力者の「間合い」にも興味深い特徴が見られた。

10:35-12:00 テーマセッション「教え手と学び手の間合い」(1)

10:35-11:15

「ガイドされた白杖でのタッチにおけるガイダンスとデモンストレーション」(発表原稿PDF)

南保輔(成城大学),西澤弘行(常磐大学),岡田光弘(成城大学ほか),坂井田瑠衣(公立はこだて未来大学)

視覚障害者は,外歩きで白杖を使う。ある歩行訓練場面において,歩行訓練士が視覚障害者の握っている白杖をつかんで,動きとタッチをガイドする事例が見られた。比較すると,「デモンストレーション」となっているものと「ガイダンス」に留まるものとが区別できる。本発表において,タッチという動きへの,訓練士と障害者の「間合い」の差異という観点としてこの違いを考察してみたい。

11:20-12:00

「複数の学び手がいる場での役割に応じた身体の位置取り」

榎本美香(東京工科大学),伝康晴(千葉大学)

複数の学び手がいる場合、教室の授業のように教え手が一斉に教える以外に、学び手の一人に直接教えつつ他の学び手にそれを見せるやり方(オープンコミュニケーション(OC)方式)がある。本研究では、野沢温泉の祭りの準備作業のフィールドを対象とし、手仕事の学びによくみられるOC方式の教授場面に着目し、直接教えられる学び手とそれを見て学ぶ学び手という役割に応じて、身体配置の「間合い」を相互に調整していることを示す。

13:00-14:00 招待講演1

「いけばなの「草木の出生」と「からだ」に貞く」

木村健一氏(公立はこだて未来大学)

いけばなの稽古は、師匠が主宰する社中の中で、年齢も経験年数も異なる弟子達が一緒に草木を生ける学びの機会である。稽古は弟子が生けた後に、師匠による講評と身体操法の見本を示す「手直し」で成り立っている。師匠は弟子が自身のからだに貞き、草木の出生に呼応してどのように生けるべきかを例示する。いけばなの最も古い様式「立花」の稽古における草木を「撓める」ことに注目し、からだとの相互影響関係について述べる。

14:10-15:35 テーマセッション「教え手と学び手の間合い」(2)

14:10-14:50

「ものづくり技能の身体動作教育における学習者と教授者の共感についての一考察」(発表原稿PDF)

松浦慶総(横浜国立大学)

ものづくり技能に関する既往研究では,そのほとんどは計測技術に依存した成果物の評価と熟練者と学習者の動作比較を行っている.実際には,どのように身体を動作すれば成果物の品質向上に必要な道具の操作を行えるかが習得には重要である.この身体動作時にどの身体部位のどのような感覚情報に注意を向ければよいかは,学習者はほとんど気づくことができない.この気づいた感覚情報を基に技能動作をイメージすることを共感とすれば,共感の状態が「間合い」と言えると考える.本研究では,技能動作に関する気づきを創出する教育支援手法を提案することで,教授者のみが共感する「間合い」から学習者も主体的に共感できる「間合い」への移行とその学習効果について考察する.

14:55-15:35

「身体動作にかかわるインストラクションにおける間合いの形成 —動きを合わせる資源としてのオノマトペと掛け声—」(発表原稿PDF)

安井永子(名古屋大学)

身体の動きが中心となる活動(ダンス、スポーツ、楽器の演奏など)のインストラクションでは、しばしば教え手による実演がなされる。そして、多くの場合、実演によって示された動きと同様の動きを、学び手が単独で模倣したり、教え手と同じタイミングで産出したりすることが求められる。本研究では、日本舞踊のインストラクションで、教え手と複数の学び手とが身体動作の産出タイミングを調整するための「間合い」を、オノマトペと掛け声(「よいしょ」)がどのように形成するかに焦点を当てる。

15:45-16:45 招待講演2

「保育者と園児の間合い:教示の協働的達成はいかに成し遂げられるか」

粕谷圭佑氏(奈良教育大学)

幼稚園の活動には、保育者の呼びかけに対する決まった返事をしたり、活動の転換時に決まった順序で整列したり、様々なお決まりのルーティン的なやりとりがある。こうしたルーティン的なやりとりは大抵スムーズに遂行され、幼稚園の日常的な活動に一定のリズムを生み出しており、保育者と園児たちの間の「関係性」と呼べるような独特の(広義の)「間合い」を感じさせる。本報告では、入園したばかりの園児に対して、こうしたルーティン的なやり取りが教示される場面を検討する。特に、保育者が、園児の反応に即して、ひとつひとつの指示を積み重ねつつ再構成していく過程に着目することで、教示場面における(狭義の)「間合い」について考察したい。

16:55-18:20 テーマセッション「教え手と学び手の間合い」(3)

16:55-17:35

「身体運動の指導場面における生徒による課題移行とその管理」

李榮賢(神戸大学)

スポーツを「教える-学ぶ」場面では教師に課題内容の選択や時間・空間の管理が委ねられる。本発表で取り扱うポールスポーツのレッスン場面では教師は課題を設定し、順次に技やその他の身体技能を教示するが、これを指導単位の連続としてみる。レッスン場面で教師はいかにして指導単位を管理するのか、そして、生徒による課題の移行が行われた場合、教師がいかなる対応をするか、また、各参加者間の位置関係、道具との配置のような空間的な間合いがいかに調整されるのかをビデオデータの詳細な分析によって行う。

17:40-18:20

「空手の形(かた)の稽古に用いられる「号令」:実在しない相手との「間合い」」(発表原稿PDF)

名塩征史(広島大学)

本研究は、年少者向け空手教室における稽古のマルチモーダル分析を通して、指導者である師範が複数の習い手に対して行う指導行為がどのような言語と身体の協調によって実践されているかを明らかにしようとするものである。本発表では、形(かた)の稽古の際に師範が発する「号令」に焦点を当て、空手における「間合い」との関連からその稽古中での役割と形の習得に向けての実践的な意義について考察する。