第22回研究会

第22回研究会では,「演出としての間合い」というテーマを設け,倉本幸弘氏(森鷗外記念会常任理事(専門・国文学))と樫村芙実氏(東京藝術大学美術学部建築科准教授)に招待講演をお願いしました.


アメリカの音楽家ジョンケージは、1952年に3楽章から成る楽曲「4分33秒」という曲を作曲し、初演しました。楽曲である4分33秒間、一つの音も発されることなく終了します。4分33秒という作曲=間合い=演出を作りだすことで、観客に普段は知覚しない音を呈示したことは、その間合い自体に意味を見出す、新しい概念のように思います。
例えば、建築の茶室などにおいても、茶室までの飛び石の配置などでそこへ向かうと人の心情を高める演出に間合いを用いています。同じことは、美術・文学などの他の芸術領域においても言えそうです。
本研究会では、このような「演出としての間合い」について想いを馳せ、議論したいと思います。

(企画者:小野亜貴子(東京工業大学))

2023年4月23日(日)9:50-18:10

東京工業大学 大岡山キャンパス 緑が丘6号館 緑ヶ丘ホール

無料

「演出としての間合い」および一

倉本幸弘氏(森鷗外記念会常任理事(専門・国文学))「平家物語から「扇の的」を読む」

樫村芙実氏(東京藝術大学美術学部建築科准教授)「小さな空’間’の連なり〜京都のー茶室を例にして〜」

09:50-09:55 開会挨拶・事務連絡

09:55-12:00 テーマセッション「演出としての間合い」(1)

09:55-10:00 テーマ趣旨説明

小野亜貴子(東京工業大学)

10:00-10:40

「吉増剛造を身体的に追体験する -窓への写経を通じて言葉の音や形から多様な意味を発見する-」(発表原稿PDF)

今宿未悠,諏訪正樹(慶應義塾大学)

筆者は、詩人・吉増剛造の詩集『voix』を読み経験するために、詩のテクストを窓に写経したり、『voix』が書かれた石巻市にてフィールドワークを行うなど、吉増の詩作を追体験し「取り憑こうとする」様々な実践を行った。
本研究は、それら実践の過程で生じた物事を一人称視点から論じるものである。実践を通して、筆者は吉増の詩の言葉に対し、意味を解釈しようとする範疇を超え、より原初的な音や形を身体的に感じるようになった。

10:40-11:20

「現代音楽作品における奏者の「Group Creativity」導入 –3作品の記譜分析を中心に–」(発表原稿PDF)

小栗舞花(作曲家)

現代音楽の新作発表の現場において、まだまだ作曲家個人の意図を奏者が再現する双方の態度が根強い。私は、人間である奏者が本来持ち合わせている集団の見計らいから一つの音楽をその場で立ち上げる性質を活かし、「今ここ」の調和・柔軟さと、作曲の良さである万全さや個人による作り込みの両立を提案する。
本研究では、奏者同士の相互作用的判断によって、演奏の瞬間に初めて音が確定する機能を持つ、譜面の「余白」に焦点をあてて、既存の現代音楽作品3つの分析を行った。

11:20-12:00

「間と余白の美―包括的・分析的認知処理が俳句評価に与える影響の予備的検討」(発表原稿PDF)

櫃割仁平,野村理朗(京都大学)

水墨画や生け花,俳句など,日本の美意識において「間」や「余白」の重要性が繰り返し説かれてきた。その一方で,なぜ日本人は余白に美を見出すかという問いに対する認知科学的な説明はほとんどなされこなかった。予備的検討では,包括的・分析的認知処理という東西で文化差が知られている個人特性に着眼した。その結果,包括的認知処理を行う参加者ほど,俳句の評価が高かった。この結果をもとに,間と余白の美を研究する基礎となる話題を提供したい。

13:00-14:00 招待講演(1)

「平家物語から「扇の的」を読む」(レジュメPDF)

倉本幸弘氏(森鷗外記念会常任理事(専門・国文学))

我が国の古典文学の中に、〈軍記物〉と呼ばれている作品群がある。その中で、最大にして、最も優れたものとして、今日に至るまで、様々な形で、享受され続けている『平家物語』を取り上げ、さらにその中から、合戦中の小さな逸話ではあるが、人々にもよく知られ、国語教材としても採用され続けている「扇の的(那須与一)」を読み解くことで、今回の「演出としての間合い」というテーマに応えたいと考えている。

14:10-15:10 招待講演(2)

「小さな空’間’の連なり〜京都のー茶室を例にして〜」

樫村芙実氏(東京藝術大学美術学部建築科准教授)

建築図面に描かれた線は、そこに「ある」壁、屋根、床を表すと同時に、その間に「何もない」ことも表現しています。また、そこに雨が降ると、軒先に垂れる雨粒は新たな壁/カーテンとして出現し、その空間を柔らかに閉じ、床の石畳を濡らし、その空間を変容させます。このような「計測できない・図面に記せない要素が作る空間や居心地」とは何なのか。これを「木陰のような建築」と呼ぶことで、それを想起させ補完する建築の例を、京都の珍散蓮に見いだし、それを例にお話します。

15:20-16:40 テーマセッション「演出としての間合い」(2)

15:20-16:00

「声優とアニメキャラとのつながり及びその切断に関する一考察」(発表原稿PDF)

楊留(筑波大学)

声優は作品から離れたシチュエーションでも、キャラを演じるように求められることがある。一方、キャラの再現を求められる場において、声優がいない・出演できない状況もしばしば起きている。本研究は声優がキャラを演じることによって前景化されるキャラと観客との隔たり、及び、声優の不在によって生じた新たな隔たりとの両方を、いずれも間合いとして捉える。その上で、アニメ作品のプロモーションイベントにおいて、運営者・出演者・観客が協働的にキャラを構築していく事例の記述を試みる。

16:00-16:40

「マンガのフキダシに示された三項関係はいかに間合いを生むか」

細馬宏通(早稲田大学)

従来のマンガ研究では、コマや絵の構造が読書にどう影響を与えるかについてはさまざまな分析が行われてきたものの、フキダシによって読書がどのような間合いで進むかについてはほとんど考察されてこなかった。本発表では、行為分析の知見を用いて、フキダシにより登場人物たちがどのように話者・聞き手・注意対象の三項関係を構築するかを記述し、それがコマ間の視線移動をどのように誘導しているかを論じる。また、この方法によって、マンガ史でしばしば比較の対象となってきた戦前、戦後の代表作、宍戸左行『スピード太郎』、大城のぼる『汽車旅行』、手塚治虫・酒井一馬『新宝島』を分析し、これらの表現の差を明らかにする。

一般セッション 16:50-18:10

16:50-17:30

「ホストクラブでの接客場面における間合いの揺らぎ」(発表原稿PDF)

福原龍志(千葉大学)

本発表では,ホストクラブでの接客場面における間合いの揺らぎについて報告する.特に,共感できない話題に対して生じた,ホストとゲストの関係性の醸成に関わる間合いを検討する.ホストクラブでは初回来店時における各ホストの接客時間が限られているため,ゲストの共感を得られない話題,つまり発展する兆しのない話題については,緊張や気まずさを生み出すためか,早々に切りあげられる傾向にある.そのような緊張した場が間合いの揺らぎを生み出し,関係性の醸成に係る多様な相互行為を生じさせることを相互行為分析の手法によって記述する.

17:30-18:10

「スキージャンプの技術トレーニング場面におけるコーチと選手のトランシーバーを介した会話の様相」(発表原稿PDF)

三好英次(東京国際大学),金子元彦(東洋大学),岡本能里子(東京国際大学)

スキージャンプのトレーニングでは、試技後に行われるコーチと選手の交信は物理的に遠隔した状況で行われるため、技術指導にトランシーバーが使用されることが多く、コーチと選手のやりとりは言葉のみで行われる。筆者は実際の両者の会話を録音し分析を試みている。そこには、実行された試技に対する双方の評価、コーチの問いかけ、選手自身の意図や感覚についての発言が相互に交わされつつ、次の試技への志向が探索され、コーチから提示されていた。本発表ではそれら事例の一部を紹介したい。