第11回研究会

第11回研究会では,「間合い,AI,環世界」というテーマを設け,三宅陽一郎氏(ゲームAI開発者),釜屋憲彦氏(環世界研究室)の2名に招待講演をお願いしました.


  • テーマ趣旨

ユクスキュルは「環世界」という概念で生物学に主体を持ち込みました。一方,「間合い」は主体が感じる心理的な距離でもあります。ですから,「間合い」と「環世界」は関連の深いテーマです。しかし,ユクスキュルは主体を導入したものの,主体と主体の間のインタラクションについては考えませんでした(ユクスキュルの著書には,気味の悪いぐらい「他者」が出てきません)。その点,間合いが問題になるのは,多くが個体間距離の文脈です。「間合い」と「環世界」を関連させて論じることで「環世界」概念を拡張することができるかもしれません。
三宅さんの問題意識は,ゲームにおいて「どのように生物の持つ主観世界を形成すればよいか」です。では,ある一つの主観世界を構成できたとして,それら主体同士の心理的距離(「間合い」)はどのように実現される/されない,のでしょうか。そのことから,現実の「間合い」の理解はどんなふうに深まるのでしょうか。また,「環世界」概念はどんなふうに豊かになるでしょうか。今回の研究会を通して,そんなことを議論できたら面白いだろうと考えています。

  • 日程

2018年5月26日(土)13:00-17:10

  • 場所

慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎514教室

  • テーマ

「間合い,AI,環世界」

  • 招待講演

    • 三宅陽一郎氏(ゲームAI開発者)

    • 釜屋憲彦氏(環世界研究室)

  • プログラム

13:00-14:00 招待講演(1)

「動物の間合い ―環世界の視点から―」

釜屋憲彦氏(環世界研究室)

生物は種によって様々な知覚器官をもち、周囲環境への意味づけが異なるため、それぞれが独自の現実(環世界)を体験している。今回、このユクスキュルの「環世界論」に“間合い”という新しい動的・空間的視点を加え、ある動物主体がどのように客体と間合いをはかり、戦略的に自然界を生き抜いているかを議論したい。事例として、ハエトリグモの捕食行動や鳥・昆虫の群れを挙げながら、かくれた間合いを見ていく。

14:05-14:45 テーマセッション「間合い,AI,環世界」

14:05-14:45

「ニホンザルの闘争遊びにおける間合い」(発表原稿PDF)

壹岐朔巳(総合研究大学院大学/東京大学),長谷川寿一(東京大学)

ユクスキュル曰く、動物同士が出会うとき、各動物主体は意味関係によって結び付けられ、個々の環世界の枠を超える「生の場面」が引き起こされる。生の場面は各動物に付与された役割によって構成され、役割は動物の行動を規定する。ヒトの相互行為では、互いの関わり合いの状態を表示する「参与枠組み」が身体間の距離や向き(=間合い)を通じて確立され、コミュニケーション相手に期待する役割や行動が明示化されていることが指摘されてきた。本研究では、ニホンザルの闘争遊びを分析対象に、ヒト以外の霊長類のコミュニケーションにおいても参与枠組みに基づく行動協調が行われている可能性を検討する。

15:00-16:00 招待講演(2)

「人工知能における時空間インタラクション」(講演資料[前編])(講演資料[後編])

三宅陽一郎氏(ゲームAI開発者)

知能の質は、その生物の周囲の環境において、どれぐらいの時間スケールを支配し、どのような空間を活用できるか、という時空間の統治に拠って特徴付けることができます。人工知能もまた同様であり、人工知能の性質とは、時間を支配するにはより長い時間と稠密な記憶と予測が必要であり、またどのような空間を認識し、その空間を活用した行動を構築できるかにかかっています。ゲームキャラクターの人工知能はこの時空間インタラクションの構築にかかっていると言っていいでしょう。今回は生物とゲームキャラクターを比較しながら、この時空間インタラクションについて探求して行きたいと思います。

16:10-17:10 総合議論