第9回研究会

第9回研究会では,「建築空間における間合い」というテーマを設け,藤井晴行氏(東京工業大学),鈴木毅氏(近畿大学),松永直美氏(レモン画翠)の3名に招待講演をお願いしました.


  • テーマ趣旨

間合いは人と人のあいだに生起するものだけではないかもしれない。人がある空間に居心地の良さを感じているとき、その人はその空間構成やしつらえに対して適正な間合いをうまく取れているのではないか? 空間(それを形作るモノ)と人のあいだにも「間合い」は存在するのかもしれない。そういう仮説の基、今回のテーマを立ててみた。建築の空間構成やしつらえがそこにあるがゆえに、人と人のあいだで特別なる間合いが発生するということも含めて、建築空間と人(複数)のあいだに生起する多様なる関係性に想いを馳せ、議論したい。

  • 日程

2017年10月14日(土)11:00-17:40

  • 場所

慶應義塾大学三田キャンパス南校舎4階442教室

  • テーマ

「建築空間における間合い」および一般

  • 招待講演

    • 藤井晴行氏(東京工業大学)

    • 鈴木毅氏(近畿大学)

    • 松永直美氏(レモン画翠)

  • プログラム

11:00-12:20 一般セッション(1)

11:00-11:40

「ハンドボールの試合における得点と失点に関与する要因」(発表原稿PDF)

橋詰謙(大阪大学)

対人スポーツは,両者の距離感や攻撃のタイミングといった間合いに関するテーマの宝庫である.チームスポーツにおいても両者の関係性が勝敗を決定づけると考えられるが,こうした視点からの研究は余りない.本研究では,ハンドボールの試合結果に対して両チームの好調期と不調期の関係性が深く関わっていることを示す.具体的には,日本代表戦など20試合をビデオ撮影し、試合中に生起した事象(EV:得点,シュートの失敗、テクニカルミス、反則)の配列に基づいて,3期(連続得点期、EV混在期、攻撃停滞期)を同定した.得失点数は各チームの連続得点期の長さに強く関係したが,試合の様相を表す得失点差には,両チームの連続得点期と攻撃停滞期が重なる程度などが非常に強く関係していた.

11:40-12:20

「モノや社会を認識する脳の入出力を回路とシステムでモデリング」(仮)(発表原稿PDF)

池田雅春(アナロジィ&アーツ)

脳神経回路と繋がる操作(運動/行為)系と感覚系が外界と相互作用する様子を回路表現し、その多様な場面での振る舞いを通信制御システムの知見で、特に、閉ループの観点で分析したい。脳は運動系にその操作信号を出力し、一方で、感覚系からの信号は脳に入力される。身体は操作量に応じた物理的変位を対象に与え(一人称)、対象はその属性に沿った反射を環境(社会を含む)にもたらす。環境を構成する周囲(三人称)は、その持ちうる感覚モダリティでそれらを受け取り、操作者との関係性で各別に解釈され、物理的変化で反応し、操作者はそれらを感覚系を介して受け取る。例えば、エコーロケーションは、視覚障碍者が環境に音響波を発し、その環境固有の音響伝達特性を感覚系で受け取り、それらを解釈することで、障害物などの空間的属性を察知する。

13:30-14:10 一般セッション(2)

13:30-14:10

「「何が始まるか」を伝える一振り:年少者向け空手教室における個別指導の間合い」(発表原稿PDF)

名塩征史(静岡大学)

ある年少者向け空手教室において、師範が一人の練習生に対し即興で個別指導を行おうと、その練習生と向かい合った。その瞬間には「間合い」、すなわち、「何かの始まりを予感させる身体配置」が師範と練習生との間に見受けられるが、実際にどのような指導が始まるのか、両者の間で十分な共通理解に達しているとは言い難い。本発表では、この間合いから繰り出される師範の次なる腕の一振りに注目し、その一振りが伝達する多様な意味が、間合いに対する練習生の不確かな認識を補完し、後続する身体的相互行為(個別指導)の共創に寄与していることを示す。

14:20-15:20 招待講演(1)

「人の「居方」にみる「間合い」」

鈴木毅氏(近畿大学)

人がある場所に居る風景や状況を「居方」と捉え,建築や都市の様々なフィールドで事例を収集・分類・分析してきた。たとえば「思い思い」「居合わせる」「たたずむ」「あなたと私」「行き交う」と名付けた居方の中には,単なる当人同士の距離だけではない独特の関係性や認識が含まれている(おそらく他者の居方は人が環境を認知する時の重要な材料になっている)。この認識と「間合い」の関係について検討してみたい。

15:30-16:30 招待講演(2)

「「間合い」と「魔合い」 —世阿弥以降の能舞台様式の変化と『序破急五段』の関係性から—」

松永直美氏(レモン画翠)

能における謡、囃子、舞には、「間」と「魔」がある、といわれている。世阿弥が「能の文法」として確立した『序破急五段』から、能舞台と囃子・舞の関係性を3DCGと統計学の手法を用い、能舞台様式変化の要因を探る研究を行った。能舞台には〈序破急〉のエリア(序域・破域・急域・序所・破所・急所)があり、その各々の場所に約束事となる演出方法があり、それらを利用することで多大な演出効果をあげる工夫がある。得られた知見から能と能舞台空間における「間合い」と「魔合い」に着目したものを紹介する。

関連文献松永直美・矢吹信喜・亀山勇一・福田知弘 (2016). 世阿弥以降の能舞台様式の変化と『序破急五段』の関係性の研究. 『日本建築学会計画系論文集』, 81 (728), 2317-2326. https://www.jstage.jst.go.jp/article/aija/81/728/81_2317/_article/-char/ja/

16:40-17:40 招待講演(3)

「一人称の空間と三人称の空間の関係性」

藤井晴行氏(東京工業大学)

三人称の視点では私たちは物差しを用いて測ることができる数学的な空間に居る。しかし、私たちが一人称的に経験している具体的な空間は、三人称的な空間と密接な関わりを持つけれども、三人称的空間そのものではない。経験される一人称的な空間と客観的に計測される三人称的な空間とを橋渡しする「空間図式」という概念を紹介し、「間合い」と関連づけて議論することを試みる。また、建築空間や都市空間の日常的な経験から空間図式を抽出する研究活動についても触れる予定である。