第6回研究会

  • テーマ

「意識・体験・主観へのアプローチ」および一般

われわれにとって、ものごとの認識は単に外在するものを正確に記述するだけではなく、自身の目的、志向、見方によっていかようにも変化しえます。こうした性質のため、主観・体験・意識というものはとらえどころがなく、一見、科学的な手続きの対象にならないようにさえ思えます。多くの心理学・認知科学的な研究は、客観的な対象を刺激として、それに対応する表象との対応関係を調べるものです。これに対して、外在物との対応が揺らぎうる、対応の存在が未知、あるいは本質的に無関係かもしれない意識・体験・主観を扱う方法論は未だ発展途上です。近年では、脳科学、認知心理学、人工知能、など多くの分野を巻き込んで意識・主観を正面から扱う分野が生まれつつあり、今回はこうした分野で先端的な研究を行っているお二人をお招きして、意識・主観研究の方法論や発展性について活発な議論を行いました。

  • 招待講演

    • 金井良太氏(アラヤブレインイメージング)

    • 高橋康介氏(中京大学)

  • 日程

2016年10月22日(土)10:30-17:40

  • 場所

慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎 6階 467教室

  • プログラム

10:30-11:40 テーマセッション「意識・体験・主観へのアプローチ」(1)

10:30-11:05

「身体知の熟達とその段階モデル 言語化の有効性に関する実践的検証」(予稿PDF)

山田雅敏(常葉大学),里大輔(常葉大学),坂本勝信(常葉大学),小山ゆう(常葉大学),松村剛志(常葉大学),村本名史(常葉大学),砂子岳彦(常葉大学),竹内勇剛(静岡大学)

先行研究では,一人称視点から記述された主観的な言語化が,身体知の熟達に有効なツールであるとの仮説が提唱されている.一方,これらの諸研究は,実践的検証の段階において,教授者とのインタラクションや,言語化を統制した学習者との比較など,現象学が多くを語らぬ重要な他者性について,十分な議論がなされておらず,再考の余地があるものと考えられる.そこで,研究代表者が構築した身体知の熟達に関する数理モデルをもとに,疾走の実践的検証を行なった結果,促進群と統制群ともに,最終的には有意に熟達したが,知覚学習の探索行動に差異が示され,段階的には先行研究の仮説を裏付ける結果となった.また,微視的な分析として,促進群の言語化を分析したところ,体感や知覚に関するパラメータと熟達度合に強い相関が確認された.これらの結果を踏まえ,身体知の新たな水準を提示した.

11:05-11:40

「ナラティブにおける時系列の談話マーカーへの考察」

豊田典子(明海大学)

古典物理学や私たちの時間の認識は、一方通行と認識されているが、ある事象を語る時には自由な順番で物語ることができる。そして聞き手は多くの手がかり(Time Flagとする)から、物語から事象の順番を再構築できる。言語的、非言語的なTime flagを日英の文章(文学、ブログなど)から取り出し比較考察した。また自然なナラティブプログラミングへの応用を視野に入れ枠組みを考察していきたい。

12:50-13:50 招待講演 (1)

「反実仮想と意識の起源」

金井良太氏(アラヤブレインイメージング)

本講演では、意識の起源は、反実仮想能力の獲得にあるのではないかという推測について議論する。反実仮想能力とは、直接的な外界に対しての判断や知覚に対応していない仮想的状況について内的シミュレーション行うことである。そこへ至る認知能力の獲得には3つのステップがある。感覚情報の構造化(インファレンス・知覚)、感覚運動ループを介した予測モデルの構築(アクティブインファレンス・身体化)、そして、その身体を含む環境モデルを元に反実仮想の内的シミュレーション(反実仮想・思考)表現の獲得である。このような3つのステップを経てエージェントを構築することで、機能的アウェアネスをもつ人工意識の構築の可能性を予想し、またそのような存在が現象的意識を持つのかを統合情報理論の観点から考察する。

14:00-15:00 招待講演 (2)

「認知的錯覚から考える世界と主観のあいだ」

高橋康介氏(中京大学)

錯視は、我々の主観的な知覚が物理世界に密に接するものではなく、環境と対象と我々自身の相互作用から生まれることを教えてくれる。パレイドリアやアニマシーなどの高次な錯視とも呼ぶべき認知的錯覚は、主観の揺らぎ、可塑性、不可逆性などユニークな認知の特性に気づかせてくれる。本講演では、実験心理学的な知見を紹介しつつ、認知的錯覚が世界と主観をどのようにつなぐのか、自由に議論したい。

15:10-16:20 テーマセッション「意識・体験・主観へのアプローチ」(2)

15:10-15:45

「多文化状況での自律的文脈生成プロセスの一人称的記述の試み」(予稿PDF)

河野秀樹(目白大学)

人間の集団に全体的秩序を創出する原理としての「場」(清水, 1996, 1999)の作用による、集合的文脈性の自律的形成プロセスを記述する方法論はこれまで具体的に示されていない。本発表では、同プロセス記述の試みとして、多様な文化背景を持つ個人の集団での活動に観察者が参与しながら間主観的に感じ取ったものを「場」の作用の反映と捉え、これを一人称視点から記述を行った事例を紹介する。

15:45-16:20

「読者の自己変容に関わる熱中状態の研究方法の議論」

布山美慕(慶應義塾大学),日高昇平(北陸先端科学技術大学院大学)

小説を読むことで現実世界や自分自身についての認識が変わるように感じられることがある.こういった自己変容が,読書に熱中し我を忘れる状態と関連して起こることが理論的・実証的に示唆されてきた.本研究では,読者の自己変容に関わる熱中や忘我状態の研究を進めるため,まさに読者自身が変わっているとき,我を忘れているときの認知状態をどのように研究することができるのか,著者らのこれまでの研究成果を踏まえて議論する.

16:30-17:40 一般セッション

16:30-17:05

「化粧行為における施し手の認識とその反映」

天谷晴香(東京電機大学)

顔に化粧を施す過程は、手指や化粧道具によって顔の形状や肌の状態が認識されながら進行していく。自身の顔に施す場合も他者の顔に施す場合も同様のプロセスが起きる。自身の化粧時、化粧行為に特に集中するタイミングを分析で明らかにし、化粧に反映される施し手の認識を探る。他者の化粧時は、施し手と受け手の、互いの認識が化粧行為の過程で共有されていき、結果としてひとつの“ルック”が完成する。知識や気づきが共有されるタイミングを分析する。

17:05-17:40

「相槌のスキル」

伊達理英子(慶應義塾大学),坂井田瑠衣(慶應義塾大学/日本学術振興会),諏訪正樹(慶應義塾大学)

相槌の定義は実に曖昧だ。狭義の相槌は、頷きや間投詞を指す。一方、相槌の語源を辞書でひくと[槌を打ち合わすこと]とある。相手と槌を打ち合わす時は、相手の視線や手の動きなど"身体の醸し出す全体感"を見ているのではないだろうか。そこで、本研究では相槌が頷きや間投詞だけでなく、身体の多様なモダリティによって構成されると考える。第一著者自身の日常会話の映像を撮影し、映像分析ソフトのELANを用いて微視的な分析を行い、相槌の多様性を明らかにする。